COLUMN

2023.09.13

自動車部品製造業が実施すべき
「2つのマーケットから見た3つの戦略パターン」

自動車業界は連日報道されているように、EV転換が推し進められており、メーカー・ティア1企業は新たな中期ビジョン・戦略を打ち出しています。
一方で、自動車業界の下支えをしている「自動車部品製造業」は業界の情報収集は実施しているものの、自社の将来の方向性を明確に示すまでの行動ができていない状況といえます。

しかし、大きな業界転換期であるからこそ、自社が勝ち残るための中期経営計画を策定し、向かう方向を社員に示すことが重要となります。
今回は、実際の事例を踏まえながら戦略策定の方法を紹介していきます。(図1)

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図表1

出所:タナベコンサルティングにて作成

中期経営計画を描くために市場を正しく捉える

EVシフトを正しく捉える

現在のEV(電機自動車)化の発端は、2015年12月に採択された「パリ協定」であり、地球環境配慮のためのグリーントランスフォーメーションと言われています。これまで、日本企業に押され続けてきた世界の自動車メーカーにとっては、まさにゲームチェンジのチャンスとして、世界の自動車メーカーが力強くEVシフトを進めています。

自動車業界の将来予測は難しい状況ではあるものの、現時点での自動車業界の予測としては、ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車を含めた「国内エンジン部品搭載車」は2040年時点で70~80%程度は残ることが予想されています。

EV普及課題の背景には、充電ステーション数・充電時間などインフラ整備の問題や、メーカーのハイブリッド開発によるさらなる燃費向上など、さまざまな要因が複雑に絡み合っており、EV化の変化スピードは冷静に判断する必要があるといえます。

「自動運転技術」を正しく捉える

自動運転については、"レベル4"が2023年4月に改正案が行われるなど、技術革新と法整備が活発な状況といえます。自動運転と聞くと、ハンドルを握らず、アクセルも踏まないというイメージをする方も多いと思いますが、ここでは、「踏み間違い防止機能」「レーダーシステム」などの安全機能を含めた"センシング技術"も含めて、自動運転技術と捉えていきます。

自動運転の進化については、世界中の自動車メーカーが自動運転技術の開発を進めており、今後数十年以内には、「運転支援(自動運転レベル1)」が当たり前になるともいわれています。特に日本においては、高齢車の自動車事故数が増加しており、深刻な問題となっており、自動運転技術の導入が必要不可欠とされています。

中期経営計画を描くために市場を正しく捉える

「2つのマーケット視点」から見た自動車部品製造業への影響

EVシフトの影響

先ほど示したEVシフトを自動車部品製造業は、どのように捉えれば良いのでしょうか。
EV車(電気自動車)は内燃機関車に比べてEVは複雑な構造を持たず、エンジンやトランスミッションなどの部品が大幅に削減されると言われています。EVシフトに伴い、"無くなる"と予測される自動車部品については下記が挙げられます。

(1)エンジン関連部品
EVは燃焼エンジンを持たないため、エンジン関連部品(エンジン自体、シリンダーヘッド、クランクシャフト、ピストンなど)が不要となります。

(2)燃料・排気システム
EVは電気となるため、ガソリンタンクや、排気パイプや排気マフラーといった排気システムも不要となります。

(3)トランスミッション・クラッチ
EVは1つのギアやマルチスピードトランスミッションとなるため、クラッチや多段のトランスミッションが不要となります。

一方で、これらの部品が減少する一方で、新たな部品も必要になります。
例えば、大容量のバッテリーや高性能なモーター、充電インフラストラクチャー関連の部品などが挙げられます。

自動運転技術の影響

自動車の自動運転技術が向上している現在、自動車産業は急速に進化しています。
自動運転技術の向上により、以下のような自動車部品の変化が予想されます。

(1)センサー技術
自動車は様々なセンサーを使用して周囲の状況を感知します。レーダー、カメラなどのセンサーが進化し、より高精度かつ幅広い範囲の情報を提供するようになる。

(2)制御システム
自動運転車は高度なコンピューターシステムを使用して運転を制御するため、センサーからの情報を元に意思決定を行い、ステアリング、アクセルの制御を自動化するための電気制御化が進むことが予想されます。

(3)安全装置
自動運転車は安全性が最重要課題です。自動ブレーキ、衝突回避システム、自動運転中のドライバーモニタリングなど、ブレーキ制御系の電気制御化が進むと予想されます。
つまり、自動運転技術の進化により、自動車の制御系は「油圧」から「電気制御」へと置き換えが進むことが予想されます。

