COLUMN

2023.04.21

SDGs視点で考える男性「産後パパ育休制度」とは?

2021年6月の育児・介護休業法改正により、新たに「産後パパ育休制度」が創設されました。これは産後8週間以内に28日を限度として2回に分けて取得できる休業で、1歳までの育児休業とは別に取得できます。

産後パパ育休制度の目的

なぜ今男性の育児休業取得が促されているのか

男性の育児休業取得促進は、SDGs目標5 の「ジェンダー」に密接に関係しています。
厚生労働省「雇用均等基本調査」によると、日本における2021年時点の男女別育児休業取得率は女性が85.1%であるのに対し、男性は14.0%です。男性の育児休業取得率も近年上昇傾向にありますが、育児休業取得期間は女性の9割が6か月以上であるのに対し男性の約5割が2週間未満であり、男女平等とはほど遠く育児の多くは女性が担っているのが現状です。
SDGs目標8の「経済成長と雇用」については、女性が大部分の育児を担当する状況下では本人が望むようなキャリアの形成は難しく、やがては離職に繋がってしまい、雇用にも悪影響が生じます。
それらの問題を解決するのが男性の育児休業取得です。男性が積極的に育児休業を取得し育児を分担することができれば、ジェンダーギャップの解消や雇用面で効果が期待できるのです。

育児・介護休業法の改正について p5,p6

産後パパ育休制度の目的

政府目標と企業に求められる対応

政府は2025年時点で 第1子出産前後の女性の継続就業率70%の目標を掲げています。また、男性に対しては、2025年時点の育児休業取得率30%を目標としています。
産後パパ育休制度では、これまでの「原則子が1歳になるまでに育休が取得できる」ということに加え、「子の出生後8週間以内に4週間まで育休を取得可能」が追加されました。
企業側では、従業員が円滑に育休を申し出、取得できるようルール整備を行うことが求められます。例えば、あらかじめ制度を導入し就業規則に規定する、制度の周知徹底を図る等の対応が必要です。
育児・介護休業法に罰則規定は定められていませんが、従業員からの正当な申し出を拒否することは明確な法令違反であり、各都道府県労働局が調査に入り、行政指導を行うことがあります。
男性従業員から育児休業の申し出があった際は、ルールに則り公平に対応することで、従業員満足度の向上に繋げて行くことが望まれます。

育児・介護休業法の改正について p3,p5 月間保団連2022年3月号61_雇用問題

政府目標と企業に求められる対応

取り組み企業事例

本田技研工業株式会社

業種:輸送機器メーカー
連結売上高:14兆5526億円(2022年3月期)
従業員週:146,092名(2022年3月時点)

本田技研工業株式会社では2018年~2025年の大方針でダイバーシティマネジメントを推進しており、その中で仕事と育児・介護の料率支援制度の拡充として、男性従業員の育児休業取得を柔軟にしています。
具体的な取り組みとしては、実際に育児休業を取得した男性に事例を社内外に発信、外部講師を招き経営層を対象とした男性育児参画促進セミナーを開催、男性育休に関する理解促進を目的に「多様性の取り組み」を伝える漫画を作成といったことを行っています。
男性育児休業事例については、2022年に4件の事例をHP上に掲載。内容は育児休業申請時の周りの反応だけでなく、育児休業中に残されたメンバーの業務への影響も盛り込まれています。また、多様な働き方として夫婦で順番に育児休業を取得したケースなどもあり、広く従業員に育休取得を後押しする内容となっています。

Hoda 全従業員への取り組み強化/ 女性活躍拡大の継続

JSR株式会社

業種:化学メーカー
連結売上収益:3,410億円(2022年3月期)
従業員週:7,374名(2022年9月末時点)

JSR株式会社は株式会社ワーク・ライフバランスが提唱する「男性育休100%宣言」プロジェクトへの賛同を表明し、2021年実績で男性の育休取得率72.7%を達成しました。同年には101名の男性従業員が育休を取得しています。
育休の対象期間は子供が1才6ヵ月になるまでで、保育所に入所できない等の場合は最長2才まで延長となります。
育休中の賃金については、休業開始から5日間は基本賃金の50%を共済会から給付されます。
同社では2015年にダイバーシティ推進室を発足させ、ダイバーシティ推進を重要な経営課題と位置づけています。
「2024年度に向けた経営方針」には「ワークスタイルイノベーション」を注力テーマの一つとして掲げるなど、全社的な取り組みを継続しています。

男性育休取得率:JSR社HP ダイバーシティ推進室 2024年度に向けた経営方針

SDGs視点で見る産後パパ育休制度のポイント

産後パパ育休制度がもたらす企業側へのメリット

積極的に産後パパ育休制度に取り組むことに対し、働き盛りの従業員が休暇で仕事から離れてしまうというマイナス面を考える経営者もいるかもしれませんが、この取り組みには多くのプラス面があります。
まずは求人に対する効果です。多くの企業は現在人材不足の問題を抱えています。求職者は仕事内容や賃金だけでなく、福利厚生も応募の判断材料としますが、そこで男性の育休取得率が高いことは一つのアピールポイントとなります。次に投資家目線での効果です。多くの投資家は企業のESGへの投資状況に関心を持っています。男性の育休取得促進は、ESGのSに関する項目であり、アピールポイントになります。さらに、当然現在の従業員に対しても効果があります。現在の従業員に対しては、企業が柔軟な姿勢を示すことで従業員エンゲージメントを高めることにも繋がる上、出産・育児を経ても継続して勤務する従業員が増加することにより、知識や経験を持つ人材の流出を防止することにも繋がります。
そしてこれらのメリットのそれぞれがSDGs目標の達成や更なる企業価値の向上に貢献するという好循環を生み出すことに繋がります。

SDGs視点で見る産後パパ育休制度のポイント

男性による育児休業取得状況の今後の見通し

2022年6月、東京都は「育休」を「仕事を休む期間」ではなく「社会の宝である子供を育む期間」と考える社会のマインドチェンジに向け、育児休業の愛称を「育業」(いくぎょう)に決定しました。この愛称の認知が広がるにつれ、育児は「未来を担う子供を育てる大切で尊い仕事」と認識されるようになるでしょう。
2023年4月からは従業員数1000人超の企業は男性従業員による育児休業取得率の公表が義務付けられます。これを機に大企業を中心に男性の育休取得への姿勢に変化が生じることが予想されます。さらには今後、公表義務化の対象が中小企業に拡大される可能性もあり、中堅企業、中小企業もあわてないように準備しておく必要があります。
SDGsの目標達成期限である2030年には、男性の育休取得率30%の目標が掲げられています。男性の育休取得率向上は持続可能な社会実現のためにも大切な取り組みです。
今は政府主導で男性育休取得率向上を目指していますが、企業それぞれがそれを必要な対応と認識し、独自の取り組みを行う企業が増えてくることが期待されます。

育業

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
チーフコンサルタント

原田 裕

大手CVSチェーン本部にて直営店舗の運営及びFC加盟店への経営指導、その後アパレルメーカーで海外製造工場にて品質責任者として工程改善や5S改善、ISO9001の更新監査対応などを指揮し、当社へ入社。経営者に寄り添うコンサルティングを信条とし、経営全般へのコンサルティングを強みとしている。中小企業診断士、MBA取得。

原田 裕

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