COLUMN

2023.07.26

事業ポートフォリオの再定義で高収益化を実現|中期経営計画の参考事例

中期経営計画策定の参考事例を紹介

タナベコンサルティングが2022年12月に実施した企業経営に関するアンケート調査(①を参照)によると、中期経営計画の策定における課題について聞いたところ(アンケート①)、「計画があいまいであり方向性が定まっていない」が15.6%、「時代の変化に追いついておらず陳腐化している」が13.4%という結果であり、中期経営計画を策定したものの、中身に納得感が弱い企業が多いことが伺えます。従って、今回は中期経営計画を作る上でのコアとなるポイントについて解説をしていきます。

【関連ページ】
企業経営に関するアンケート調査レポート 2023年

中期経営計画策定の参考事例を紹介

アンケート:タナベコンサルティング作成

中期経営計画を作る上で大事にしたいポイント

中期経営計画は『どこで戦うか』を企業の意思として示すもの

中期経営計画とは『自社の在りたい姿』と言い換えることができます。つまり、今できていることを計画として落とし込むのではなく、今できていないけれども今後実現したいこと、進んでいきたい方向性を明文化、ビジュアル化して社員に示すものです。また、その中身は改善レベルのマイナーチェンジではなく、改革レベルの大きな方向性を示すものでないと、ステークホルダーや社員からの共感を得ることはできません。つまり、現状を起点としたフォアキャスティングでつくるのではなく、将来の在りたい姿を起点とした"バックキャスティング"でつくるパターンの中期経営計画が現在の主流となっています。在りたい姿でまず考えなくてはならないのは、『どこで戦うか』であり、すわなち社会や顧客のニーズはどこにあるか、『顧客価値は何か』です。今回は、自社の在りたい姿の再定義において、大きく戦う場所(事業ドメイン)の変化を意思決定し変えてきた(現在進行形で変えている)製造メーカー2社の事例を見ながら、中期経営計画の本質を考えていきたいと思います。

事業ドメイン、ポートフォリオの見直しによる事業の再定義

事業ポートフォリオとは?

事業ポートフォリオを再定義し高収益を上げている企業事例

事業ポートフォリオ変革の事例として、ソニーの事例を紹介いたします。事業ポートフォリオとは、企業の事業を一覧化したものを指します。 企業経営において、経営資源を有効活用する目的で、どの事業に経営資源を投入するべきか検討するためのツールとして用いられます。昨今、事業ポートフォリオ戦略の重要性が叫ばれていて、事業ポートフォリオ戦略とは各事業の「勝ち負け」を定量的かつ定性的に分析し、自社の企業価値向上のために事業の「入れ替え」を実行することで、持続的な成長を達成しようとするものです。2012年のソニーの事業構成と事業戦略を見てみましょう。

事業ドメイン、ポートフォリオの見直しによる事業の再定義

図1 出所:ソニー株式会社の2012年度決算説明資料より抜粋

2012年においての事業構成は図1のセグメント情報の通りであり、
・映画・⾳楽・⾦融は安定した収益を確保、⾦融事業が好調(営業利益⿊字化要因)
・エレクトロニクスでは競合(サムスン、アップル等の海外メーカー)との価格競争による収益悪化
・主⼒事業のテレビやゲーム等の事業で営業⾚字、液晶テレビやパソコンなどのエレクトロニクス製品の世界的な消費減速
というような状況で、製品群の過剰による組織の分散化が進み、定まった経営資源が分散し収益力も低い状態でした。

そんな中でソニーが示した方向性として、
・成⻑領域への投資は継続し、事業ポートフォリオの再編、財務基盤を強化する。
・収益構造改⾰への取り組みと⼈員削減を行う
の二つを掲げ、選択と集中として、6つの事業セグメントと成⻑領域でのチャレンジを通じて新しい価値を創出することを標榜しました。⼈財登⽤、事業投資ともに多様性の推進を加速させることにより事業成⻑を図ったのです。テレビやスマートフォンなどの従来の主⼒製品分野から、⾳楽や映画、ゲーム、セキュリティ、⾃動⾞などの新しい成⻑分野に積極的な投資に一層舵を切ったのです。コスト削減と合理化し固定費を削減するために、効率的な⽣産ラインや物流システムなどを導⼊して費⽤を抑制、また、収益性の低い事業から撤退することで経営資源の再分配、集中を行い⽣産性を⾼めました。継続した多⾓化事業への種まき、企業⾵⼟であるチャレンジ精神に基づき、常に市場に新たな価値を創造し続けようとした結果、2022年の事業構成は大きく様変わりしました。

