COLUMN

2024.04.22

″住宅会社のビジョン・中期計画策定″
戦略の基本と、自社のビジネスモデルを1段階高める重要ポイント

〝住宅会社のビジョン・中期計画策定″戦略の基本と、自社のビジネスモデルを1段階高める重要ポイント

住宅会社におけるビジョン・中期計画・戦略方向性の切り口は、大きく分けて4パターンに分類されることが多いです。またその切り口自体は難しいものではありません。4パターンの切り口で方向性を決める前に、ひと手間加えることで戦略をブラッシュアップできます。

ビジョン・中期計画・会社が目指す方向性の基本4パターン

大きく区分するならば、一般的には下記の4パターンが多く見られます。

1.地域密着型 多角化戦略
2.住宅商品のマルチブランド化戦略
3.住宅を基軸とするLTV向上戦略
4.既存住宅商品のエリア展開戦略

では、それぞれの戦略について説明させていただきます。

ビジョン・中期計画・会社が目指す方向性の基本4パターン

1.地域密着型 多角化戦略

1つ目は、地域密着型多角化戦略です。創業エリアを基本に、地域を限定して住宅周辺領域や、自社の強み、社員が保有するノウハウなどを活かして事業領域を拡大する戦略です。
よくある失敗例として、とりあえず飲食店を開業、黒字化せず撤退という企業が見られます。飲食業への進出が悪いと言っているわけではありません。その事業は経営理念、ビジョン、ミッションに繋がっているのか、自社の強みを活かせるものであるのか、誰が責任者としてやるのか=その事業を好きな社員、その事業にコミットできる社員が居るのか、このようなポイントを押さえていること、最初に始める新規事業は本業の住宅とシナジーがあること、が成功の一つの要因となります。
併せて地域住民が求めていること=顧客が見えること、が重要ですので、地域の方の年齢区分ごとに人口や、世帯年収、該当地域におけるその事業を行う企業数など、外部環境の調査は必ず行ってください。
加えて求められている事業のノウハウを自社で有していない場合には、自社だけで立ち上げようとはせず、M&A・アライアンス・FC加盟も検討してください。

住宅会社の多角化戦略としてよく見られるのは、住宅・リフォーム・土地売買・賃貸管理・介護施設、のような事業展開です。また住宅に特化した多角化戦略の例としては、言い換えるならばワンストップサービスモデルとも呼べますが、住宅を販売・施工するだけでなく、木材の育成・伐採、プレカット加工、土地提案、リフォームと一連の流れを全て自社で実行するモデルも存在します。

多角化の検討と事業ポートフォリオ設計

出所:タナベコンサルティング作成

2.住宅商品のマルチブランド化戦略

2つ目は住宅商品のマルチブランド化戦略です。こちらも地域密着型の要素が強い戦略です。こちらは特にシンプルな戦略です。例えば建物の価格として1,000万円、2,000万円、3,000万円、4,000万円、と様々な価格帯の商品を持ち、幅広い顧客へアプローチする手法です。低価格帯は完全規格型、中価格帯は半注文型、高価格帯は完全注文型の住宅、というような建付けとなります。低価格帯はローコストビルダーで検討しているお客様、中価格帯は地場の優良ビルダーで検討しているお客様、高価格帯は住宅メーカーで検討しているお客様へアプローチする、もしくはローンアウトした方へご提案するなど、ターゲット選定を行った上で、マルチブランド化してください。
自社でブランド開発することができなければ、FC加盟するなど他社ノウハウを活用しても良いです。

マルチブランド化を成功させるには、【適切な商品】を【適切なお客様】へ提案する、ことが最重要ポイントです。そのためにもターゲットを明確化した上でのマルチブランド化が必須となりますし、それができていなければ、単に売れない商品を増やしているだけで、社員の負担を増大させるマイナスの効果となります。
 【適切な商品を適切なお客様へ】、がキーワードです。【松竹梅で提案し竹で決めよう】、という時代ではありません。

