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中期経営計画を作成する際は、現状把握とミッション・ビジョン・バリュー、具体的な成長戦略や、数値目標が欠かせません。
それらの項目を株主を始めとするステークホルダーへのメッセージとして発信し、理解を得る必要があります。
この記事では計画の作成手順と、必要な項目、その考え方、作成のポイントについて解説します。
中期経営計画は財務三表をもとに現状把握
中期経営計画では現状把握が必要です。特に財務諸表の数値をもとにした判断は欠かせません。
以下の書類は「財務三表」と呼ばれます。
1. 損益計算書
2. 貸借対照表
3. キャッシュフロー計算書
そのほか、業種や事業内容によっては専門分野の資金計画書が必要でしょう。
財務三表によって、会計期間の損益・保有する財産・キャッシュフローが把握できます。三表は互いに関係しているため、総合的に見た経営状況の判断が重要です。
中期経営計画資料の作成手順
中期経営計画の資料作成は次のステップで進めます。
1. 現状分析(内部環境・外部環境)
2. 経営理念の明確化
3. 中期ビジョンの策定
4. 事業計画の作成(売上計画・経費計画・設備投資計画)
5. 複数の計画書を作成
現状分析にはSWOT分析がおすすめです。強み・弱み(内部環境)や機会・脅威(外部環境)に分類して把握できます。
ただし、計画通りに事が運ばない可能性を考慮しましょう。計画で不確定な部分は複数の案を作成します。いずれかが計画通りに進まなかった場合に別の案を選ぶという、柔軟性のある計画立案が望ましいといえます。
中期経営計画資料に必要な項目
中期経営計画書には決まったフォーマットが存在しません。逆に考えると、自由な表現でポイントを強調する、オリジナリティのある資料が作成可能です。
ここでは、中期経営計画の資料に記載される項目を解説をします。
①経営理念
経営理念は、経営者の哲学や思い、方向性を分かりやすくステートメントにしたものです。
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)として表現され、企業の使命・将来像・価値基準を明文化しています。
経営理念は株主・顧客・取引先・従業員などのステークホルダーに向けての企業メッセージです。経営者が従業員の行動や気持ちの在り方について求める内容も含まれます。
②基本方針
基本方針は経営理念をもとに作られる経営の方針です。社会に対する自社の在り方や使命を、いかに実現していくかの方針を表明します。
MVVにおけるミッション、あるいはビジョンに相当する内容を展開したものといえるでしょう。
中期経営計画における基本方針は、中期的な方針を明らかにします。企業の姿勢を鮮明にするメッセージです。
③行動指針
行動指針は、従業員の在り方や行動の規範を明文化したものです。全社を挙げて実践すべき基本動作や行動計画を示します。
MVVにおけるバリューに相当する内容を展開したもので、従業員向けのメッセージといえるでしょう。
経営理念を中期経営計画に落とし込む際、経営の在り方としての基本方針と、従業員の在り方としての行動指針とに分けます。基本方針や行動指針は、経営理念を反映した中期経営計画の根幹となる企業姿勢です。
④経営戦略
経営戦略は、市場において自社の存在を確かなものにするための、競合に対する差別化を示します。
市場における自社の立ち位置や競合との関係は、SWOT各種のフレームワークを用いて分析します。ターゲットを設定し、自社の価値が正しくターゲットに認識されるような戦略を策定しましょう。社会に対して企業の存在意義を示すことが重要です。
計画を実行した際に生じるリスクについても分析し、最小限に抑えるためのアイデアも盛り込みます。
⑤前計画の振り返り
中期経営計画では、前中期経営計画の振り返りが大切です。
PDCAの考え方をもとに、前中期経営計画を総括して今期計画にフィードバックしましょう。前中期経営計画に設定していた数値目標や定性的な目標の達成度を明らかにします。
達成できた場合は更なる向上や新たな計画へのシフトを考えます。達成していない場合、どのような対策で臨むかを明確にして、ステークホルダーに提示しましょう。
⑥事業計画
事業計画は、中期経営計画により各部門が3〜5年後に達成する数値、または定性的な達成レベルです。どのような具体的施策によって達成するかを明確にしましょう。
長期を見据えた計画であることはもとより、場合によっては短期計画を示します。より説得力のある表現が必要です。
計画には次のようなものがあります。
●売上計画
●販売計画
●マーケティング計画
●生産計画
●研究開発計画
これらに経営戦略や前中期経営計画のフィードバックを反映すれば、意義のある事業計画になるでしょう。
⑦資金計画
資金計画は、中期経営計画で実施する大規模な設備投資や売掛金の回収延長により資金不足に陥らないよう、キャッシュフローを予測した未然の対策です。
投資は、営業活動によって獲得したキャッシュから行います。その範囲を超える場合、金融機関と交渉して資金調達をします。
⑧人員計画
人員計画は、事業計画に必要な組織体制と人事を明らかにするものです。
次のような項目を含みます。
●人事計画
●組織体制
●採用方針
●能力開発計画
●組織図(指揮・命令系統)
「ヒト」は極めて重要な経営資源です。人員計画は「ヒト」に関わる計画です。
人材は数の問題だけでなく質も問われます。各事業の計画に必要なスキルを持った従業員の適切な配置が重要です。
企業のサスティナビリティを確保するために、能力開発や計画的な採用を推進しましょう。
⑨経営数値目標
中期経営計画で示す数値目標は、売上高・経常利益・純利益・ROEなどの基本的な数値のほかに、各事業で目標とする個別の重要な数値を示します。これらは経営者がステークホルダーにコミットする目標です。
新規事業において目標数値が明確に定められない場合、参入分野での一定の評価を示す定性的な目標を設定します。そのほか、社会から要請を受けている事柄について努力目標を示す場合もあります。
⑩施策・実施スケジュール
各事業における個別の施策と、実施スケジュールを明確にします。
長期と中期の関係を明らかにしたロードマップが必要です。場合によっては短期のフェーズに分けて表現し、長期計画に至る過程を理解できるように設定します。
中期経営計画書資料作成のポイント
中期経営計画資料は、次のようなポイントに注意を払って作成しましょう。
●1回で完成させない
●数値の整合性を確認する
●短・長期、前中期経営計画との連続性を保つ
●全社員で共有しコンセンサスを得る
経営計画にはさまざまな要素があります。作成段階の最初からつじつまが合うことはないでしょう。リスクを考慮して別の計画を副次的に用意する必要もあります。
中期経営計画資料は1回で完成させようとせず、繰り返し試行錯誤をしましょう。
まとめ
中期経営計画はIR活動の一環であり、投資家に向けた情報提供という役割をもちます。
近年は「パーパス経営」が注目され、社会性やサスティナビリティを強く意識したメッセージが求められます。経営理念を背景とした基本方針や行動指針が重要です。
中期経営計画により、ステークホルダーの利益や従業員のモチベーション向上が期待できます。中期経営計画は企業の存在意義を明確にするものです。持続性のある経営のために存在するといえるでしょう。
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