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新規事業の課題には、どのようなものがあるのでしょうか。また、自社の課題をどのようにして明確化し、スムーズな立ち上げにつなげるかを整理したいと考えている経営者の方も多いでしょう。
この記事では、新規事業の一般的な課題を紹介するとともに、計画段階の課題整理・分析の手法について網羅的に解説します。
新規事業の計画段階の課題
新規事業の立ち上げには計画のフェーズと実行のフェーズがありますが、まず計画段階における課題について解説します。
計画は事業の出発点でもあり原点でもあり、この段階では入念なリサーチを行いつつ迅速な意思決定が必要です。
市場ニーズの把握
新規事業を立ち上げても、ニーズがなければ売上は上がりません。しかし新規市場のニーズは、消費者が要望するわけでもなく、消費者も気づいていない場合があります。
潜在ニーズを仮説として捉え、検証する姿勢で市場調査を行う必要があるでしょう。
市場の細分化と自社価値を訴求できるターゲット層の特定、市場規模の把握による売上の予測が可能かが重要なポイントです。
自社価値の把握
自社の価値を正確に捉えられているか、改めて確認しましょう。
新規事業に対して自社が捉えている価値と市場の評価が一致しなければ、事業が成功する確率はそれだけ低くなります。
一つのアプローチとして、過去に自社が評価されたエピソードや成功体験に着目するのもよいでしょう。企業の本質は、新事業に活きる可能性があります。
他社にない自社だからこその価値、差別化できるポイントを押さえることが重要です。商品・サービスだけでなく、組織体制を差別化するという考え方もあります。
競合他社の把握
他方、自社にとっては新規事業だとしても、成熟している日本市場においては必ず同等あるいは類似の商品、サービスを展開している企業が存在します。それらをきちんと調査、分析することによって、産業構造やマーケットの特性を把握し、先行モデルから学ぶことができます。
そして、自社価値と競合およびマーケットを正しく認識することによって、次に述べるポジショニングを的確に描くことが可能になります。
ポジショニングの決定
ポジショニングとは、市場のニーズに対して自社価値を効果的に訴求できる立ち位置を特定することです。立ち位置とは、たとえばポジショニングマップ上の位置関係として捉えられます。
「ハイクラスのサービスとして提供する」「実用的で高いパフォーマンスを提供する」などのスタンスが考えられるでしょう。
その立ち位置で需要が見込めるか、自社の理念と矛盾しないかなどの見極めが必要です。
ポジショニングを言語化してコンセプトを策定し、顧客とのコミュニケーションに落とし込みます。
新規事業の立ち上げ段階の課題
ここでは、新規事業の立ち上げを実行する段階の課題について解説します。
参入時期の判断や、リソースの確保が主な課題です。
参入時期の決定
新市場への参入時期は、自社と市場の両方の状況を見ながら適切に判断する必要があります。
自社の状況については、企業の成長サイクルから考えて自社が「成長期」から「成熟期」にかけての時期にあれば、参入に適すると判断できます。
市場については、消費者のニーズや関心が高まる時期と、そうでない時期の波を観察することが重要です。事業が季節に関係する場合は、該当する季節に向かう時期が適当と判断できるでしょう。
具体的に参入日を決める場合は、よく知られたイベントのある日に設定したり、自社の創立記念日に合わせたりする方法があります。
人材の確保
新規事業で最も課題となりやすいのが、人的リソースです。
その原因として既存事業で活躍する人材を新規事業に異動させにくいことや、起業家精神に近いマインドを持ったリーダーを選出することの困難さがあります。また、チームの構成員には自律型の積極的な人材が求められます。
日常の業務からビジネスを発想する「ベンチャー精神」を育むことによって、人材の層を厚くすることは可能です。そのためには、指示系統や給与・評価制度を含めた組織体制の整備が必要です。
リーダー人材の一時的な採用のために、アウトソーシングやコンサルタントのパートナーシップを活用する方法もあります。
ノウハウの導入
新規事業では自社にないノウハウを多く必要としますが、ノウハウの導入にはいくつかの方法があります。
・社内人材による外部知識の習得
・新規分野の専門職の採用
・外部人材の活用
・他社との協業
自社が持つ技術や手法が新規事業に展開しやすいものであれば、社内の努力で強化を図ることは可能でしょう。
異質のノウハウが必要な新規分野は、すでにノウハウを持っている他社との協業によって補う方法があります。
資金調達
