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ビジョンは企業が目指す未来像であり、事業戦略はそこへ至る具体的な道筋です。両者が連動していなければ、施策を積み上げても望む未来には到達できません。本稿では、その連動性を高めるための考え方と実務上の要点を整理します。
事業戦略とは
戦略とは、端的にいえば「勝てる場の発見と、勝てる条件づくり」です。さらにいえば、ライバルの弱みに自社の強みをぶつけ、競争優位を築くための意思決定でもあります。したがって、戦略は単なる努力目標でも、施策の寄せ集めでもありません。「誰に、何を、どのように」提供し、どう利益を確保していくかを定めるものです。
ここで重要なのが、事業戦略と経営戦略の違いです。タナベコンサルティングの1T4Mの考え方でいえば、Tは固有技術、Mは市場・資本財務・マネジメント・人材を指します。このうち事業戦略は、企業のもつT、すなわち固有技術を、伸びるM、市場、勝てる市場にどう結びつけて利益を確保するかを定めるものです。つまり、「自社は何を強みとしているのか」と「顧客は何を求めているのか」を重ね合わせ、事業として成立させる設計が事業戦略なのです。
一方、経営戦略は、資本財務・マネジメント・人材を先行で実践し、バランス経営を通じて事業の成長を支える考え方です。どの事業に資源を配分するのか、どのような組織で推進するのか、どのような人材を配置・育成するのかまで含めて、全社最適で考える必要があります。事業戦略が成長条件の整備であるのに対し、経営戦略は事業戦略の推進体制を整えるものだといえます。

経営のバックボーンシステムとは
タナベコンサルティングが重視する考え方に、「経営のバックボーンシステム」があります。これは、理念、ミッション、ビジョン、中長期経営計画、そして各戦略・施策が、上位から下位まで背骨が通ったような状態で一貫していることを意味します。
経営理念は企業の存在価値を定義する「不易」の土台です。その直下に位置するミッション・ビジョンは、社会的使命と将来のゴールであり、確固たる意志が反映されるべきものです。そして、そのミッションに到達する道筋を示したものが中長期経営計画であり、その中で事業戦略や経営戦略、そしてそれに基づき組織戦略、財務戦略が設計されていきます。
重要なのは、ビジョンから逆算して中長期経営計画を描き、その実現手段として事業戦略を構築することです。たとえば北へ10メートル進みたいのに、最初の一歩を東へ踏み出してしまえば、いくら歩みを重ねてもその位置には到達できません。方向がずれたままでは、事業戦略は正しく構築されているとはいえず、十分に機能しているともいえないのです。だからこそ、ベクトルを合わせ、ブレイクダウンされた計画や施策をPDCAサイクルで推進することで、ビジョンが成果となって具現化されていきます。

連動性を高めるためには
事業戦略とビジョンの連動性を高めるためのポイントは、3つあります。
第一に、バックキャスティングで描くことです。ビジョンは、何十年後かの未来における自社のありたい姿であり、定性・定量の両面から描かれるべきものです。そして、その途中の到達点が中期経営計画であり、その事業の形を具体化したものが事業戦略です。今の延長線上でできることを積み上げるのではなく、目指す未来から逆算して、どの市場で、どの顧客に、どの価値を提供していくかを定めることが重要です。
第二に、ミッションロイヤリティマップを描くことです。ミッションという核を軸に一本線でつながり、その核に常に事業やソリューションが枝分かれしてつながっている状態を可視化することで、事業戦略がビジョンからぶれにくくなります。ここで特に重要なのは、ミッションの描き方です。自社の都合や現在の事業領域から定義するのではなく、顧客価値から導き出された自社のミッションへ描き直す必要があります。つまり、自社の「生業」は何なのかを再定義することが重要です。たとえばガス会社が自社の生業を「エネルギー関連事業」と定義すれば電力や関連商材へ広がり、「暮らしのインフラカンパニー」と定義すればリフォームや施工にも展開できます。ミッションの再定義は、事業機会を広げるだけでなく、多角化の軸を明確にする意味でも極めて重要です。
第三に、戦略ビジネスユニットで経営戦略に落とし込むことです。事業戦略に則った形で事業単位を構成し、それを組織にも落とし込み、管理会計なども紐づけて業績を追うようにすることが重要です。いわば、事業戦略を組織で具現化するといえます。どのユニットが、どの顧客に、どの提供価値で勝つのかが明確になれば、現場の判断もビジョンと整合しやすくなります。ただし、SBUでは戦略策定や業績管理を各ユニットが独立して行うため、部分最適に陥るリスクもあります。そのため経営層は、各ユニットの動きがビジョンや中長期経営計画から逸れていないかを常に監視し、全社最適の観点から舵取りをしなければなりません。

失敗に陥りやすいパターン
第一は、戦略に基づかないM&Aです。よさそうな案件があると飛びつきたくなりますが、戦略に基づかないM&Aは危険です。事業戦略を一気に狂わせるだけでなく、場合によってはビジョンそのものの再検討を迫ります。しかもM&Aは、多額の資金だけでなく、時間、人材など、あらゆる面で大きなコストを要します。M&Aは目的ではなく、ビジョン・事業戦略を実現するための手段なのです。
第二は、潮流や流行りに流された多角化です。成長市場であることや話題性だけを理由に事業を広げても、自社の固有技術や蓄積してきた経営資源に基づいていなければ、持続的な競争優位は築けません。既存の技術、顧客基盤、販路、人材、ノウハウと結びつかない多角化は、資源配分を分散させるだけでなく、ビジョンの方向性まで曖昧にします。多角化は、あくまで自社の強みを活かせる領域で行うべきものです。
第三は、提供価値と顧客価値の見誤りです。1T4Mの考え方で述べたとおり、自社の固有技術、すなわち強みを、成長市場―言い換えれば顧客ニーズの高い領域―に的確にぶつけていくことが、重要です。
しかし、この強みに基づく自社の提供価値と顧客価値を見誤ると、強みを十分に活かしきれない事業を設計してしまったり、ニーズの乏しい市場に事業を展開してしまったり、さらには真の顧客ではない層にアプローチしてしまうといった事態を招きます。
また、提供価値と顧客価値が明確化されていない状態は、ビジョンそのものが不明確であることを意味します。その結果、ビジョンの実現に向けて策定される中期経営計画や事業戦略も、ビジョンと乖離した方向で描いてしまう可能性が高まります。

まとめ
事業戦略とビジョンの連動性を高めるとは、未来像を美しく掲げることではありません。経営理念を起点に、ミッション、ビジョン、中長期経営計画、事業戦略へと一貫した流れをつくり、上位から下位まで背骨が通ったような状態を構築することです。自社の固有技術を勝てる市場に結びつけ、顧客価値から生業を再定義し、組織と業績管理にまで落とし込む。その積み重ねによって、理念・ビジョンは成果となって具現化されていくのです。
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