COLUMN

2022.11.22

不確実性を増す日本及び世界経済の展望
<グローバル戦略フォーラム>

本コラムはタナベコンサルティングのTCG REVIEWにて掲載している記事を転載したものです。
※登壇者の所属・役職などは開催当時のものです。

長期的視点と成長分野を見極めて海外進出を図る

不安定な世界情勢下においても、国内市場の縮小などを考えた場合、日本企業のグローバル戦略は不可欠です。そこで重要になるのが、世界情勢を読み解き、リスクを回避しながら成長分野へ投資を進めることです。

海外市場の動向については、米国では個人消費や雇用が足元でも堅調ではありますが、高インフレが続いており、大幅かつ急速な利上げの影響で景気後退リスクが高まっています。米国に比べて経済状況が深刻なのがヨーロッパです。ロシアからのエネルギー依存度が高く、ウクライナ危機の長期化でエネルギーの価格高騰や調達難に直面しており、経済活動が急速に悪化しています。

日本は経済正常化で欧米に後れを取っています。しかし見方を変えれば、インバウンド消費や日本人のサービス消費、自動車の生産において回復余地が大きい状況です。欧米のような深刻なインフレは発生しておらず、財政・金融の両面で緩和的な政策が実施されています。大和総研では、厳しい外部環境の中でも経済正常化が景気を下支えすることなどにより、2022、23年度の実質GDP成長率は+2%前後で推移すると見込んでいます。

グローバル戦略を進める上で重要性を増しているのが、「経済安全保障」の観点です。中国やロシアといった権威主義国家と、日本や欧米などの民主主義国家との対立は長期化するでしょう。効率性や安さを重視して構築されてきたサプライチェーンは見直しを迫られており、今後は紛争や経済摩擦によりサプライチェーンが寸断されないように、安定性を重視して進出する地域を見極めなければなりません。

最も安全な国内生産に切り替えるという考え方もありますが、国内では人口減少が長期的に進み、特に働き手の減少が深刻になる見通しです。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によると、働き手の多くが含まれる20~65歳人口は2065年までに4割ほど減少すると見込まれています。生産や販売を行う上では、国内と海外でバランスよく事業を展開する必要があります。民主主義など同じ価値観を共有でき、同じルールでビジネスができる国や地域を選んでいただきたいと考えます。

経済安全保障を重視することで事業コストは増加するでしょうが、企業収益の拡大と両立させるためにも、大きな成長が望める領域へのアプローチが重要となります。自前主義にとらわれず、国内外の企業との間でオープンイノベーションを進めるなどして、高品質かつ付加価値の高い製品・サービスの開発、販売を進める必要があります。

今後は、「安全保障」「成長分野」「高付加価値」というキーワードを念頭に入れつつ、進出する地域や分野を見定めることが不可欠になります。1、2年という短期ではなく、5年や10年といった中長期の視点で経営戦略を策定することが望ましいでしょう。

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    著者

    株式会社大和総研
    経済調査部 日本経済調査課長
    シニアエコノミスト

    神田 慶司氏

    2004年一橋大学経済学部卒業、大和総研入社。内閣府出向などを経て、2019年より経済調査部日本経済調査課長。専門は日本経済、財政・社会保障で、著書は『この1冊でわかる世界経済の新常識2022』(日経BP社、2021年11月、共著)など。テレビ出演多数。現在、参議院 企画調整室の客員調査員も務める。

    神田 慶司氏

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