COLUMN

2023.07.11

計画実行が加速化しない「中期経営計画」とは

  • 中期経営計画の重要性

    中期経営計画とは会社が未来を共有し、未来投資を行ないながら、「なりたい姿を実現してゆくための設計図」と言われています。 また、社員が一つになるための考え方、行動の仕方、数値の基準管理の基準などの価値判断、モノサシが体系化されたものでもあります。

    具体的な中期経営計画には3つのパターンがあります。

    1.「銀行提出用の中期経営計画」
    2.「積み上げ式の中期経営計画」
    3.「ビジョン実現型の中期経営計画」

    銀行提出用では、貸し渋り対策を目的に短期に作り上げるため、中身のエビデンスが整わず単なる数字遊びに終わっている計画が少なくありません。また、積み上げ式では「前年の〇%アップ」がメインとなり、現在のビジネスモデルの延長線上や、無理やり新規事業を追加して組み立てられる場合が多くあります。
    今回は、社員とともにワクワクする未来を描き、しっかりと実行を見据えた「ビジョン実現型の中期経営計画の策定」について解説します。

    中期経営計画策定の目的を明確にする

    中期経営計画策定には様々な目的が存在します。

    1.現状のビジネスモデルの成長過程を考えるとビジネスモデル転換が必要
    2.業績が良いうちに新しい一手を打ち出したい
    3.社員に新しい未来絵図を示し、エンゲージメントを高めたい
    4.採用戦略の一環として、優秀な人材確保を目的に自社の方向性に合う人材を採用したい
    5.次の社長候補人材の選定
    6.カリスマ経営者(創業者)から次の経営移行時の求心力にしたい
    7.新社長とそれを支える役員・役員候補人材の経営視座を高めたい

    まだまだ、たくさんの理由がそれぞれの会社の中にあると思いますが、まずそれを明確にしていただきたいと思います。そして、その目的に合わせて中期経営計画のレベル・策定期間・対象者の選定が始まります。特に、中期経営計画のレベルについてはしっかりとした検討が必要になります。

    中期経営計画レベルと一言にいっても、実行を見据えた形となると過去策定した計画の実態、社風、社員のレベルによって大きく異なります。人は同じ人がいないのと同じように、会社も同じ会社は1つとしてありません。自社の目的にあった中期計画のレベルとはどのようなものかをしっかりと把握していただきたい。それには我々、コンサルタントの客観的な目線も判断材料の1つとなります。

    中期経営計画策定の目的を明確にする

    ビジョン実現型の中期経営計画

    「自社のなりたい姿を描く」とは言葉では簡単ですが、実際に考えてみると、言葉にする難しさに直面します。 ただし「書かざるものは実現しない」これが経営管理の原則であります。 なりたい姿を常に明示し、意識し、修正し、実践・継続してゆくことがビジョン実現の手段であり、実践するからこそ見えてくる景色も多くあります。

    まず「なりたい姿を描く」には、自社の原点をしっかり押さえましょう。 自社が今まで経営してきた原点すなわち自社のDNAを明確にすることが重要です。 それはわが社はなぜ、現在も経営活動を行っていれるのか、わが社のコアコンピタンスは何かをおさえることです。 これは、自社のメンバーだけでなく、ロイヤルカスタマーの意見を聴くことも重要な要素になります。 その自社原点を基軸に描いた「Purpose:自社の存在意義というレンズ」を入れた望遠鏡で未来を見てみましょう。

    その未来は、10年後だけでなく、さらにその先の未来を創造する力が必要です。30年後、50年後からバックキャストして、10年後の未来を描きます。

    また、最近では中期ビジョンと共に、人事ビジョンの策定も同時に行うケースが多くなってきました。 人事ビジョンとは、中期ビジョン達成に向けた、会社の人づくりに対する宣言のようなものです。 ビジョンを実現するのは「社員」であり、その人材に対して会社はどんな人づくりをしていくのかを明示します。 具体的な作成ステップを【図-1】に示してありますが、人事ビジョンとそれを達成するための「人的資本強化KPI」と「社員エンゲージメント強化KPI」を掲げます。【図-1】

    ビジョン実現型の中期経営計画

      

    出所:タナベコンサルティングにて作成

    将来の労働力需給推計では、成長実現シナリオで見ても2030年の労働者数は2022年から177万人減少、2040年で535万人減少すると言われています。 このように労働人口の減少は今後の日本企業の大きな経営課題であります。 企業の更なる成長・発展のためには「ダイバーシティマネジメント」を推進し、多様な労働力の確保、従業員の働きがい・やりがいの向上を生み出せる環境への変革が急務であります。

    今までは中期経営計画の中に、組織戦略として示しているケースが多くありましたが、そもそも人の育成や改革などは、3年や5年でできる場合が少なく、もう少し長期的な視点が必要になってきているからなのです。

    中期経営計画の何年で作成すべきなのか

    よく、中期経営計画策定で「3年が良いか、5年が良いか」を聞かれることが多くなってきました。【図-2】

    中期経営計画の何年で作成すべきなのか

      

    出所:タナベコンサルティングにて作成

    10年の中期ビジョン実現に向けて、3年3回転か、5年2回転で計画の策定、実施を繰り返していくかということです。 私自身のコンサルティング現場での肌感覚でいうこと、コロナ前は3年3回転、コロナ禍、アフターコロナでは5年2回転が多くなってきたかに思えます。 最近では、今後の市場や環境を押さえ、5年ぐらいはしっかり計画を遂行していきたいという声が強く出てきました。 それぞれのメリット・デメリットはありますが、3年計画では環境変化に応じて細かな対策を打ち出せる半面、2年目の中盤から次の計画策定の時期が到来し、計画策定自体が目的になってしまうというケースもあります。 どちらが、良い・悪いではなく、前述した通り、過去の計画の実態・社風・社員の計画策定レベルに応じて年数を設定・変化させていくことが重要です。

    最後に、策定した計画の実行を加速化するには、中期経営計画に応じた形で人事処遇制度の見直しも必要になります【図-3】。

    中期経営計画の何年で作成すべきなのか

      

    出所:タナベコンサルティングにて作成

    よく人事制度の見直しについての相談を受けますが、自社の方向性も示していないのに人事制度のみを改定しても社員の納得性の高いものはできないとアドバイスしています。
    理念から中期ビジョン・人事ビジョンと中期経営計画、そしてそれを評価・分配する仕組みができて、初めて会社全体が1つの目的に向かって動き出します。 部分だけを見るのではなく、全体を俯瞰して検討してみてください。

    著者

    タナベコンサルティング
    エグゼクティブパートナー
    北陸支社 副支社長

    林崎 文彦

    大手印刷業界でマーケティング・顧客開発担当を経て、当社に入社。企業のトップと業績に向き合い、常に新しい方法を模索して、地域の特色を活かした成功事例を次々に生み出している。中堅企業をメインに、中期ビジョン・中期経営計画の策定、BtoBブランド戦略立案、人材開発体系構築、動画を活用した技術伝承、ジュニアボード運営支援など、幅広い分野で多くの実績を残している。また、幹部や若手社員育成も得意としており、クライアントから高い評価を得ている。

    林崎 文彦

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    「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
    志を掲げた1957年の創業以来、
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