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2025.10.07

海外市場調査のアンケート調査・インタビュー調査の具体的な方法

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海外市場調査のアンケート調査・インタビュー調査の具体的な方法

海外市場調査とは

海外市場調査とは、企業が海外市場への進出や事業拡大を検討する際、その市場特性、消費者の動向、競合、法規制などを体系的に調査・分析することです。国内市場の飽和に直面する企業にとって、海外進出は新たな成長機会を掴む上で不可欠な戦略です。文化や商習慣の違いから、客観的なデータに基づいた意思決定が極めて重要となります。

海外市場調査の種類

海外市場調査には、大きく分けて「デスクリサーチ(二次情報調査)」と「フィールドリサーチ(一次情報調査)」の2種類があります。デスクリサーチは、公的機関の統計データ、業界レポート、ニュース記事など、すでに公開されている情報を収集・分析する手法です。手軽かつ低コストで広範な情報を得られますが、情報が古かったり、特定のニーズに合致しない場合もあります。
一方、フィールドリサーチは、実際に現地で消費者や業界関係者から直接情報を収集する手法です。これには、アンケート調査(定量調査)や、インタビュー調査(定性調査)、フォーカスグループインタビュー(FGI)、エスノグラフィ(行動観察調査)などが含まれます。フィールドリサーチは、ターゲットのリアルな声や行動パターン、潜在的なニーズといった、デスクリサーチでは得られない生きた情報を深く掘り下げて把握できる点が最大の強みです。コストと時間はかかりますが、より精度の高い、実践的な知見を得るために欠かせない調査手法です。

海外市場調査とは

海外市場調査におけるアンケート調査とは

海外市場調査におけるアンケート調査は、特定の対象者に対し、事前に用意された質問項目に回答してもらうことで、定量的なデータを収集する手法です。これにより、市場全体の傾向や消費者の意識、行動のパターンを数値として把握することが可能となります。

アンケート調査の特徴

アンケート調査の最大の特徴は、統計的な処理が可能な多数の回答から、客観的なデータを得られる点にあります。質問内容を標準化することで、異なる回答者間の比較が容易であり、全体的な傾向や属性別の違いを明確に把握できます。例えば、特定の製品に対する需要の有無、価格帯の許容度、ブランド認知度、購買意向といった項目を数値で示すことが可能です。また、匿名で回答できるため、回答者が本音を話しやすいという側面もあります。これにより、個別の感情や詳細な背景は捉えにくいものの、広範な市場における一般的な意見や行動様式を効率的に把握することができます。

アンケート調査のメリット・デメリット

アンケート調査には、以下のようなメリットとデメリットが存在します。

メリット

  • 多数の回答者からデータ収集が可能で、広範な層から意見を集め、統計的な傾向を把握できます。
  • 特にオンラインアンケートの場合、コスト効率が良い場合が多く、人件費や交通費を大幅に削減できます。
  • 回答を数値化できるため、定量的な分析が可能で、仮説の検証や市場の規模感を把握しやすくなります。
  • 匿名性が高く、センシティブな質問でも本音を引き出しやすい場合があります。
  • 標準化された質問で比較・分析しやすく、複数の国や地域で市場間の違いを明確に比較できます。

デメリット

  • なぜそのように回答したのか、その背景にある感情や動機までは把握しにくく、深い洞察が得にくいです。
  • 現地語への翻訳だけでなく、文化的なニュアンスや表現の違いを理解し、質問が正しく伝わるように設計する必要があり、質問の設計が難しいです。
  • 回答者が質問を誤解したり、適当に回答したりするリスクがあり、回答の信頼性が低い場合があります。
  • 質問文の解釈が回答者によって異なることで、意図しないデータになってしまうことがあり、回答者の意図しない解釈のリスクがあります。
  • 自由記述回答の分析はテキストマイニングなどの手法を用いないと困難です。

アンケート調査の具体的な方法

アンケート調査を効果的に行うためには、以下の手順を踏む必要があります。

  • 調査設計 : 目的、ターゲット層、サンプル数、質問項目、調査期間を明確に設定します。
  • 質問票作成 : 現地文化を考慮したローカライズ、意味のズレを確認するバックトランスレーション、目的に応じた設問形式の選択を行います。
  • 実施チャネルの選定 : オンラインアンケート、オフラインアンケート、または市場調査会社の活用を検討します。
  • モニターパネルの選定 : 信頼性の高いモニターパネルを選び、ターゲット属性に合致した質の高いデータを収集します。
  • データ収集とクリーニング : 回答収集後、不適切な回答を除外するクリーニング作業を行い、分析精度を高めます。

アンケート調査を行う際の注意点

海外でのアンケート調査を行う際には、特に以下の点に注意が必要です。

  • 言語・文化の壁 : 質問文の翻訳精度に加え、現地特有の慣用句や文化的なタブーを考慮し、専門の翻訳家やネイティブスピーカーによるチェックが不可欠です。
  • 回答者の属性の偏り : 特定の層に回答が偏らないよう、サンプル設計を適切に行います。オンライン調査ではデジタルリテラシーの高い層に偏る傾向があるため、オフライン調査との組み合わせも検討すべきです。
  • 設問の構成 : 質問の順序や難易度、選択肢の配置が回答に影響を与えることがあるため、回答者の心理に配慮した構成が求められます。
  • 回収率の確保 :海外ではインセンティブがないと回収率が低下しやすいため、謝礼や特典、適切なリマインダーなどの工夫が必要です。
  • 法規制の遵守 : 各国の個人情報保護法規を厳守し、回答者の同意取得方法やデータの保管・利用に関する規定を確認し、適切に対応しなければなりません。

