COLUMN

2025.08.29

統合報告書と中期経営計画の関係性とは?

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統合報告書と中期経営計画の関係性とは?

企業経営における統合報告書の作成・開示の必要性は、高まっていくことが予想されます。企業価値を高める計画としての中期経営計画と、その計画の結果を開示する統合報告書は、対の情報として捉えられ、その結果が良好な企業は、社会に必要とされる企業として見られる傾向があります。

今、なぜ統合報告書が必要なのか?

年々増加する統合報告書発行企業数とその背景

国内における統合報告書発行企業数は増えており、宝印刷D&IR研究所 ESG/統合報告研究室が発行した「統合報告書発行状況調査2024 最終報告」によると、2024年に発行された統合報告書の数は1,150社です。これは、前年の同時期(1,019社)と比較して131社増加したと発表されています。
元々2010年代から統合報告書の作成・開示を行う企業は増えてきていましたが、この増加の大きなきっかけとなったのが、2019年に金融庁と東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンス・コードの改定です。その中で上場会社に対し、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報などの非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきとされました。このことにより、会社の財政状態・経営成績などの財務情報を中心に開示を行う有価証券報告書、企業の年間の活動状況をまとめた報告書であるアニュアルレポートに加えて、企業の財務情報だけでなく環境、社会、ガバナンス(ESG)などの非財務情報も合わせて開示する統合報告書が必要とされました。
上記「統合報告書発行状況調査2024 最終報告」においては、統合報告書発行と株価の関係性についても示されており、統合報告書発行に対して株価に対する影響もあると考えられています。この点においても統合報告書の重要度は高まっていると考えられます。

今、なぜ統合報告書が必要なのか?

統合報告書と中期経営計画の違いとは

統合報告書とは

統合報告書とは、企業の財務情報と非財務情報を統合して開示する報告書です。その作成・開示の目的としては、企業の財務情報と非財務情報を統合し、価値創造プロセスをステークホルダーに説明することです。開示の主な対象としては、投資家、ESG評価機関、アナリスト、従業員、顧客、地域社会など、企業のステークホルダー全般であり、その対象に対し、企業の戦略、ガバナンス、ビジネスモデル、財務実績などの企業戦略・財務情報と、ESGへの取り組みなどの非財務情報を統合して開示していることが一般的です。
有価証券報告書やアニュアルレポート(年次報告書)との違いは、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)といった財務情報に加え、企業のビジョン、経営戦略、環境・社会・ガバナンス(ESG)などの非財務情報を記載していることです。財務情報と非財務情報を一体化させて構成し、統合的に情報を開示することで、自社のサステナビリティ(持続可能性)と長期的な価値創造について伝えることを目的としています。
統合報告書は"報告書"であるため、その企業が過去から現在までに取り組んできた結果・実績についてまとめているという点が強いです。そのことにより、その企業の"現在"における企業価値を示そうとしています。

中期経営計画とは

中期経営計画とは、その企業が中期(3~5年程度)で達成を目指す経営目標や戦略をまとめた計画のことです。その作成・開示の目的としては、長期的な経営ビジョン実現に向けた道筋を示すことで、対外的にはステークホルダーとの信頼関係を構築することにあり、対内的にはその企業の目指す方向性を明確にし、社内の意思統一と社員との信頼関係構築を行うことにあります。一般的には、対外的に開示する内容より、対内的に開示する内容の方が、詳細かつ機密情報を含めて作成することが多いです。しかし、その骨子は共通であり、社内外に自社の目指すべき方向性・企業価値を高める戦略を開示することで、その企業の成長可能性を伝えることを目的としていると言えます。
中期経営計画は"計画"であるため、その企業が現在から未来にかけて取り組む予定である戦略・方針についてまとめているという点が強いです。そのことにより、その企業の"未来"における価値を示そうとしています。

統合報告書と中期経営計画の違いとは

統合報告書と中期経営計画の相互関係

企業経営のPDCAと中期経営計画・統合報告書の位置づけ

中期経営計画は企業経営において、PDCAを考えたときに"Plan"の位置づけであると言えます。現状の経営環境(内部・外部)を踏まえて、自社の目標、現状とのギャップ、ギャップを埋めるための具体的な行動計画(アクションプラン)という定性面の戦略と、数値目標、KPI(重要業績評価指標)、資源配分などの定量面の戦略を示すという企業における"計画"の位置づけです。その内容は、財務情報と非財務情報の両面が計画として盛り込まれています。そして、その計画を中期3~5年をかけて"Do(実行)"していくことになります。
統合報告書は上記のPlan・Doを行った上で、"Check"の機能を持っていると言えます。中期経営計画の実行状況・成果を財務情報・非財務情報の面で、年度毎に報告をしていきます。これは対内的に状況を確認するということのみならず、ステークホルダーに対しても対外的に報告することで、その計画の成果、つまり計画に則って、企業価値の向上に寄与していることを示していると言えます。そのため、結果に対する評価が株価に強く反映されることになるのです。
多くの企業はその結果を踏まえ、年度毎に中期経営計画(中計)ローリングを行い、元々の計画を調整しながら、最終的な中長期ビジョンを達成することを目指していきます。これが修正された"Plan"となり、企業経営のPDCAが推進されていきます。上場企業において、中期経営計画と統合報告書は、企業経営のPDCAを円滑に進めるために、不可欠な情報であると言えます。

統合報告書と中期経営計画の相互関係

まとめ(統合報告書と中期経営計画の未来)

統合報告書と中期経営計画の未来

企業経営における企業の存在意義(パーパス)の必要性や、企業における非財務情報の開示の要望の高まりを踏まえると、今後、より統合報告書の作成・開示の必要性は高まっていくことが予想されます。この延長線上にある未来として、ステークホルダーのそれらに対する評価の厳しさにもつながっていくと考えられます。企業価値を高める計画としての中期経営計画と、その計画の結果を開示する統合報告書は、対の情報として捉えられ、その結果、良い企業が社会に必要とされる企業として見られるのではないでしょうか。この面も踏まえ、適切な情報開示としての統合報告書の重要性が高まっていくと予想されます。

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