COLUMN

2022.12.28

SDGsバリューチェーンマッピングのポイント

全世界の共通課題であるSDGsに企業が取り組むとき、自社にとって網羅的かつインパクトの高い取り組みは何かという見極めが非常に重要になります。17のゴール169のターゲットすべてに取り組むことは不可能ですし、その必要はありません。自社の特長を活かして貢献インパクトの大きなテーマに絞って取り組むことが重要になります。
この、自社にとって網羅的かつインパクトの大きな取り組みが何かを見つけるために用いられるのが「バリューチェーンマッピング」です。
SDG Compassの「ステップ2 優先課題を決定する」にも「バリューチェーンをマッピングし、影響領域を特定する」という記載があります。
バリューチェーンマッピングを活用して優先課題を決定するそのポイントをまとめましたので見ていきましょう。

バリューチェーンとは?

そもそもバリューチェーンとは何でしょうか?
バリューチェーンとはマイケル・ポーターの「競争優位の戦略」に出てくる考え方で、「価値連鎖」と翻訳されます。主活動と支援活動に分かれており、顧客に価値をもたらすための企業の活動プロセスを表しています。この活動プロセスのそれぞれで価値を付加していくことで顧客への提供価値を最大化させ、他社と差別化するといった考え方です。 バリューチェーンを構成する主活動の項目は業種によって一部異なります。

例えば、製造業の場合
購買→製造→物流→営業→サービス
小売業の場合
企画→仕入→店舗運営→集客→販売→サービス
など、業種によっても異なりますし、同業種であっても各企業によっても異なることもあります。

【引用】
SDGCompass
https://sdgcompass.org/wp-content/uploads/2016/04/SDG_Compass_Japanese.pdf

まずは自社のバリューチェーンを明確にすることから始める

皆さんの企業におけるバリューチェーンを明確に定義することはできていますでしょうか?まずは自社におけるバリューチェーンを設定することから始まります。
自社の製品やサービスは上流工程から下流工程までどのようなプロセスを経て顧客へどのような価値を提供しているのか、その各ステップを明確にしましょう。
バリューチェーンにおける顧客への価値提供ポイントを強化し、さらにそのポイントを複数増やす取り組みは2030年に向けた企業の成長戦略にとって非常に重要な着眼点となります。この議論は自社のパーパスやコア・コンピタンスを見直すためにも非常に意味のある議論となります。しっかり検討しましょう。

バリューチェーンごとに正の影響・負の影響を整理するための3つのステップ

SDG Compassには「自社のバリューチェーンのマッピングを高いレベルで実施し、SDGs のいう諸課題にそれが負または正の影響を与える可能性が高い領域を特定することから、この影響評価を開始することを奨励する。現在の影響と将来考えられる影響の両方にしかるべき配慮をする必要がある」と記載されています。
具体的にこの検討の進め方を解説します。

STEP1:自社のバリューチェーンを設定する
前出の通り、自社のバリューチェーンを設定することからスタートします。
自社独自の主活動と支援活動を設定しましょう。

STEP2:バリューチェーンの各段階で正の影響と負の影響を洗い出す
バリューチェーンの主活動の各段階および支援活動において自社が取組んでいることで正の影響を与える活動と負の影響を与える可能性のある活動を洗い出します。 インサイドアウトの視点で現在の影響を洗い出すことに加えて、アウトサイドインの視点で将来考えられる影響を洗い出すようにすることが重要です。
インサイドアウトの視点での洗い出しはスムーズに出ると思いますが、大切なのはアウトサイドインの視点で将来の影響にも想像力と創造力を働かせることです。

STEP3:洗い出したリストを俯瞰しインパクトの大きな項目に絞り込む
バリューチェンごとに正の影響と負の影響を洗い出すと現在のコア・コンピタンスや今後のコア・コンピタンスとなり得るポイントが見えてきます。
それらを俯瞰して見てインパクトの大きな項目に絞り込みます。
その際のスクリーニングのポイントは、社会貢献の大きさ、環境貢献の大きさ、経済価値の大きさ、自社のミッション・ビジョンとの整合性、実施難易度などで点数付けします。
そして絞り込んだ項目がSDGsのどのゴール・ターゲットに貢献するかの関連付けを行います。