新規事業は、資金調達の面でも課題があります。事業の特性として不確実性が高く、融資で必要な予算の確保が難しい面があります。
コアの事業に絞って投資を最小限に抑える「リーンスタートアップ」は、資金調達の面でもリスク軽減の意味でも有効な方法です。
公共性の高い事業では、クラウドファンディングを利用して広く資金を集める方法もあります。
新規事業の課題整理・分析の方法
新規事業の課題整理や分析には、フレームワークを活用する方法が有効です。
ここでは各種の分析手法における目的や対象について、概要を解説します。
マクロ環境を分析する(PEST)
PESTは、以下の4つの側面から企業を取り巻く外部環境を分析するフレームワークです。
・Politics(政治)
・Economy(経済)
・Society(社会)
・Technology(技術)
経済・社会の情勢や行政の動き・技術動向に着目し、事業展開の支障になることや、追い風になることを分析します。
新規事業参入の機を捉え、事前の対策を行ってリスクの回避・軽減を行うための分析です。
内部・外部環境を分析する(SWOT)
SWOTは自社の内部環境をStrength(強み)とWeakness(弱み)に分類し、外部環境をOpportunity(機会)とThreat(脅威)に分類して、自社の現場を把握するフレームワークです。
新規参入の優位性やリスクを把握するには、これらを組み合わせたクロスSWOT分析が有効です。
※横にスクロールします。
クロスSWOT | 内部環境 | ||
---|---|---|---|
強み | 弱み | ||
外部環境 | 機会 | 強みを最大限活かす | 弱みをカバーする |
脅威 | 強みで乗り越える | 最悪の事態に備える |
4つのケースについて参入前に十分な検討・対策を実施することで、強い体制を作ります。
経営資源の競争力を分析する(VRIO)
VRIOは、以下の4つの側面から経営資源の競争力を分析するフレームワークです。
・Valuable(価値)
・Rare(希少性)
・Inimitable(模倣困難性)
・Organization(組織)
企業が歩んできた歴史や知的財産など他社からの模倣が困難なリソースは、模倣困難性が高いと判断できます。
組織とは、経営資源を持続的に維持できる体制の有無を表します。
ポジショニングを行う(STP)
STPは、以下の3つのステップで市場の構造と自社の立ち位置を明確にするためのフレームワークです。
・Segmentation(セグメンテーション):市場を細分化
・Targeting(ターゲティング):ターゲット層を特定(ペルソナを含む)
・Positioning(ポジショニング):自社の立ち位置を明確化
市場とターゲット層を特定し、そのうえで他社と自社との関係をポジショニングマップを用いて明確にすることで競合を回避し、自社を差別化できます。
顧客視点で価値とニーズを分析する(4C分析)
前述の手法は企業の視点から捉えた概念であるのに対して、4C分析は顧客の視点に立ち、以下の4つの側面から商品・サービスを評価するフレームワークです。
・Customer Value(顧客価値):顧客が評価する価値
・Cost(顧客負担):利用料や顧客の手間
・Convenience(顧客利便性):顧客が便利だと感じること
・Communication(顧客コミュニケーション):相談やサポート
顧客にとっての価値は何かというポイントを明らかにすることと、価値の提供方法を最適化することが4C分析の目的です。
課題の整理・解決に外部人材を活用する
フレームワークを用いた課題の整理や新規事業立ち上げのプロセスは、社内のリソースだけでは十分な成果を上げられないケースがあるでしょう。
社内にはない知見や先進的な考え方は、外部から取り入れる必要があります。
計画段階では、アイデア出しのプロの力を借りることで的確な戦略立案につなげられます。
立ち上げの実行段階では、企業の立ち上げに豊富な経験を持つコンサルタントからアドバイスを得ることや、コンサルタントが持つネットワークを活用することで、スムーズな立ち上げが可能です。
経営プロセスのアウトソーシングやパートナーシップ、プロ人材の採用など、外部人材の活用を検討しましょう。
まとめ
新規事業を立ち上げる際には、課題を把握することで自社の参入意義を明確にできます。
意義を起点としたブレないコンセプトを持つために、課題の整理・分析は不可欠なプロセスといえるでしょう。
プロセスに不明な点や社内のリソースで対応が困難な点があれば、経営コンサルタントの利用をおすすめします。
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