COLUMN

2024.03.19

中期経営計画における長期ビジョンの思考法
~飲食業界のビジョン構築事例をご紹介~

中期経営計画における長期ビジョンの思考法~飲食業界のビジョン構築事例をご紹介~

本コラムで分かること
①中期経営計画におけるビジョン構築の思考法
②飲食企業の具体的な長期ビジョン策定事例

中期経営計画における長期ビジョンの位置づけ

10年先のありたい姿を描き、逆算思考で計画を策定する

中期経営計画とは、会社の経営理念に基づき、その会社のミッション・ビジョンを実現するための道筋を示した「実行計画」です。
経営理念は経営の最上位概念であり、企業の存在価値を定義する「不変」のものであると定義されます。不変である経営理念に対して、会社のビジョンは未来のありたい姿を言語化したものであり、「不変ではない」ものの、確固たる意志が反映され、環境変化に応じて柔軟に変化していくべきであると定義されます。
中期経営計画を策定するためには、まず長期ビジョンで10年先の未来を描き、10年先から逆算して実行計画に落とし込んでいく必要があります。未来のなりたい姿を描き、未来を起点に解決策を見つける思考法をバックキャスティングアプローチといいます。現在から未来を考えるフォアキャスティングとは反対に、3年先を今の3年後と捉えるのではなく、今から10年先の7年前という思考法を基に計画を進めていくことが重要です。

中期経営計画とは、ビジョン達成に向けた実行計画であるため、長期ビジョンの構築は中期経営計画策定のための第一歩であると言えるでしょう。

飲食業界における長期ビジョン構築の切り口

「顧客価値」x「提供価値」=「貢献価値」

タナベコンサルティングが実施したアンケートでは、会社にとって長期ビジョン構築の必要性は昨年に比べ大きく増加しているといえます。長期ビジョン構築を「必要」と感じる企業数は2023年は82.7%あり、1年前の71.0%と比較すると10pt以上の企業がビジョン構築の必要性を感じていることが分かります。
しかしながら、実際に長期ビジョンを構築出来ている企業は全体の34%と、4割未満にとどまっていることが分かります。(図①参照)
つまり、8割以上の企業がビジョン構築の必要性は感じているものの、約4割の企業が実行に移せていないのが現状のようです。

図1

タナベビジョンアンケート|(年別)長期ビジョン構築の必要性を感じますか?

出所:長期ビジョン・中期経営計画に関する企業アンケート調査レポート 2023年

タナベビジョンアンケート|(年別)長期ビジョンの構築状況

出所:長期ビジョン・中期経営計画に関する企業アンケート調査レポート 2023年

長期ビジョンの構築方法として、ミッションから思考する切り口を紹介します。
ミッションとは、経営理念に基づいた企業の存在価値や使命を指し、企業におけるミッションとは、社会課題を解決することにあります。
長期ビジョン構築のためには、「顧客価値」である社会・顧客・会社から求められていることと「提供価値」である自社の持ち味の接点から、「貢献価値」を見つけることから始まります。自社の持ち味だけを外に向けても、社会から求められていることでない場合、貢献価値がありません。(図②参照)

図2

求められていること×自社の持ち味

出所:タナベコンサルティング作成

長期ビジョンにおける「貢献価値」の具体事例

社会課題と自社の強みを掛け合わせた長期ビジョン構築事例

①株式会社FOOD & LIFE COMPANIESの事例

回転寿司チェーンの「スシロー」を運営する株式会社FOOD & LIFE COMPANIESの事例を紹介します。
鮮魚の安定供給という「顧客価値」に対して、自社の販売網である「提供価値」を掛け合わせることで、社会課題の解決に取り組む「貢献価値」をビジョンに掲げられています。
日本の漁獲量は年々減少傾向にあるため、養殖業の消費と生産を増やすことで会社として持続可能な成長を目指していくと掲げています。
養殖魚はトレーサビリティの管理がしやすいことから安心・安全に提供が可能な上、消費者に鮮度の良い状態で提供出来ることが大きなメリットとなっています。
また、計画生産が可能なため、生産者の収入の安定も見込ることから養殖魚の需要が高まっています。
具体的な取り組みとしては、株式会社拓洋と株式会社マリンバースを設立し、鯛やハマチなどの主要商材から、安定的な水産資源の生産・活用を目指した取り組みをスタートさせています。種苗や飼料、設備など、生産者の上流に位置することで、より安定的な養殖業の供給が可能なスキームを構築していく方針を打ち出されています。(図③参照)

図3

長期ビジョンにおける「貢献価値」の具体事例

出所:株式会社FOOD & LIFE COMPANIESのHP掲載情報をもとにタナベコンサルティング作成

自社の強みを生かした長期ビジョン構築事例

②株式会社トリドールの事例

丸亀製麺を主体とし、複数の飲食ブランドを海外展開されている株式会社トリドールの事例を紹介します。
これまでの事業で培ってきた「手間暇かけてこだわって展開する」ことと、「スピーディに効率的に展開する」という非合理に思えることを実行してきた推進力を自社の強みであると定義されています。
一見、矛盾をはらんだ活動ができる推進力が「提供価値」と食のニーズの多様化である「顧客価値」を掛け合わせ、食の感動体験を提供することで「貢献価値」を満たしていくことをビジョンに掲げられています。
長期ビジョンでは「世界中どこでもできる体験」と「そこでしかできない体験」という相反する言葉を掛け合わせることで食の感動体験を提供していくことをビジョンとして掲げています。(図④参照)

図4

自社の強みを生かした長期ビジョン構築事例

出所:株式会社トリドールのHP掲載情報をもとにタナベコンサルティング作成

まとめ

中期経営計画とは現在から未来を考えるのではなく、未来から逆算して考えるバックキャスティングアプローチで構築するべき実行計画です。今回ご紹介した日本の漁獲量減少や、食に対するニーズの変化等、さまざまな社会課題があるため、自社の強みとの接点からありたい姿を描き、長期ビジョンを構築しましょう。

著者

タナベコンサルティング
タナベコンサルティングストラテジー&ドメインコンサルティング事業部

齋田 剛平

飲食チェーンを全国展開する会社にて、複数店舗運営、海外出店を経験。その後、大手ECモール運営会社にて、ECコンサルタントとして活躍。当社に入社後は、前職の強みを生かし、飲食・EC・海外に関連する経営課題を解決出来る経営コンサルタントを目指し、日々の業務に取り組んでいる。

齋田 剛平

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