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中期経営計画は、企業のビジョンやミッションを具体的な行動計画に落とし込み、組織全体の方向性を示す重要な指針です。しかし、ビジョンを描くだけでは十分ではありません。外部環境の変化を考慮しない計画は、実現可能性が低く、リスクへの対応力も欠けてしまいます。
そこで、外部環境の分析を計画に取り入れることで、以下のようなメリットが得られ、計画の実現性を大きく高めることができます。
①リスク管理:規制の変更や技術進化などの潜在的リスクを予測し、迅速に対応することができます。
②競争優位性の確保:市場トレンドを先取りし、競合との差別化を図ることが可能です。
③柔軟性の向上:外部環境の変化に即応できる計画を構築することで、計画の安定性と実行性を高めます。
企業経営において、中期経営計画は未来を見据えた重要な戦略ツールです。特に現代のビジネス環境は、技術革新や消費者行動の変化、環境規制の強化など、外部要因の影響を受けやすい状況にあります。このような変化に対応し、成功を収めるためには、外部環境を的確に分析し、企業の適応力を高めることが欠かせません。
本コラムでは、外部環境分析の重要性と、それを実践するための具体的な手法について詳しく解説します。
外部環境分析の基礎:マクロ環境とミクロ環境
外部環境分析には、マクロ環境分析とミクロ環境分析の2つの視点があります。それぞれの切り口を理解し、組み合わせることで、より精度の高い戦略が立案できます。
(1)マクロ環境分析
マクロ環境分析では、企業を取り巻く外部環境を広範な視点から評価します。代表的な手法には以下の2つがあります。
①PEST分析
政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)の4つの視点から外部要因を評価する手法です。
例:経済的観点では、金利やインフレ率の変動が企業の資金調達コストに影響を与える場合があります。
②STEEP分析
PEST分析に環境(Environmental)要因を加えた手法で、気候変動やサステナビリティの影響を考慮します。
例:環境規制の強化により、自動車メーカーが電動車両(EV)への移行を加速させています。
(2)ミクロ環境分析
ミクロ環境分析は、業界や市場など、企業に近接した環境を評価するものです。代表的な手法には以下の2つがあります。
①3C分析
顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの観点から環境を評価する手法です。
例:競合がサブスクリプション型サービスを導入した場合、自社も同様の戦略を検討する必要があるかもしれません。
②ファイブフォース分析
業界の競争構造を以下の5つの力で評価します。
a. 業界内の競争
b. 新規参入の脅威
c. 代替品の脅威
d. 買い手の交渉力
e. 供給者の交渉力
例:スマートフォン業界では、新規参入の脅威は低い一方、ウェアラブルデバイスが代替品として競争を激化させています。
実践的な外部環境分析のプロセス
外部環境分析を効果的に行うには、体系的なプロセスを通じて情報を収集し、戦略に反映させることが重要です。このプロセスを段階的に進めることで、分析の精度を高め、意思決定の質を向上させることができます。
(1)情報収集
外部環境分析の第一歩は、信頼できる情報源からデータを収集することです。市場調査、政府統計、業界レポート、顧客調査など、定量的かつ定性的なデータをバランスよく集めることが求められます。
ポイント:最新のデータを使用し、広範囲な要因をカバーする。
(2)分析と整理
収集したデータを、適切なフレームワーク(PEST分析や3C分析など)に基づいて整理します。これにより、データが持つ意味やパターンを見つけやすくなります。
ポイント:図表やグラフを活用し、視覚的に分かりやすい形にまとめる。
(3)洞察の導出
分析結果から、外部環境の変化が自社に与える影響を評価します。この段階では、リスクと機会を明確化し、優先順位を設定します。
ポイント:競争優位性を高める要素に注目し、具体的な戦略の方向性を見出す。
(4)戦略の策定
洞察に基づき、実行可能な戦略を設計します。戦略は、明確な目標と達成手段を持つことが重要です。また、柔軟性を持たせることで、予期せぬ変化にも対応しやすくなります。
ポイント:戦略は段階的な実施計画として具体化し、測定可能なKPI(重要業績評価指標)を設定する。
(5)実施とモニタリング