EV化・自動運転化に伴う変化を「3つのセグメント」で分類する

自社取扱い製品の現状認識「進化」「維持」「衰退」

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図表2

出所:タナベコンサルティングにて作成

上記のように、「EVシフト」「自動運転による電気制御化」という自動車業界の変化に伴い、自社の取扱い製品がどのように変化していくかを正しく予測していくことが重要となります。図1に示すマップに自社製品を一度入力し、全体俯瞰図を作成することが、戦略作成の第一歩となります。

(1)進化
前述の自動車業界の変革に伴い、形状やサイズが変更となる部品がこの分類となります。その部品が将来どのような形状に変化していくのかを予測し、その変化に対して自社の加工技術が適応可能かを判断します。
部品の進化の着眼点は「統合・大型化」「シンプル化」「材料変更」で整理していきます。

①統合・大型化
EV車は走行距離延長を目的とした軽量化が一般的課題であり、部品の一体化が進化の方向性となります。

②シンプル化
EV車になることにより、部品点数は大幅に削減されます。その中で部品は無くならないが、部品構造がシンプルになる可能性が考えられます。

③材料変更
EV化軽量化に伴い、部品材料の変更が予想されます。鉄→アルミ化・樹脂化という変更に伴い自社はどこまで対応が可能なのかを検討する必要があります。

(2)維持
業界変革が起こっても、形状・部品数に影響が無いと予想される場合がこのグルーピングです。
「維持」に分類されるのはタイヤ・サスペンション・ボディ構造・インテリアデザイン・快適性に関わる部品が挙げられます。維持に該当する製品であれば、自動車業界の変革の影響は低いと考えられます。

(3)衰退
これらの分類は、前述でも挙げたようにエンジン関連に関わる部品が分類されます。
一般的には「エンジン関連部品」「燃料供給関連部品」「排気システム」「トランスミッション・クラッチ」「ラジエーター」が衰退に分類されます。

EV化・自動運転化に伴う変化を「3つのセグメント」で分類する

自動車部品製造業が描く「部品分類から見た3つの戦略」

上記で作成した「全体俯瞰図」からEV化・自動運転化という大きな転換が起きても、残る部品で立てられる売上・利益を算出してみる。これが、将来のベース基盤となる。これを基準として、戦略構築を実施する。
戦略パターンは、「環境適応成長」「現状規模維持」「体質改善」の3つから選択することから始まります。

技術を活かした進化・成長戦略

前述のマップに記載していない「EV化・自動運転化に伴い、新たに生まれる部品」を徹底的に洗い出し、自社が獲得可能な部品にフォーカスし、自社の成長の軸としていきます。改めて自社の加工技術を再度洗い出し、自社の強みである技術軸定め、そのコア技術で今後新たに増える部品商材を獲得する戦略を描くことが求められます。
現時点での強みがEV化で新たに生まれる技術開発に適応できない場合は、新技術開発実施、技術を持った企業のM&Aなどを早急に検討する必要があります。業界の進化は非常に早いため経営陣は早急なジャッジが必要となります。

維持部品を軸にしたブランディング戦略

前述の分析実施で、既存製品の90%以上が「残り福」であれば、現状を維持するため戦略も可能です。しかし、何もしなくてもよいということではなく、より厳しくなる環境下で、これまで以上に顧客から選ばれ続けるための戦略構築がカギとなります。「顧客ロイヤルティの維持」を目的とした、ブランディング強化への投資が必要となります。
顧客から「何で選ばれるのか」を再定義し、社員へのインナーブランディング、顧客に向けたアウターブランディング強化を行います。

事業変革を見据えた体質改善戦略

現状取り扱っている部品が、将来減少していくことが分析で明らかになり、かつ自社の強みを新たな製品に適合できない場合は売上減少でも耐えうる利益改善が必須です。また、現状の取扱い部品の徹底的な原価管理を行い、徹底した値上げ交渉を行い、同時に、自動車業界以外からの受注対応可能な、少ロット多品種への転換も必須となります。

以上のように、自動車業界のゲームチェンジが行われる中、一番危険な行為は「様子見」と言えます。誰も予想できないからこそ自社の戦略を構築し、社員一同で方向性を見出す必要があります。自動車部品製造業こそ、未来予測と中期経営計画策定を早急に策定することが求められます。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング
チーフマネジャー

平井 栄太

医療・福祉メーカーで、エンジニアとして製品の設計・開発業務に従事。 入社後、現場で培った経験を基に、製造業を中心とした業績改善コンサルティングを展開。 ブランディング構築支援から、生産現場改善までの幅広いバリューチェーン改善で、クライアントの業績向上に貢献している。

平井 栄太

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