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はじめに
どの産業においても会社の経営においては、「目的」と「目標」が必要です。会社経営における「目的」は、経営理念やパーパスに明示されており、「目標」はビジョンや方針、中期経営計画として明示されています。この設定された目標の達成、言い換えると攻略に向けて必要なのが「戦略」です。
会社経営を山登りに例えるならば、山登りをする動機や志が「経営理念」であり、山登りを通じて実現する夢が「ビジョン」です。そして、その志や夢を叶えるために、「どの山を登るか」を決めることが「戦略」となります。
出所:タナベコンサルティング作成
この戦略は、会社経営全般にかかる戦略であることから「経営戦略」といい、事業戦略や組織戦略、機能戦略、財務戦略などを内包しています。
経営戦略を策定する大きなステップは、
1.外部環境分析...自社を取り巻く外部環境の変化を押さえる
2.内部環境分析...自社の強み(特徴・らしさ)や弱み(課題・アキレス腱)を押さえる
3.事業戦略設計...外部環境・内部環境を踏まえて、事業戦略(誰に・何を・どのように)を明確にする
4.組織・機能・財務戦略設計...事業戦略を実行する組織体制や必要な機能、投資などの各戦略を明確にする
と4段階に分けることができます。本稿では、経営戦略策定においてステップ1及び2の「環境分析」に役立つ代表的な3つのフレームワークの基本とその活用のポイントや留意点を紹介していきます。
環境分析の代表的なフレームワーク3選
(1)PEST分析
PEST分析は、外部環境をマクロ視点で分析する手法であり、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字をとってPEST分析(ペストぶんせき)と名付けられています。PEST分析では、世界経済や日本経済の動向から自社が属している業界や地域がどのような影響を受けるのかを上記の4つの切り口で分析をしていきます。PEST分析は、直近足元の分析のみならず、中長期的な視野・視点で分析を行うことができ、自社ではコントロールできないマクロ環境(間接的に自社に影響を与える環境)を整理・分析することができます。PEST分析を行うことで、①自社が成長するための機会を把握でき、②リスクを未然に回避するための施策検討が行えます。
(2)3C分析
PEST分析をマクロ環境を分析する手法として紹介しましたが、それに対して3C分析はミクロ環境(直接的に自社に影響を与える環境)を分析するフレームワークです。3CはCompetitors(競合)・Customers(市場・顧客)・Company(自社)の3つの要素を指しており、戦略を策定する前提として、これらの直接影響を与えるミクロ環境を分析することは重要です。
3C分析においては、客観的な情報を集めることが重要です。憶測で情報を整理するのではなく、公的機関や専門調査機関やメディアなど信頼性の高い情報を使用することをお勧めします。戦略策定に直結するミクロ環境分析ですから、場合によっては費用をかけて外部へ調査を依頼することも検討するべきです。
【3C分析の主な着眼(分析項目)】
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項目 | 分析の着眼 | |
---|---|---|
1 | Customers (市場・顧客) |
(1)市場 ①市場規模(消費者やユーザーの数、 ②成長性(これまでとこれから) ③市場全体のニーズの変化 (2)顧客 ①顧客の真のニーズ ②顧客・購買者の属性 (エリア、性別、年齢、所得層など) ③購買決定のプロセス |
2 | Competitors (競合) |
(1)競合の状況・戦略 ①競合他社の数と直近業績 ②それぞれの市場シェアや推移 ③競合他社の方向性・戦略 (2)競合の商品 ①主なターゲット顧客 ②商品・サービスの特徴(比較) ③価格 ④販売(供給)方法 ⑤プロモーション ⑥ビジネスモデル (3)競合の変化 ①新規参入企業(異業種からの参入企業) ②外資やエリアを超えたライバル企業の参入 |
3 | Company (自社) |
