COLUMN

2023.09.27

ESG情報開示による企業価値の向上、持続的成長の実現

「気候変動問題」や「人権問題」などの社会問題が顕在化し、企業における「ESG(環境・社会・ガバナンス)」の観点を経営に取り入れなければならないという考え方が世界的に広まる中で、「ESG投資」が拡大しています。ESG情報開示は企業が投資家から受ける評価に大きく影響し、持続的な成長を目指すうえで欠かせない取り組みとなっています。ESG情報開示の概要とともに、国内の動向、企業が取り組むべきポイントについてご紹介いたします。

持続可能な価値創造を表現するためのESG情報開示について

ESGとは、「Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治))を考慮した投資活動や経営・事業活動」を指します(出所:内閣府)。国連が2006年に提唱した責任投資原則(PRI)の中で打ち出され、2015年の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による日本の機関投資家として初の署名をきっかけに、ESGの観点は国内でも広まりました。
さらに日本では2021年6月に公表されたコーポレートガバナンス・コードにおいて、東京証券取引所プライム市場への上場企業に対し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の開示が2022年から要請されるようになり、2023年からは有価証券報告書にサステナビリティに関する情報開示が求められるようになりました。
もはやESGを含むサステナビリティ開示は必要不可欠なものになっています。

ESG情報開示とはESG投資に向け、企業を評価するための非財務情報を開示することです。
企業がESG情報を開示する際は、情報開示の方法や項目、考え方などを定めた国際的に広く認識された開示基準を参照するのが一般的です。主たる利用者である投資家等に広く認識されている開示基準に従うことで、投資家等とのコミュニケーションをスムーズに行えるメリットがあります。

出所:経済産業省 サステナビリティ開示と企業価値創造の好循環に向けて
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/hizaimu_joho/pdf/005_04_00.pdf

【主な情報開示基準】
1.国際統合報告フレームワーク
2.SASB基準
3.GRI基準
4.CDSBフレームワーク
5.TCFD提言
(出所:経済産業省)

ESG情報開示における現状

昨今多くの企業でサステナビリティページを設定しており、サステナビリティに対する企業姿勢は高く、これからも高まると予想されます。
㈱宝印刷D&IR研究所 ESG/統合報告研究室が公表してる「統合報告書発行状況調査2022 最終報告」よると、2022年12月末時点の統合報告書発行企業数は872社となり、昨年同時期から154社(21.4%)増加し、5年前にあたる2018年の465社と比較すると87.5%増加しています。

参照:https://www.dirri.co.jp/res/report/uploads/2023/02/5c703266ae69cf2f927055dd64a9931e51a00f64.pdf

また、ESG開示支援・管理クラウドを運営する㈱estomaはプライム市場上場企業1834社のホームページ公開情報をもとに、ESG情報開示状況の調査をまとめると4つのポイントがあります。(2023年4月1日時点)

1. サステナビリティページの開示状況
約90.4%の企業がサステナビリティページを保有しています。しかし、ESGの各分野について専門のページを用意し開示をしている企業は26%にとどまっています。

2.環境(E)の開示状況
環境面での開示は、気候変動タスクフォース(TCFD)の開示有無を調査しています。2023年4月1日の時点では、調査対象プライム企業の50%がTCFDについての開示を行っており、内、Scope3までデータを開示している企業は30.9%ありました。

3.社会(S)の開示状況
「社会」に関してホームページ上で開示を行なっている企業は50%ありました。また、開示企業のうち、人的資本に関するデータを公開している企業は54.7%でした。

4.ガバナンス(G)に対するの開示状況
プライム企業のうちガバナンス体制を整え、外部に開示を行なっている企業は61%となっています。
このようにESG各テーマについて調査対象おける半数以上の企業がそれぞれの項目で開示しています。
特にサスティナビリティページを保有している企業は90%以上を占めていることから、企業意識は高いことが確認できます。

参照:株式会社estomaプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000103789.html

ESG情報開示についての課題

ESGを含む統合報告書の発行部数の増加や、ホームページ上での情報開示は増加していますが、日本のESG投資額やESG情報開示基準の策定において世界に後れを取っており、まだまだ世界で通用するレベルには至っていません。
日本のESG情報開示を世界に通用するまで改善するには、取り組むべき課題がいくつかあります。

1.ESG情報開示の基準統一(政府レベル)
ESG情報開示の基準を統一することはESG情報を同じ物差しで計測するために欠かせない課題です。日本の現状はTCFDやSASB、GRI、IIRCなどの国際的枠組みの中から任意で選び報告することが推奨されています。しかし、これらの枠組みは統一された採点法があるわけではないため、ESG情報開示を見て簡単に企業同士を比較することが出来ないという欠点があります。
こうした中、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2023年6月26日、サステナビリティ基準の最終版を公表しました。日本でもこのISSBを基にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が日本版の基準を策定します。24年3月までに公開草案を公表し、25年3月までに確定させる予定です。

2.ESG情報開示の促進(政府レベル)
日本は現状、ESG情報開示が明確に義務付けられていません。義務化や法規制などが検討され、さらなる促進が期待されています。
すでにEUでは、域内の資産運用会社においてESG関連の情報開示の義務化が始まっており、日本国内でもその動きは本格化してきています。金融庁はサステナビリティ開示のロードマップを発表し、開示情報の充実化に向けた取り組みを行う予定です。

