COLUMN

2023.11.29

建設業界における中期経営計画の作り方とポイント

中期経営計画の定義・建設業界の中期経営計画の特徴

「中期経営計画」とは、企業の「理念(存在価値・使命)」や、「中・長期ビジョン(ありたい姿・進むべき方向性)」を具体的なロードマップに落とし込み、それらの達成プロセスを数値で表したものであると定義されます。【図1】

出典:タナベコンサルティング作成【図1】

中期経営計画は業界・分野を問わず、3年~5年のスパンで策定されることが一般的で、中期経営計画を策定している建設会社の多くもそれに当てはまっています。
建設業界の中期経営計画の傾向としては、DX戦略の推進、「建設業2024年問題」に関連した働き方改革、SDGsへの取り組みが挙げられます。

建設業における中期経営計画

激動する外的要因(情勢)をリアルタイムで把握

建設業の業績は政府・民間の建設投資額に影響される部分があります。毎年、国土交通省から発表される「令和5年度(2023年)建設投資見通し」によると【図2】、2022年度比で2.2%増の70兆3,200億円となる見通しです。この内訳としては、政府投資が25兆3,400億円(2022年度比4.5%増)、民間投資が44兆9,800億円(2022年度比1.0%増)、民間建築補修が9兆3,600億円(2022年度比4.7%増)となっています。ポイント増加の要因としては、コロナウイルス拡大によって一時的にストップしていた公共工事等が、コロナウイルスが第五類に移行したことにより再開され、政府によるインパクト投資が加速したことが挙げられます。
さらに、矢野経済研究所が今年発表した「国内建設8大市場(住宅、店舗、オフィスビル、ホテル、工場、物流倉庫、学校、病院)規模に関する調査」【図3】によると、2025年度の建設8大市場の市場規模は、工事費予定額ベースで24兆3,000億円(2021年度比108.1%)と予想しており、市場の拡大が見込まれています。
また、2025年度にかけて東京、大阪等をはじめとする都市圏の都心部、地方都市での再開発計画が控えているほか、製造業の国内回帰による設備投資需要も活況を呈しています。また、2025年以降、大阪・関西万博の開催やIR(統合型リゾート)の開業も控える中で、2025年度までの建設8大市場は堅調に推移すると予想している。
ここにあげた外部環境は一部の例ですが、今後も大きく変化していく外部環境の中で、長期的な視野を持って市場動向を予測する必要があります。
上記で紹介した内容は、プラスに働いている外的要因です。一方で木材の価格高騰をはじめとする、建設資材の原価高騰によって業績にマイナスインパクトを及ぼしている事実も併せて認識しておく必要があります。

図2

出典:引用元:国土交通省「令和5年度(2023年)建設投資見通し」【図2】

図3

出典:引用元: 矢野経済研究所「国内建設8大市場に関する調査(2023年)」【図3】

タナベコンサルティングが行った、「2022年 長期ビジョン・中期経営計画に関する企業アンケート調査」【図4】によると、中期経営計画を策定している企業は売上規模が上がるにつれて策定率が増えている傾向にあります。反対に、売上規模が下がるにつれて策定率が減少しています。また長期ビジョンの策定率【図5】に関しても同様のことが言えます。図1にもあるように、中・長期ビジョンは中期経営計画の上流にあるもので、中・長期ビジョン無くして意義のある中期経営計画の策定は難しいものであると考えます。【図6】にもあるように、多くの企業は策定することは望んでいても、「今までに作成したことがない」、「策定する組織やメンバーが社内に存在しない」といった理由が上位にあります。このような場合は、外部機関を活用して策定、プロジェクトを進行していく中で社内で中期経営計画策定メンバー等を選出し、時期中期経営計画の策定は社内メンバーを中心に行うといったような体制作りをしていく方法も選択肢の1つであると言えます。
ここで言えることは、社内メンバーで策定する場合や、外部機関を利用して作成する場合であっても、刻一刻と変化する外部・内部環境の未来を見据え、長期的な視点を持ち中期経営計画の策定をすることが重要ということです。
また、昨今の目まぐるしい経営環境の変化に応じ、中期経営計画はフレキシブルに変更/修正ができることが望ましいと考えます。

