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中期経営計画については、以下のような点に関心を持つ経営者が多くいらっしゃるのではないでしょうか。
・中期経営計画の策定や開示は義務?
・中期経営計画策定が目的化しているのでは?
・海外の経営計画はどのような状況?
これらについて触れながら、中期経営計画の目的や在り方、策定手順について解説します。
中期経営計画は義務なのか?
経営にはビジョンがあり、そこに至る成長戦略を具体化することが中期経営計画の意義だといえるでしょう。
ただし、中期経営計画の策定や開示は義務ではありません。法的な定めはなく、株式市場でのルールも規定されていません。株式会社であっても、計画を策定・開示するか否かは企業に委ねられています。
中期経営計画を策定するために多くのリソースを割いているにもかかわらず、必ずしも相応の成果につながらず計画の策定自体が目的化しているケースもあります。また、目標値を設定すると、それを超えるような成果が得にくいという傾向もあるでしょう。中期経営計画の策定は、きちんと成果を得るために行いましょう。
中期経営計画の策定状況
中期経営計画を策定している企業は、どのくらいの割合で存在しているのでしょうか。
タナベコンサルティングが実施した中期経営計画に関するアンケート調査レポートによると、中期経営計画についての策定状況は、以下のような結果となりました。
全体の81.2%の企業が既に策定をしている結果となり、8割以上の企業が中期経営計画を策定している状況でした。こちらについては同様の設問を昨年にもアンケートで設けており、そちらにおいて74.0%の企業が作成している結果でしたため、昨年と比較して約7ポイント増加しているといえます。
また、上場/非上場別|中期経営計画(3~5年)の策定状況のグラフを見ると、上場企業は9割以上が中期経営計画を策定しているが、非上場企業では4社に1社が策定できていない状況にあり、結果に開きが見られました。
世界における経営計画の在り方
世界では、日本ほどフォーマット化した経営計画は存在しないと考えられます。米国においては中期経営計画にあたるものは認められず、経営計画そのものさえ明確に開示しない企業もあります。グローバル企業についても、ビジョンや長期計画に確固たるステートメントのある企業がみられても、そこに至る道筋を具体的に示すかどうかは企業の考え方次第です。
世界では、トップダウン経営が中心です。日本のように、計画について従業員や株主と丁寧にコンセンサスを取るという考え方は乏しいと考えられます。
上場企業が中期経営計画を策定する目的・意図
上場企業が、中期経営計画を策定する目的や意図についてまとめます。計画で立てた目標を達成することが当然必要ですが、もう1つの意図として計画がもたらす効果を活用する点があるとみられます。
自社の立ち位置を確認する
ビジョンに向けての計画を立案する際に、現時点での自社の状況を押さえておく必要があります。いまの状態から、どの方向に、どの程度進む必要があるかを明確にするためです。
3CやSWOT分析などの手法を用いて、市場における自社の立ち位置、強み・弱み、顧客や消費者からの評価や自社の価値を明らかにします。
問題点や課題を明確にし、計画を通してステークホルダーに共有することが重要な目的です。
長期計画より具体性を持たせる
長期計画より具体性を持たせることが、中期経営計画の意義といえるでしょう。経営のビジョンすなわち長期計画は、通常10年のスパンで設定されます。しかし10年先のイメージを、具体的に持てる企業は少ないでしょう。長期計画の目標は比較的あいまいなもので、あくまで将来像や在り方を示す意味合いが強いといえます。
方向性として長期計画を捉え、中期経営計画は3〜5年のスパンで策定することで、より想像しやすい現実的な目標を立てることが可能になります。
投資家に判断材料を与える
投資家は、企業が将来的にどのような成果を上げるのかについて関心を持っています。経営計画を開示しなければ、投資家は企業の実績から判断するしかありません。中期経営計画で具体性のある計画を立案すれば、投資家に判断材料を提供することになります。