マルチブランド化の考え方

出所:タナベコンサルティング作成

3.住宅を基軸とするLTV向上戦略

3つ目はLTV(ライフタイムバリュー)向上戦略です。住宅業界のみならず、人口縮小傾向の日本においては、1人のお客様にどれだけ購入いただけるか、どれだけ長い期間をお付き合いできるのか、を考えなければなりません。
例えばですが、住宅を購入される方はその2年前に何を購入するのか、何を調べられるのか。また住宅購入後に何を求められているのか、を知ることが重要です。
ある住宅関連企業の調査データによると、住宅購入後2~5年の間に、約3割の方が外構・庭、約2割の方が収納のリフォームを希望されているそうです。新築時の提案が不足しているという見方もありますが、このように住宅購入後すぐのニーズもデータとして存在します。これらの情報を自社の施主アンケート等を用いて収集し、アプローチしていく必要があります。新築後10年が経過して初めて点検に来る会社と、新築後からマメに接点を持つ会社、どちらにリフォームを依頼するでしょうか。
LTVを高めるという点では先々の中古住宅買取再販や、介護施設の運営等も考えられると思いますが、まずは新築販売後のリフォーム強化、そしてそれを支える基盤となる、住宅施工品質の向上や対人サービス力の強化からご検討ください。

住宅を基軸とするLTV向上戦略

出所:タナベコンサルティング作成

4.既存住宅商品のエリア展開戦略

4つ目はエリア展開戦略です。安定性を高める上でも有効な戦略です。同じ商品を販売していても、例えば東京・名古屋・大阪では販売金額が変わりますし、名古屋は業績好調であるが、東京・大阪は苦しい、というようなことが起こります。エリアによる好景気・不景気が発生した際に不景気なエリアだけでビジネスしていると当然厳しい状況に陥ります。
ただし、出店後●年以内に黒字化、●年以内に売上●億円、など撤退基準は必ず設けてください。商品がエリアに合わない、出店先の人材育成がうまくいっておらず好景気なのに売れない、ということもあるからです。
また、地域でブランド力の高い地場住宅ビルダーには、やはりドミナント戦略をおススメします。大阪で知名度があるから、飛び地で東京へ出店しよう、という企業があります。もちろん成功することもありますが、東京では知名度なく、思うように売れず撤退する、というケースが見受けられます。商品自体にかなり強力な差別化ポイントが無い限りは、ドミナント戦略から検討頂き、地道に地域シェア目標をクリアしてもらうのが良いでしょう。

既存住宅商品のエリア展開戦略

最後に.自社のビジネスモデルを1段階高める重要ポイント

ビジネスモデルを再定義する

最後に最も重要な点はビジネスモデルを再定義することです。ビジョンや中期計画を策定する場合には、現状認識(外部環境・内部環境)→ビジョン策定と進めることが一般的です。
私が最もご提言したいポイントは、現状認識→ビジネスモデルの再定義→ビジョン・中期計画策定の順で策定することです。ビジネスモデルを再定義すること、自社の収益力、利益率が向上します。
ビジネスモデルを再定義する上でのキーワードは1つ【貢献価値】です。【貢献価値を提供できている企業は、利益率が高い】、これは上場企業のIR情報より分析することが可能です。具体的な事例はここには記載しませんが、利益率は【業種・業界】で決まるのではなく【ビジネスモデル】で決まります。業界平均の2倍、3倍の利益率を誇る企業が実際に存在します。ビジネスモデルのキーワードは【貢献価値】=【自社の強み×顧客ニーズ×社会価値】を提供できている企業です。
社会価値の例としては、収入が少ない方でも安心して購入できる住宅を提供する、住む方の健康寿命を延ばす、高齢化した職人や未経験者でも施工が容易な商品を提供する、などが考えられます。
新しい商品を生み出す必要はありません。自社の商品・サービスを第3者視点で俯瞰し、【貢献価値】の視点で見せ方を変える、再定義したビジネスモデルを社外へ発信する、発信した内容=社会との約束を遵守する、ここからスタートしてください。

ビジョン・中期計画・戦略の方向性、これらを単に策定するのと、ビジネスモデルを再定義してから策定するのでは、内容は大きく変わるはずです。ひと手間加えることで、より素晴らしいビジョン・会社を実現してください。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
チーフマネジャー

石川 一平

大手リフォーム会社の営業部門にて活躍後、経営企画部門で経営全体の幅広い業務経験を積み、当社に入社。現場主義で成果を生み出すコンサルティングを信条とし、企業のビジョン実現を支援。数多くのコンサルティング経験を通じた事例をベースに、クライアント独自の攻めのビジネスモデル創りの推進を得意とする。特に、経営戦略を踏まえての組織全体への展開、現場への落とし込み・徹底を通じた成果を生み出す取り組みで、お客様から高い評価を得ている。また、業界全体の成長・発展に向けた、企業間のご縁づくりにも注力しており、多くの企業間のマッチングを実現している。

石川 一平

ABOUT

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「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
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