(1)強みと弱みの分析 ①企業理念・ビジョン・それらの浸透度 ②社風・風土・一体感 ③商品・サービスの特徴 (強み・らしさ・選ばれる理由) ④価格 ⑤主なターゲット顧客 ⑥商品開発力 ⑦人的リソース ⑧資本力・企業体力・信用力 ⑨現在の市場シェア ⑩ブランド力(マーケット認知度) |
3C分析は、「市場・顧客(Customer)」をはじめに分析し、次に「競合(Competitor)」、最後に「自社(Company)」の順番で行います。分析の起点は「顧客・市場」であり、そこに「競合」がどのような影響力を持っているのか、そして「自社」がどのように戦っているのか、特徴は何かを段階的に整理することができます。
(3)SWOT分析
SWOT分析は外部環境及び内部環境を分析するフレームワークの一つで、自社の強み(Strength)や弱み(Weakness)を分析する内部環境の視点と自社にとっての機会(Opportunity)や脅威(Threat)を分析する外部環境の視点のそれぞれの頭文字をとり、「スウォット」と読みます。SWOT分析はこの4つの視点で、企業や事業の「現状」を分析し把握する目的で使われます。
【SWOT分析の各項目の定義】
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No | 要素の名称 | 環境 | 定義 |
---|---|---|---|
1 | Strength(強み) | 内部環境 | 事業や経営目標達成のために他よりも優位となる自社の長所や強み 例:特許、固有技術、ブランド力、顧客ネットワーク、ノウハウ、市場シェアなど |
2 | Weakness(弱み) | 内部環境 | 事業や経営目標達成のために障害となる自社の抱える問題点や課題 例:商品・サービスの品質、属人化しているノウハウ、高齢化など |
3 | Opportunity(機会) | 外部環境 | 自社にとってプラスの影響を与えうる、または自社が優位となりうる外部の環境要因 例:市場の成長、顧客ニーズ・トレンドの変化、法改正、規制緩和、技術革新など |
4 | Threat(脅威) | 外部環境 | 自社にとってマイナスの影響を与えうる、または自社が不利となりうる外部の環境要因 例:社会情勢、経済情勢(不景気など)、競合他社の動向、大規模災害(感染症パンデミックや自然災害)など |
先に紹介したPEST分析はマクロ視点での分析となるため、中長期的な視点を加味することができます。一方でSWOT分析は「現状」を分析するのに向いているため、短期的戦略立案に対し向いています。
SWOT分析は、分析でとどまらず、4つの項目で整理した要素(項目)をそれぞれかけ合わせることでその先の戦略策定にも活用できます。
出所:タナベコンサルティング作成
【強み】×【機会】:積極化戦略
自社の「強み」を外部環境の「機会」に乗じて最大限活用し、自社の成長に繋げる戦略です。
【弱み】×【機会】:改善戦略
外部環境の「機会」を活かすために自社の「弱み」をどのように補強、もしくは克服すべきかを検討します。
【強み】×【脅威】:差別化戦略
自社の「強み」活かし、もしくはさらに錬磨させ競合他社や市場の脅威(変化)に対応する戦略です。
【弱み】×【脅威】:防衛・撤退戦略
外部環境の「脅威」の影響を最小限にとどめる、もしくは事業から撤退することを検討します。
まとめ
今回は経営戦略策定にあたっての「環境分析(外部・内部)に役立つフレームワーク3選」として3つのフレームワーク(分析手法)とポイントを紹介しました。大切なのは、「各フレームワークのどれか1つをやればよい」ということではなく、3つないしはその他のフレームワークも含めて複合的に分析を行い、「環境」を精緻に捉えることが戦略策定の入り口となります。また、分析をする「人」によって分析の粒度(粗さ・細かさなど)や優先度は異なるため、誰が分析するかを慎重に選定しなければなりません。
先が見えない、不透明な時代だからこそ「何をすべきか=戦略」を明確にする必要があります。そのためにも、今回ご紹介したフレームワークを大いに活用いただきたいと思います。
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