図4

出典:タナベコンサルティング作成【図4】

図5

出典:タナベコンサルティング作成【図5】

図6

出典:タナベコンサルティング作成【図6】

建設業における中期経営計画づくりのポイント

こちらでは、中期経営計画の策定で検討頂きたいテーマをいくつか共有します。

1.DX戦略
2.新たな市場(業態)
3.人的資本経営

DX戦略

中堅・中小の建設業の多くは、人材不足、働き方改革、低生産性、の3つの課題に悩まされており、帝国データバンクが2023年に行ったある調査によると、直近3年の建設業の倒産数は全国で840社となっています。倒産した企業の全てが、上記3つの課題が原因で倒産をしたわけではありませんが、多くの企業の場合いずれかに起因して倒産していると考えます。建設業にDXを導入した場合、デジタル技術を駆使して業務を効率化することが可能になります。例えば、AIを用いて建物の構造設計の安全性を判定したり、ドローンを用いて建設現場を監視し、建設現場の安全の確保をAIを搭載したドローンが行っているという事例もあります。現場の安全状況を画像で読み取り、リアルタイムで監視員のデバイスにデータや画像を送信することができるため、作業の効率化や、生産性向上が期待できます。

新たな市場への拡大(業態)

建設業に限らず多くの企業の多くは、行っている業務の幅が大枠決まってしまっているため、事業の拡大が見込みにくいです。
事業を拡大するといっても、全く異なる市場にいきなり進出するのはきわめてリスクが高いことも事実です。これから私が紹介する事例は、自社の誇る技術を別の市場に転用させ、新事業を成功に導いた例です。岡山県に本社を置くナカシマプロペラ株式会社は、船舶用のプロペラを中心とした推進装置のメーカーです。特に、職人によるプロペラの翼表面の研磨技術、曲面加工技術は世界に誇る技術です。この高い曲面加工技術に目を付けたある医師が、この技術を基に人工関節の開発に活かせるのでは、とアドバイスしたことをきっかけに、ナカシマプロペラはメディカル事業への一歩を踏み出しました。プロペラの曲面加工技術を人工関節開発に転用した結果、人工関節の耐用年数が大幅に延長するなど、新事業への進出は見事成功したのです。ここでのポイントは、新たな市場、事業に進出する場合は「自社の強み」を明確にし、その強みを持って進出するということです。

人的資本経営

タナベコンサルティングが毎年開催しているFCCF(ファーストコールカンパニーフォーラム)の今年度のテーマでもあるように、人的資本経営(=世の中では人材を資本として捉え、そこに投資をしていくことでその価値を最大限に引き出し、中長期的な企業価値向上に繋げるという経営のあり方)が注目されています。特に人材不足が顕著に現れている建設業への導入は急務ではないでしょうか。建設企業大手の清水建設では、全社教育委員会のもと、部門別教育委員会、系統別および機能別専門委員会をそれぞれ組織し、各委員会で毎年度の教育計画の策定・見直しを図り、PDCAサイクルを回すなど、きめ細かい教育推進体制を構築しています。また、良いものづくりができるひとづくりという観点から、系統別・機能別専門教育を軸としたプログラムを通じ、社会・顧客から信頼される一流のプロを育む人財育成に取り組んでいます。このように、社員に対して教育の道筋を立て、PDCAサイクルを回すといった教育推進体制を構築することで、社員一人一人の価値を最大限に発揮させることが可能になります。

最後に

本稿では、建設業における中期経営計画の作り方とポイントについて事例を交えながら紹介しました。
中期経営計画を策定するにあたって重要なポイントは、外部・内部環境を精緻に分析し、その将来を見据え、長期的な視点を持って策定することです。併せて自社の持つ強みを理解し、その強みが最大限発揮できるような中期経営計画を策定して欲しいと願っています。
本稿の内容が、中期経営計画の策定を検討している建設業の皆様の一助となれば幸いです。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
コンサルタント

岩瀬 雄登

多種多様なビジネスモデルに精通するコンサルタントと各業界・領域を熟知するスペシャリストとともに、コンサルティング、セミナー、研究会活動に従事している。 その活動を通じ顧客の課題解決に日々邁進している。 「企業を愛する」をモットーに顧客に寄り添うコンサルタントを目指す。

岩瀬 雄登

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