COLUMN

2022.10.06

2030へ向けた事業ポートフォリオをデザインする

2030へ向けた事業ポートフォリオをデザインする

変化の激しい時代においては、優良事業だけでは成長できません。 単一事業で毎年多くのキャッシュを得たとしても投資する事業が本業しかないため本業にキャッシュが再投下され成長速度は落ちざるを得ません。 どんな事業にも必ず賞味期限は到来し、結果として成長速度は落ち、持続的に成長することは出来ません。 ベンチャーなどの新興企業ならともかく、これまで日本経済の成長を支えてきた大手・中堅企業の中核事業の多くは時代とともに陳腐化しており、そのビジネスモデルを変革しなければ今後の成長は望めません。

顧客のニーズがこれだけ多様化、細分化された経営環境下では、一つの事業にヒト・モノ・カネといった経営資源を集中投下するのではなく、顧客課題の数だけ、事業を保有し、複数の事業の組み合わせでより大きな付加価値を創造することが不可欠であると言えます。事業の数を増やすことで課題を解決し、持続的な企業の向上につなげていくべきなのです。複数の事業の組み合わせでより大きな付加価値を創造し、シナジー(相乗効果)を得て成長していく戦略を「事業ポートフォリオ戦略」といいます。新しい事業の着眼と、限られた経営資源を、どこにどう配分するのかの事業ポートフォリオ戦略について解説してゆきます。

「卵を一つの籠に盛らない」ためのポートフォリオ設計

「取引先が大手1社に依存している」「主力単品商品が売上げ構成比の大半を占めている」という企業が経済危機の度に軒並み売上高を落としており、回復に時間を要しているのではないでしょうか。 エリア(国内と海外、都市部と地域など)、顧客、事業ドメイン、B2C事業とB2B事業、ストックとフローなどリスクを分散する事業ポートフォリオの設計が必要です。

例えば顧客。1社への依存率が高ければ高いほど高リスクであると言えます。主力取引先が上場企業であれば1社に依存していても安泰でしょうか?答えはNOです。 上場会社であっても不祥事を起こし、あっという間に市場から退場を余儀なくされるケースを幾度となく目にしてきたはずです。得意先が大手か中小か、業績が好調か不調か、ではなく、大事なのは自社の業績構造の設計と変革への意思なのです。

今の事業、組織の延長で考えるのではなく、経営資源(ヒト・モノ・カネ)の再配分を断行していただきたいと考えます。

固有技術を軸に複数の事業ポートフォリオを形成したA社

固有技術を軸に異なるマーケット領域で事業を展開し、かつ1カテゴリーにも複数の事業を展開するコングロマリット企業であるA社を紹介します。
固有技術(※注)とは、「真の顧客が求め、認めている自社独自の強み」のことです。 A社は、競技用ツールのブランド企業としてグローバルトップ企業です。同社は、固有技術を軸に水平的多角化することでミッションを追求しています。同社のコア技術の1つである素材加工技術を各事業領域に展開し、3つの事業の柱で構築されています。

(1)スポーツ事業ドメイン
同社は、競技用ツールと備品の製造と販売事業を行っており、主力商品の製造・販売は国内トップシェアを誇ります。競技用ツールは多岐に渡る競技で使用されており、国内外でブランド認知度は高く、ワールドカップで使用される公式試合に同社の製品を提供しており国内ではトップシェアを誇ります。

(2)自動車事業ドメイン
スポーツ事業と並び、事業の柱となるが自動車事業は、グループ最大のビジネスに成長しています。現在、エンジン部品、外装・内装等に使用される部品を多岐に渡り開発から製造販売を行っています。 大手自動車メーカーにも性能が認められ、パートナー契約を締結しており、日本国内で行われる自動車レースの1カテゴリであるスーパー耐久に投入する部品にも採用されています。

(3)医療福祉事業ドメイン
比較的早期の1990年代から医療福祉市場へ参入しており、現在では車いすや手すりなど医療福祉の現場で使用されるプロダクトの製造・販売を行い事業を展開しています。同事業では、生体工学分野の研究から生み出すアカデミックな理論から製品開発・研究を行うことが自社の特徴・強みです。 同社は異なる3事業でブランドを展開。1カテゴリーにも複数の事業を展開するコングロマリット企業でありますが、事業を進めるうえで順守されてきた方針は極めてシンプルです。

・新規事業は既存の技術やノウハウの範囲で行う
・材料が共通か、ほとんど同じものを使う事業にする
です。

※注 企業経営は「1T4M」で表すことができる。 Tはテクノロジーで「固有技術」を示す。4Mはそれぞれマーケット(市場)、マネジメント(管理)、マネー(資金)、マン(人)を示す。企業のテクノロジー(固有技術)とマーケット(市場)とのマッチングは、「事業力」を表す。

「固有技術×マーケット=事業力を高める」

トップブランドに対する甘えの構造を防止する唯一の方法は、自らの手で自らを陳腐化させることしかありません。創造的破壊を自ら起こす以外にないのです。 さもなければライバル企業からイノベーションを仕掛けられ、事業や商品のライフサイクルは終焉を迎え、主役が交代となります。現状のトップシェアの位置に安住せず最も強い製品・サービスを超えようとする意志が、他のドメイン(業界)へ参入であり、新たな挑戦なのです。

ちなみに同社は、スポーツ事業ドメインでシェア2位のライバル社との利益率に5%以上の差を開けています。なぜ両社の利益率にはこれだけの差が出るのでしょうか?結論から申し上げると市場シェア2位か1位かの差であると言えます。事業ポートフォリオ戦略は、ただ事業の数を増やせばよいものではありません。企業のテクノロジー(固有技術)とマーケット(市場)との掛け合わせである「事業力」を高めることが本質なのです。 1つの事業でブランド事業を構築できたなら次はターゲット市場でナンバーワンを目指すことです。これからの時代はナンバーワンしか生き残れません。

なお、この分野、この領域において、真っ先にお客様から声のかかる会社。タナベコンサルティングでは「ファースト・コール・カンパニー」と呼んでいます。 ファーストコールカンパニーは、「変化を経営する会社」です。顧客価値の無限の変化に、自らが変化することで持続的成長を実現する会社を目指してもらいたいと考えています。

メッセージ/あとがき

会社を存続させるためには倒産に陥る事業の致命的リスクを排除する必要があります。自動車業界だけ、電機業界だけ、あるいは1つの主力製品だけに依存している会社がどれほどつぶれていったでしょう。1つの業界や特定の企業・製品にだけ依存し過ぎている経営の危うさであります。経済恐慌を予測できませんが、リスクに強い体質へ転換することなら主体的に出来るはずです。事業構造や事業スタイルを自ら選択、設計することで、備えはできるのです。変化を経営する会社への意思が大切なのです。

著者

タナベコンサルティング
取締役
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部

山本 剛史

大手ゼネコンにて設計・監督業務に従事後、当社に入社。事業戦略を事業ドメインから捉え、企業の固有技術から顧客を再設定してビジネスモデル革新を行うことを得意とするタナベ屈指のコンサルタント。成果にこだわるコンサルティング展開で、特に現場分散型の住宅・建築・物流事業、多店舗展開型の外食・小売事業で、数多くの生産性改善実績を持つ。

山本 剛史

ABOUT

タナベコンサルティンググループは
「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
志を掲げた1957年の創業以来、
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