前回は、値上げだけでは利益が十分に残らない背景に、現場に埋もれた改善余地があることを整理しました。
今回はその続きとして、では、その改善余地はどこにあるのかを一段と具体的に見ていきます。
食の現場で利益を削っているのは、原材料費や人件費といった大きな要因だけではありません。帳票や会議で明確に問題化されていないものの、現場の中で少しずつ利益を削っている損失があります。
本稿では、それを"見えていない損失"として捉え、構造化して整理します。
1. "見えていない損失"が、利益を静かに削っている
見えていない損失とは、数字や感覚のレベルではうすうす認識されていても、改善対象として整理されていない損失のことです。厄介なのは、一つひとつは小さく見えても、複数が重なることで収益に大きく影響する点です。
たとえば、
- ・原価のズレ
- ・ロスの見落とし
- ・動線や工程のムダ
- ・教育負荷
- ・属人化
こうした要素が重なると、現場は「なんとなく忙しい」「利益が出にくい」「改善しているのに手応えが薄い」という状態に陥ります。だからこそ、分析や原価管理をするときも、単一テーマではなく構造で見る必要があります。
2. まず押さえたい、見えていない損失の4分類
食の現場で見落とされやすい損失は、主に次の4つに分けて考えると整理しやすくなります。
① 原価の損失
- ・予定原価が見えていない
- ・実績原価との差異が不明
- ・歩留まりや使用量の実態が未反映
- ・メニュー別採算が見えない
② ロスの損失
- ・賞味期限切れ
- ・キャンセルロス
- ・ポーションミス
- ・過剰調理
- ・作り直し
- ・仕込み過多
③ 動線と工程の損失
- ・探す
- ・取りに行く
- ・待つ
- ・戻る
- ・段取り替え
- ・二重作業
④ 教育負荷と属人化の損失
- ・教え方のばらつき
- ・ベテラン依存
- ・判断集中
- ・引き継ぎの曖昧さ
- ・ミス再発
- ・立ち上がり遅延
この4つは別々に起きているのではなく、重なり合いながら利益を圧迫しています。
3. 原価の損失|数字はあるのに、実態が見えていない
最初に見たいのは原価です。ただし、ここで言う原価は、仕入単価の上昇だけではありません。
問題になりやすいのは、
- ・予定原価がない
- ・実績との差異が見えない
- ・歩留まりの影響が反映されていない
- ・採算が商品別・メニュー別に見えていない
といった状態です。
数字として原価率を追っていても、「どこで、何が、どれだけ利益を削っているのか」が見えていなければ、改善は進みません。これは外食でも食品製造でも同じです。見えていない原価は、そのまま見えていない損失になります。
4. ロスの損失|"ロスはない"と思っていると、見落とす
次に大きいのがロスです。現場では、「ロスはあまりない」と言われることがあります。ただ、よく聞いてみると、そのときイメージされているロスは、賞味期限切れや廃棄だけだった、というケースが少なくありません。
実際には、ロスにはもっと多くの種類があります。
- ・キャンセルで無駄になったもの
- ・注文数以上に作ってしまった過剰調理
- ・ポーションコントロールミス
- ・仕込み過多
- ・作り直し
- ・機会損失
つまり、本当に怖いのはロスがあること以上に、ロスの定義が狭すぎて全体像が見えていないことです。この視点がないと、コスト削減も、原価改善も、表面的なものになりやすくなります。
5. 動線と工程の損失|"細かいムダ"が現場を疲弊させる
食の現場では、動線や工程の損失も見逃せません。これは特に、業務効率化やオペレーション改善を考えるうえで重要な論点です。
たとえば、
- ・取りに行く回数が多い
- ・探す時間が発生している
- ・配置が悪く、移動が多い
- ・工程が複雑で、段取り替えが多い
- ・情報共有のタイミングが遅い
こうした損失は、現場では"細かいこと"として扱われがちですが、積み重なると人時生産性に直結します。特に人手不足の環境では、このムダが慢性的な忙しさを生み、教育や改善の時間まで奪っていきます。
6. 教育負荷と属人化の損失|見えにくいが、確実に利益に影響する
最後に触れておきたいのが、教育負荷と属人化です。これは第2回の主役ではありませんが、他の損失を固定化しやすい論点として見逃せません。
- ・教える内容が人によって違う
- ・ベテランしか教えられない
- ・引き継ぎが感覚的
- ・一部の人しか判断できない
- ・データはあるが現場で使われていない
こうした状態では、改善活動は個人依存になりやすくなります。結果として、新人の立ち上がりが遅れ、ミスが再発し、現場が安定しません。人手不足の対策を考えるときも、採用だけではなく、こうした教育負荷や属人化の整理が欠かせません。
7. 事例|宴席や会食・仕出しを行うサービス企業の厨房で見えてきた"想定外のロス"
以前、年商30億円規模の宴席や会食・仕出しを行うサービス企業の厨房原価管理体制の改善に関わったことがあります。この現場でも、最初は「原価管理を強化したい」というテーマで話が始まりました。
実際に見ていくと、確かに原価の可視化は必要でした。ただ、問題は単に原価率が高いことだけではありませんでした。
まず、そもそもの予定原価が見えていない状態がありました。実績原価を見ても、それが適正なのか、どこにズレがあるのかを判断しにくい状態です。これでは、改善の出発点がつくれません。
さらに、当初は「ロスはあまりない」という認識もありました。ただ、そのとき現場がイメージしていたロスは、主に賞味期限切れの廃棄でした。ところが、実際に調査していくと、ロスはそれだけではありませんでした。
- ・注文が入っていたがキャンセルになったもの
- ・ポーションコントロールミスで注文数より多く調理していたもの
- ・想定より多く仕込んでしまったもの
- ・ロスとして認識されていなかったもの
こうしたロスを一つひとつ見ていくと、思っていた以上の金額ロスが発生していたのです。
ここで重要だったのは、「ロスがあるらしい」という感覚論で終わらせなかったことです。予定原価を見えるようにし、実績とのズレを整理し、ロスの定義を広げ、実態を可視化していく。そうすることで初めて、「どこに利益の改善余地があるのか」が現場と共有できるようになりました。
結果として、この支援では、料理原価率を37%から35%未満へ、ドリンク原価率を30%超から平均25%へ改善していきました。本質は、数字が改善したことそのものではなく、見えていない損失を見えるようにしたことで、改善の打ち手が具体化したことにあります。
8. 損失は単独ではなく、重なっている
ここで大事なのは、損失は単独で存在することが少ないという点です。原価が見えていない会社では、たいていロスも埋もれています。工程が複雑な現場では、教育負荷も高くなりやすい。属人化が強い組織では、数字が改善に使われにくい。
つまり、利益を削っているのは、一つの大きな問題ではなく、複数の小さな損失の重なりであることが多いのです。だからこそ必要なのは、「どの損失があるか」だけではなく、「どの損失が、どの損失とつながっているか」まで見にいくことです。
9. 次回は、収益改善が進む現場の条件を考える
見えていない損失を見つけられたとしても、改善が進む会社と進まない会社があります。その差はどこにあるのでしょうか。
次回は、ウェビナーにもつながるテーマとして、収益改善が進む現場に共通する条件を整理していきます。標準化、見える化、巻き込み。改善が一過性で終わらず、現場に定着していく会社に共通するポイントを考えます。
~外食多店舗・食品製造に共通する「現状把握からデジタル活用」の具体ステップ~
