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新規事業を立ち上げるためのアプローチ(思考法)には、いくつかの種類があります。その一つに「課題解決型」がありますが、これはどのようなアプローチなのでしょうか。
この記事では、課題解決型の特徴とメリット・デメリットについて解説します。また、その他のアプローチについても簡単に紹介します。
新規事業における課題解決型のアプローチ
新規事業における課題解決型のアプローチでは、市場で顕在化している課題やニーズに着目します。市場や顧客の課題を解決することが、新規事業の意義・目的となるようなアプローチです。
課題解決型では、解決した状態をゴールとして設定し、そこに至る過程をさかのぼりながら課題を明確にしつつ施策を組み立てる方法があります。これを「バックキャスティング」といいます。詳しくは後述します。
市場のニーズを満たすという明確な目標がある場合に、精度の高い効果が得られる手法です。
デザイン思考
デザイン思考(Design Thinking)とは、まだ明確になっていない課題やニーズを理解するための思考法です。
課題解決型では、解決の対象となる課題やニーズを正確に捉える必要があります。
一方でアンケートを実施しても、そこに書かれていることが正確に顧客の課題やニーズを反映しているとは限りません。ターゲットユーザーが無意識にしている判断や行動のなかに、本音や課題の本質が隠れていることがあります。
デザイン思考とは、このように顕在化しつつも正確に捉えられていない現象に着目し、本質的な課題は何なのかを探り当てて定義化することです。
さらに、定義にしたがってプロトタイプを作り、顧客の反響を得て改善するプロセスを繰り返します。
課題解決型に関連するフレームワーク
ここでは、課題解決型で新規事業を発想する際に有効なフレームワークを紹介します。
消費者のニーズ、市場の課題など、顕在化している現象を足がかりとして分析し、課題を定義するためのフレームワークです。
バックキャスティング法
バックキャスティング法とは、最初に将来像を明確にしたうえで、将来像を実現するためのプロセスを未来から現在にさかのぼりながら記述する課題整理の方法です。
将来像は、現在の延長線上でもまったく異なるものでも構いません。実現していない形を最初に決めてしまうものの、そこに至る個々のプロセスが想像できて実現可能なものであれば、プロセスを着実に実行することによって将来像が現実のものとなります。
新規事業立ち上げの道筋を付けるために、活用できるフレームワークです。
4C分析
4C分析とは、次の4つの顧客側の視点を分析するために使用するフレームワークです。
・Customer Value(顧客価値)
・Cost(顧客コスト)
・Convenience(利便性)
・Communication(コミュニケーション)
これによって、顧客の価値観やベネフィット、価値の提供方法を明らかにできます。
新規事業のターゲットを明確にしたうえで、4C分析を行うことが効果的です。ただし、顧客の価値観は変化することを考慮する必要があります。
ロジックツリー
ロジックツリーとは、現象から原因や解決策を分析するために使用するフレームワークです。
1つの現象に対して考えられる原因が複数あれば解決策も複数あることが多いため、対応手段は枝分かれするのが一般的です。個々の解決策には、さらに具体的な策が複数考えられる場合があります。このように現象からスタートして解決策を順次ツリー状に枝分かれして書き出すことから、このフレームワークはロジックツリーと呼ばれます。
ロジックツリーは、思考プロセスを可視化する「マインドマップ」の一種です。
バリューチェーン分析
たとえばメーカーの場合、原材料や設備・人材を調達して製造・販売・出荷したあとに顧客のサポートを行うという一連の業務プロセスがあります。
バリューチェーン分析は、例として挙げたような企業活動の各業務プロセスに着目し、プロセスの価値や品質を向上させることでサービス全体の価値や顧客の満足度を高める方法です。
業務プロセスの問題点を浮き彫りにできることから、DX(デジタルトランスフォーメーション)のための業務改革にも活用できます。
新規事業における課題解決型のメリット
課題解決型は、最初に将来像や課題を明確にしてから、そこに至る道筋を決めるプロセスであるため、課題を達成する精度を高めることが可能です。