3.ESGに関する投資家との対話強化(1企業レベル)
ESG情報開示に対する満足度は企業と投資家の間で差があることが一般社団法人生命保険協会のアンケートによって判明しました。
アンケートによるとESG情報開示を十分していると答えた企業は55%であるのに対し、ESG情報開示を十分にしていると答えた投資家の割合は2%でした。投資家の約半数は企業のESG情報開示が不十分であると感じており、企業と投資家の対話強化が必要な事態となっています。
企業と投資家による対話の「出発点」となるのが、まずは企業による情報開示である。近年、企業の情報開示は、質・量ともに充実してきている一方、投資家からは依然として充実を求める声もあります。
質・量を意識しつつ、自社の考えについて自主的に情報開示を充実させる姿勢が、投資家の理解を深めることとなります。

4.他社との比較可能性を踏まえた開示の準備(1企業レベル)
他社との比較可能性を踏まえた開示の準備は、資本市場の市場規律を強めることにつながります。
GRIFの2019年調査によると、システマティック/パッシブ運用では比較可能性に優れたESG情報へのニーズが高いとされています。つまり、他社との比較可能性を踏まえることはこれからのESG情報開示に欠かせない準備と言えます。

ESG情報開示の事例

東洋経済新報社「CSR企業白書2023」では「ESG企業ランキング」が掲載されてる、上位1社のNTTグループにおけるESG情報公開事例を紹介いたします。

同社では持続可能な社会の実現に向けて3つのテーマ「自然との共生」「文化の共栄」「well-beingの最大化」を設定し、これらそれぞれについて、その目標達成に向けた具体的な取り組みが示されています。

(1)環境 (Environment)
NTTグループは、政府が発表した「2050年までのカーボンニュートラル」に先駆け、2040年までにはカーボンニュートラルの実現を目指すとしています。これは、Well-being社会の実現に向けてESGへの取り組みを強化することで得られる企業価値の向上を踏まえた活動の一環であり、事業活動による「環境負荷の削減」と「限界打破のイノベーション創出」の視点から、環境の負担をゼロにすることと経済成長の同時実現を目指しています。
2030年にはNTTグループの温室効果ガス排出量80%削減、またNTTドコモモバイル、データセンターのカーボンニュートラルを目指しています。カーボンニュートラルの実現に向け、NTTグループは再生可能エネルギーの利用拡大と、IOWN導入により温室効果ガスの削減を図ろうとしています。

(2)社会 (Social)
NTTは、「民主的で多様な文化を認め合いながら発展する社会と価値創造に貢献」することを目指す中で、新たな経営スタイルを導入することで「文化の共栄」を実現させる取り組みをしています。
その一環として、リモートワークを基本とするワークライフによって、多様な働き方に合わせた業務プロセスの構築、働きやすさの向上によるイノベーションの創出にも期待しています。
さらにサービス生産の向上を図るためにデジタルマーケティングの拡大を見込むことや、会社の拠点を地域に分散することによる地方創生事業の拡大も目指しています。また、労働環境の整備や制度の見直し、DXの促進によって、情勢の役員比率向上や、障害者雇用、男性の育児休暇を積極的に伸ばしていく方針です。

(3)ガバナンス (Governance)
中期経営戦略となる「Your Value Partner 2025」に基づきながら、パートナーとともに社会課題の解決を目指した活動を推進するため、NTTは経営の健全性や適正な意思決定と事業遂行の実現、説明責任の明確化、コンプライアンスの徹底を基本方針とすることを決めています。
基本的なコーポレートガバナンスの体制は、複数名の独立社外取締役と過半数の独立社外監査役を含む監査役会を設置しており、そして、執行役員制度の導入により、取締役会が担う決定・監査の機能と、執行役員が担う業務執行の機能を明確に分離する体制を整えています。
指名委員会・報酬委員会を任意で設置し、監査役会設置会社携帯による統治機能体制をとっています。

出所:NTTグループ中期経営計画
https://group.ntt/jp/ir/library/timely_disclosure/2018/pdf/020.pdf

同社のESG情報開示では、環境、社会、ガバナンスと3つの観点で情報公開できていることだけでなく、具体的な方向性や手段が記載されており、モデルとなる内容となっています。

最後に、企業が持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図っていくには、企業の持続可能性(サステナビリティ)を考えていく必要があり、そのためには世界に通用する情報開示は必要不可欠となります。
一方で、あくまでも情報開示すること自体を目的とするのではなく、本来の目的に沿って何をすべきかをサステナビリティ基準も踏まえて各企業が検討していくことが重要だと考えます。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
チーフコンサルタント

西村 隆志

東証プライム上場建設資材メーカーにて道路資材・景観資材やスポーツ用途人工芝を提案するスペック営業を経て、当社に入社。建設会社を中心に中期経営計画策定や長期ビジョン策定などの事業戦略立案から業務改善、人材育成支援まで多岐にわたるプロジェクトに参画。「クライアント目線」を第一に、経営・業務課題に真摯に向きあい成長支援をおこなう。

西村 隆志

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「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
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