このようにバリューチェーンマッピングの手法を活用することで、自社にとって網羅的かつインパクトの大きなSDGsの取り組みが何かを見つけることができます。

バリューチェーンマッピング事例① 日本製紙グループ

日本製紙グループが実施しているバリューチェーンマッピングをご紹介します。 「当社グループは、バリューチェーンの各段階におけるSDGsに与える影響を整理しています。それらは、当社グループの理念を実現するための重要課題に関わるSDGsと重なります。」と表明しています。(日本製紙グループ統合報告書2021より)

バリューチェーンを、原材料調達→生産→輸送→販売・使用→分別・回収・リサイクル・廃棄と設定しています。 それぞれのバリューチェーンにおける経済・環境・社会への正の影響の強化と負の影響の軽減を整理しています。

<経済・環境・社会への正の影響の強化>
■原材料調達:
"持続可能な森林資源の活用"
森林の公益的機能と生態系サービスの持続的利用を可能にします。
■原材料調達、生産、販売・使用、分別・回収・リサイクル・廃棄:
"持続可能な社会の構築に貢献する製品"
木質資源の特性を活かした3つの循環を強化し、技術力で、多様なバイオマス製品を提供するとともに、積極的なリサイクルを推進します。

<経済・環境・社会への負の影響の軽減>
■生産:
"環境負荷の低減"
水、大気、土壌に負荷を与える排出を抑制するとともに、資源の循環利用を進めます。
■原材料調達、生産、輸送、販売・使用、分別・回収・リサイクル・廃棄:
"気候変動への対応"
省エネルギーに継続して取り組むとともに、エネルギー構成の見直しにより温室効果ガス(GHG)排出量を削減します。

【引用】
日本製紙グループ 統合報告書2021
https://www.nipponpapergroup.com/ir/npg_ir_2021_all.pdf

バリューチェーンマッピング事例② ヤマハグループ

ヤマハグループが整理しているバリューチェーンとサステナビリティ課題をご紹介します。「ヤマハグループは楽器をはじめとする多様な製品・サービスを世界中のお客さまに提供しています。製品・サービスとそれらを生み出す一連のプロセスが社会と環境に与える影響を踏まえて、バリューチェーンにおける諸課題に取り組み、自らの社会的責任を果たしていきます。」(ヤマハグループ ホームページより)

バリューチェーンを、開発→調達→生産・物流→販売・使用→保守・リサイクルと設定しています。 それぞれのバリューチェーンにおけるサステナビリティ課題を整理しています。

■開発:
環境・社会課題を見据えた製品・サービスの開発
(エコプロダクツ、ユニバ―サルデザイン、ソリューション提案)
製品・サービスの環境・社会への影響評価
知的財産の適正利用
■調達:
環境・社会に配慮した原材料調達
(持続可能な木材利用、紛争鉱物への対応)
サプライチェーンでのサステナビリティ推進
(労働慣行・安全衛生、環境保全)
汚職・腐敗防止
■生産・物流
環境保全
(温室効果ガス排出削減、汚染の防止、化学物質の適正管理、原材料・エネルギー・水節減)
労働安全衛生
事故・災害防止
技能伝承
■販売・使用
使用時の安全性確保
適正な表示・広告
製品・サービスの公平な提供
持続可能な消費の啓発
汚職・腐敗防止
公正な競争
地域ニーズへの対応
■保守・リサイクル
アフターサービスの公平な提供
個人情報の適正管理と漏えい防止
使用済み製品の適正処理と回収・リサイクル
メンテナンス人材育成

【引用】
ヤマハグループ
https://www.yamaha.com/ja/csr/value_chain_and_socialissues/

まとめ

今回ご紹介しましたSDGsバリューチェーンマッピングを活用して、自社における網羅的かつインパクトの大きなSDGsの取り組みが何かを明確にしましょう。
それが自社の将来にわたって事業を成長させるコア・コンピタンスの発見や自社らしい貢献度の大きなSDGsへの取り組みに間違いなくつながります。
さらにはその検討過程や結論をホームページで発信することで、企業ブランディングにもつなげていきましょう。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
エグゼクティブパートナー

巻野 隆宏

専門分野は事業戦略の立案をはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたる。企業の持続的な変化と成長のサポートに取り組み、志ある企業・経営者のパートナーとして活躍中。「高い生産性と存在価値の構築」を信条とし、明快なロジックと実践的なコンサルティングを展開。建設業、製造業を中心に中・長期ビジョン構築において事業の選択と集中で高収益ビジネスモデルへの変革を数多く手掛けてきた。

巻野 隆宏

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