事業ドメイン、ポートフォリオの見直しによる事業の再定義

図2 出所:ソニー株式会社の2022年度決算説明資料より抜粋

2022年においての事業構成は図2のセグメント情報の通りであり、
・ゲーム事業が主⼒事業に成⻑(ゲーム、⾳楽、映画のサブスク化の定着による⾼収益の安定化)
・アニメ関連の事業戦略の成功
・エレクトロニクス分野の不採算を整理、縮⼩させることで収益改善
・スマホ事業は⼩規模継続

このように事業ポートフォリオを変革できている背景として、ソニーのパーパス「クリエイティビティとテクノロジーの⼒で、世界を感動で満たす」を約11万⼈の社員に共有、浸透させ、企業⽂化として定着させていることが挙げられます。パーパスを軸とした⻑期視点の⽬指す姿(VISION) 「戦略・事業・⼈財」が具体的かつ詳細に明⽂化されることで、社員の拠り所となり、その結果社員が⼀丸となって迷わず取り組め、推進力が高まった結果が現在の事業ポートフォリオに表れていると言えます。

【関連ページ】
図1 ソニー株式会社 セグメント情報 出所:2012年度 決算説明会資料
図2 ソニー株式会社 セグメント情報 出所:2022年度 決算説明会資料

事業ポートフォリオ変革事例の二つ目として、トヨタ自動車の事例を紹介いたします。
トヨタの事業ポートフォリオ変革は、ミッションの再定義に基づいています。これまでトヨタは言わずもがなですが、『良いクルマをつくること』をミッションとして掲げ、カローラやクラウン、プリウスといったクルマを世に送り出し続けてきました。しかしながら、GAFA・テスラなどの新興企業の台頭や、コト売りや体験価値の重要性が叫ばれる環境下で、同社は2018年に自動車会社からモビリティカンパニーへの転換を宣言しました。良いクルマというモノづくりではなく、『移動』というコトづくりの追求にフォーカスしたのです。移動の快適さを追求する中で、ハードだけでなくソフトやシステム面での付加価値競争が既に始まっており、100年に一度の大変革の自動車業界には、今後は異業種からの参入もより一層増え、競争は激化していきます。事業ポートフォリオの変革を象徴するプロジェクト「Woven City」はかつて工場のあった、東京ドーム15個分に相当する土地に新たに建設中の街であり、もはや移動という事業ドメインをも越え、街づくりの領域にも進出しつつあります。
今後もトヨタはポートフォリオ変革を、再定義したミッションに基づき力強く進めていくのです。

【関連ページ】
トヨタイムズ「カーボンニュートラル」と「移動価値の拡張」。新経営陣が示した2つのテーマを、一問一答で掘り下げる。

事業ポートフォリオ変革のポイント

まとめ:中期経営計画の本質は事業ポートフォリオ変革の意思表示

中期経営計画を策定する上では、ミッションの再設定からスタートし、『我が社はどこで戦うか』を明確にして、事業ポートフォリオとして意思表示をしてください。事業ポートフォリオ変革とは選択と集中であり、撤退する領域・維持する領域・伸ばす領域を明確にして、そこに向けた経営資源の再分配です。二兎追うものは一兎も得ずは正に経営にも当てはまる格言であり、『我が社はどこに投資をして、どこに投資をしないのか』を明確にしてください。最後に、事業ドメインを再定義し、事業ポートフォリオを組み替えることは、3年スパンでは達成することは難しいです。だからこそ10年スパンの長期的なビジョンが必要であり、10年後の大きな在りたい姿へ向けて、3年×3回転での事業ドメイン再設定、事業ポートフォリオ変革を具現化してください。その中で選択と集中の意思決定、やめることを決めて伸ばす分野・領域への投資判断を実行する、これらのプロセスがまさに今、中期経営計画の中で表現し、実行することが求められているのです。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
ゼネラルマネジャー

伊達 清一郎

産業機械を扱う専門商社で営業、Webマーケティング等での顧客開拓を経て当社に入社。「現場主義」をモットーとし、実践的かつ泥臭いコンサルティングで成果を出すことを信条に活動中。前職で培った、法人顧客を対象としたルート営業・新規開拓営業のノウハウを活かし、BtoB営業力強化、業務改善、マーケティング戦略立案、ビジネスモデル構築等のコンサルティングを得意とする。

伊達 清一郎

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