計画の内容が信頼でき、将来的な発展をイメージさせるものであれば多くの投資を呼び込めるでしょう。また、企業に入って活躍したいと考える求職者への情報提供にもなります。
従業員と課題を共有する
中期経営計画は、従業員と共有します。企業のビジョンと道のりを示すことは、従業員にも安心感や信頼感を与えることでしょう。
また、パーパスを策定するなど、従業員とともにディスカッションをして決めた内容について計画を通してお互いに再確認する場にもなります。
中期経営計画で理念やビジョンを明確にし、課題やミッションを従業員と共有することで組織の一体感やモチベーションを高められると考えられます。
中期経営計画策定の流れ
中期経営計画を策定するには、どのような実務が必要でしょうか。ここからは、計画を策定する手順について解説します。
①前期計画を振り返る
向こう3〜5年の間の経営方針を示すのが中期経営計画であり、新規事業でなければ前回の中期経営計画が存在します。
前回の計画において達成できなかった目標がある場合、それを未達のまま放置するのは望ましくありません。今期の計画において、前期計画の振り返りを行いましょう。
達成したか否かの確認と、達成できなかった目標についての原因と対策を考えるステップが必要です。対策は今期の計画に反映し、目標の再設定を行います。
②経営理念・パーパスを確認する
中期経営計画は、ビジョンや長期計画への足がかりとなるように立案します。経営理念を確認し、理念に含まれるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)の個別の確認を行います。経営理念が具体性を欠く場合、新たにMVVに当てはめるなどして理解しやすい形に整える必要があるでしょう。パーパスを策定している場合も、併せて確認します。
長期計画がMVVやパーパスに沿ったものであるか、整合性をチェックすることが重要です。
③外部環境を把握する
市場における自社の立ち位置や強み・弱み・顧客との関係を明確にするために、外部環境を把握します。外部環境には市場・顧客・競合のほか、社会や法制度なども含まれます。それらの状況は時とともに変化しており、自社が置かれる状況は絶えず変化するためです。
情報収集や市場調査を実施して変化の兆しを見逃さないよう、日々の情報収集をしておく必要があるでしょう。
④経営戦略を明らかにする
経営戦略を明確化するために、ビジョンが定量化されているかを確認します。計画実施後の評価を行うためには数値的な目標を立てるなど、できる限り定量化しておく必要があります。そのうえで経営戦略、すなわちビジョンを実現するために選択する手段、実施すべき施策を策定し、ステークホルダーと共有します。
外部環境の変化に柔軟に対応できる組織づくりを行うことも、経営戦略に含まれるでしょう。
⑤行動計画を示す
経営戦略を実行に移す計画を、立案します。短・中・長期で実施すべき施策を、具体的に決める作業です。
個々の施策には、定量化した目標が必要です。たとえば新しい分野への参入など必ずしも量的なものが明確にできない場合は、いつまでに参入するかという時期やアクションを定義するなど、定性的な目標を設定します。
行動計画は従業員や取引先に関係が深いため、計画立案には従業員や外部とのコンセンサスが欠かせないでしょう。
⑥計画の実行・モニタリングを行う
計画の実行段階では、定期的なモニタリングによって計画と実績のズレをチェックします。部門ごとに月次での進捗確認を実施し、状況に応じて計画の修正を検討します。
市場の変化が早い業界では、中期経営計画の3〜5年という期間ではチャンスを逃すおそれもあるでしょう。
その場合、計画の見直しを前提として1年ごとの短期計画を別途立案します。中期経営計画の達成には、精度の高い目標設定とモニタリングが必要です。
まとめ
中期経営計画の策定や開示は、義務ではありません。法的な定めや株式市場での決まりも存在せず、立案は企業の意向で行われます。
一方で、中期経営計画はビジョンと戦略を具体的に内外に示して安心材料を与えることができ、投資家からの投資を促すこと、課題を従業員と共有することが、立案の意義となります。
長期ビジョンとの関係を明確にし、足がかりとして中期経営計画を策定しましょう。
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