ゴールとプロセスを明確にするためのKGI・KPIの設定と相性のよいアプローチで、適切なKPIが設定できればゴールにたどり着きやすい思考法であるといえます。
新規事業は不安を伴いますが、課題解決型は計画段階で確信を持ちやすいため、事業展開の安全性が高いといえるでしょう。
新規事業における課題解決型のデメリット
課題解決型は明確な目標を設定し、達成するプロセスを考える手法です。計画を立てる手法に共通するデメリットとして、結果が目標以上になることは稀になる傾向があります。
また、市場や消費者のニーズを出発点として構想しているため、他社も同じような構想を打ち出してくるおそれがあります。
差別化して市場をリードするためには、競合他社の分析から自社の独自性を打ち出すポイントを把握することと、スピード感のある事業展開が必要です。
新規事業におけるその他のアプローチ
新規事業を考え出すアプローチ・思考法はさまざまに存在します。
ここでは、課題解決型とよく比較される代表的なアプローチについて解説します。
問題提起型
問題提起型とは、業界や市場・社会が抱える問題に広く着目します。自社の視点で問題を捉え、課題を定義し、まったく新しい価値を提案するアプローチです。
市場に本質的な「問いかけ」をして、受け入れられることでイノベーションが生まれます。自社のリソースを投じることで未知の世界を作り出すため、独占的なポジションを築くことが可能です。
価値提案型
価値提案型とは、市場に顕在化していない課題(潜在課題)を掘り起こすアプローチです。課題に対する自社サービスの価値を分かりやすくアピールすることで、消費者の気づきを促します。
ターゲットユーザーの多くが「これは便利だ」「そもそもこうあるべきだ」と感じて支持してくれることで、新たな市場を創出できます。
価値提案型は、ユーザーに新規事業の価値を認識してもらうことがポイントで、そこには提案者の強い思いが必要です。
オープンイノベーション型
通常の新規事業計画は自社のためだけに行いますが、オープンイノベーション型では自社・他社を問わずに事業を構想します。他社との協力や、産官学連携による新規事業創出を図る方法です。
ポイントは、以下のような方法で連携する組織間でノウハウをオープンにすることです。
・他社のノウハウを活用して自社の強みを活かす
・自社のノウハウを提供して他社の利益にもつなげる
他社と協力して新規事業を展開する方法は、初期の投資を抑えつつ両者の強みやリソース・市場を活かし安定的に事業を立ち上げられる方法として、近年注目されています。
思考アプローチに関連するフレームワーク一覧
ここでは、新規事業の思考アプローチのためのフレームワークを一覧表にまとめます。
フレームワークは複数のアプローチで利用可能なケースもあるため、この分類に限定するものではありません。
思考アプローチ | フレームワーク |
---|---|
課題解決型 | バックキャスティング法・4C・ロジックツリー・バリューチェーン |
問題提起型 | PEST・SWOT |
価値提案型 | バリュープロポジションキャンバス・アンゾフの成長マトリクス・SWOT・VRIO・STP |
オープンイノベーション型 | SWOT・VRIO・STP・ファイブ・フォース分析 |
思考の組み合わせによる新規事業のアプローチ
市場にイノベーションをもたらしたり、独自の価値を提供したりするためには「問題提起型」や「価値提案型」の思考が向いています。
一方で、新規事業を確実に軌道に乗せるためには「課題解決型」がおすすめです。
発想の初期段階では「問題提起型」や「価値提案型」で仮説を立て、課題やターゲットを明確にしてから「課題解決型」で戦略を組み立てる方法があります。このようなハイブリッドなアプローチも、現実的な方法として検討の余地があるでしょう。
まとめ
新規事業を立ち上げるためのアプローチ(思考法)として、市場や消費者のニーズに課題を見出し、解決する施策を実行する「課題解決型」の思考は確実性が高いでしょう。
一方、市場にイノベーションや独自の価値観を作り出すには「問題提起型」や「価値提案型」の思考が必要です。
自社に合うアプローチを選択したり、組み合わせることで、新規事業を成功させましょう。業界に新風を吹き込むには、オープンイノベーションも有効です。
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