策定した戦略を実行し、その進捗と効果をモニタリングします。四半期ごとのレビューや定期的な環境分析の更新を通じて、計画を最新の状態に保つことが重要です。
ポイント:環境変化に応じて計画を調整し、持続的な効果を確保する。
このプロセスを繰り返すことで、外部環境分析は単なる一時的な作業ではなく、継続的な改善の一環として企業活動に根付かせることができます。
外部環境の変化にどう対応するか
外部環境の変化に対応するためには、継続的なモニタリングや柔軟な計画調整、ダイナミックケイパビリティの活用、シナリオプランニングが重要です。不確実性を見越し、企業の適応力を高めることで、リスクを最小化し、新たな機会を最大限に活かすことが可能となります。以下に具体的な取り組みを示します。
(1)継続的なモニタリング
市場の動向や規制の変化を定期的に見直し、計画に反映します。これにより、外部環境の最新情報を迅速かつ的確に戦略に取り入れることができます。
事例:Netflixは視聴データを継続的に分析し、ユーザー嗜好に合ったコンテンツを提供する戦略を進化させています。この取り組みにより、顧客満足度を向上させるだけでなく、新規ユーザーの獲得にも成功しています。
(2)ダイナミックケイパビリティの活用
ダイナミックケイパビリティとは、変化に迅速に適応するための3つの能力を指します。
①感知(センシング)
市場や技術の兆候を早期に察知する能力です。
例:新しい技術革新や顧客ニーズの変化をいち早く把握することで、競争優位性を確保します。
②戦略化(シージング)
感知した機会を具体的な行動計画に変換する能力です。
例:新市場への参入や既存製品の改良により、新たな収益源を創出します。
③変革(トランスフォーミング)
組織構造やプロセスを柔軟に再構築する能力です。
例:部門横断的なチーム編成やリソースの再分配を通じて、変化への対応力を強化します。
(3)シナリオプランニング
将来の不確実性に備え、複数のシナリオを想定し、それぞれに対応する計画を事前に用意します。この方法により、外部環境の変化に柔軟かつ迅速に対応できる体制を構築します。
事例:石油業界のシェルは、原油価格の大幅な変動を想定し、複数のシナリオを構築しています。このアプローチにより、事業運営の柔軟性を確保し、不測の事態においても持続可能な成長を実現しています。
外部環境分析を強化するための追加アプローチ
ここからは、外部環境分析より効果的に行い、精度を高めるための追加アプローチを紹介します。これらのアプローチにより、競争優位性を確立し、持続可能な成長を支える基盤をより強化することができます。
(1)ビジネスエコシステム視点
外部環境分析をサプライチェーンや協業関係に拡大し、エコシステム全体を捉えます。
事例:トヨタ自動車は、サプライチェーン全体での脱炭素化を進め、業界全体の効率化と環境負荷低減を実現しています。
(2)データドリブンアプローチ
AIやビッグデータを活用して、リアルタイムで市場動向や消費者行動を把握する手法です。
事例:アマゾンは膨大なデータを基に、顧客に最適な商品提案を行い、売上と顧客満足度を向上させています。
(3)サステナビリティの考慮
ESG(環境、社会、ガバナンス)要素を組み込むことで、持続可能な成長を目指します。
事例:ユニリーバは、環境配慮型の商品ラインを展開し、消費者からの信頼を獲得しています。
(4)CTM分析の深化
サイクル、トレンド、メガトレンドを詳細に分析し、競争優位性を確保します。
事例:アップルはリサイクル可能な素材を活用した製品開発を進め、持続可能性を重視したブランドイメージを確立しています。
(5)地域特性を踏まえた分析
国や地域ごとの市場特性や文化に応じた柔軟な戦略を策定します。
事例:スターバックスは、地域ごとの嗜好に合わせたメニューを提供することで、グローバル市場での成功を収めています。
まとめ
外部環境分析は、中期経営計画を成功へ導くための重要な基盤です。特に、STEEP分析やCTM分析、データドリブンアプローチを活用することで、競争優位性を強化し、変化する市場への柔軟な対応が可能となります。
重要なポイントは以下の3点です。
(1)柔軟性の向上:環境変化に迅速に適応する能力を構築する。
(2)リスクの軽減:潜在的リスクを事前に察知し、損失を最小化する。
(3)成長機会の発掘:新たな市場や顧客層を見つける能力を向上させる。
これらの分析結果を基に、柔軟で持続可能な中期経営計画を策定することで、企業は不確実性の高い環境下でも競争力を維持し、成長を続けることができます。
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