海外市場調査におけるアンケート調査とは

海外市場調査におけるインタビュー調査とは

海外市場調査におけるインタビュー調査は、個別の対象者と対話形式で深く掘り下げた情報収集を行う手法です。アンケート調査が定量的な「量」のデータを集めるのに対し、インタビュー調査は定性的な「質」のデータを集めることを目的とします。

インタビュー調査の特徴

インタビュー調査の最大の特徴は、対象者の発言の背景にある動機や感情、考え方といった深層心理を理解できる点です。質問項目に加え、回答者の反応や表情、声のトーンといった非言語情報も捉えながら、その場で質問を深掘りしていく柔軟な対応が可能です。これにより、アンケートでは得られないような、予期せぬ新たな発見や具体的な消費者の行動パターン、製品やサービスに対する潜在的なニーズ、課題意識などを引き出すことができます。少数の対象者から詳細な情報を得るため、統計的な一般化は難しいですが、仮説の構築や製品開発の初期段階、ターゲット層の深い理解には非常に有効な手法です。

インタビュー調査のメリット・デメリット

インタビュー調査には、以下のようなメリットとデメリットが存在します。

メリット

  • 回答者の言葉の裏にある感情や動機を深く掘り下げ、潜在的なニーズや課題、予期せぬ使用法などを発見できるため、深い洞察や本音、隠れたニーズの把握が可能です。
  • 対面やオンラインでの会話を通じて、言葉だけでは伝わらない感情やニュアンスを把握できるため、非言語情報から多くの情報を得られます。
  • 事前に想定していなかった情報や、市場のトレンドに関する示唆を得られることがあり、新たな発見や予期せぬ情報の入手につながります。
  • 回答者の反応に合わせて質問を調整したり、気になる点についてさらに詳しく尋ねたりすることが可能で、柔軟な質問変更や深掘りができます。
  • 製品への不満、サービスの評価、購買に至るまでの意思決定プロセスなど、多角的かつ複雑な情報を詳細に理解できます。

デメリット

  • 1人あたりの調査時間が長いため、多くの対象者から情報を集めるのは困難であり、全体を把握するためには複数回のインタビューが必要となる場合が多く、時間とコストがかかります。
  • 質の高い情報を引き出すためには、質問力、傾聴力、共感力、柔軟な対応力といったインタビュアーの高いスキルが求められ、インタビュアーのスキルに依存します。
  • 少数の対象者から得た情報は、あくまで個別の意見であり、市場全体の傾向を示すものではないため、回答者の主観が強く、一般化が難しいです。
  • インタビュアーの質問の仕方や解釈、対象者の選定によって、結果に偏りが生じるリスクがあり、偏りやバイアスが生じやすいです。
  • 特定の属性や専門性を持つ対象者を見つけ、インタビューに協力してもらうことが難しい場合があり、対象者の確保が困難な場合があります。

インタビュー調査の具体的な方法

インタビュー調査を効果的に行うためには、以下の手順を踏む必要があります。

  • 調査設計 : 目的、ターゲット層、インタビュー項目、時間と場所を明確に設定します。
  • 対象者選定とリクルーティング : 調査目的に合致する対象者を選別するためのスクリーニングを行い、現地のリクルーティング専門会社などを活用して効率的にリクルーティングします。
  • インタビュースクリプト作成 : オープンエンドな質問を多めにし、文化的背景やビジネス習慣に配慮した言葉遣いを心がけます。
  • 実施方法 :対面、オンライン、電話など、目的に応じた方法を選択し、通訳が必要な場合は専門性と市場知識を兼ね備えた通訳を手配します。
  • データ記録と分析 : インタビューは必ず録音し、可能な限り文字起こしを行い、テーマやキーワードごとに分類・整理して重要な示唆を抽出します。

インタビュー調査を行う際の注意点

海外でのインタビュー調査を行う際には、特に以下の点に留意する必要があります。

  • 言語・文化の壁 : 通訳の質が調査結果に大きく影響するため、専門性のある通訳者を選定すること。現地の文化的な慣習やコミュニケーションスタイルを理解し、非言語的なサインにも注意を払うことで、より深い情報を引き出せます。
  • インタビュアーのスキル : 高い傾聴力と質問力が求められます。相手の話を遮らず、共感を示しながら、本質を捉える質問を投げかけることで、質の高い情報を引き出します。
  • ラポール形成 : 回答者との信頼関係を築くことが、本音を引き出す上で不可欠です。調査目的を丁寧に説明し、感謝の意を伝えるなど、良好な関係構築を心がけます。
  • バイアスの排除 :インタビュアーの先入観や、質問の誘導によって、回答に偏りが出る可能性があるため、客観的な姿勢を保ち、多様な意見を引き出すよう努めます。
  • 回答者の確保 : 適切な対象者を見つけることは、特に海外では時間と手間がかかります。現地の調査会社や人脈を最大限活用し、条件に合う人材を効率的にリクルーティングする計画を立てるべきです。

海外市場調査におけるインタビュー調査とは

アンケート・インタビューを組み合わせたハイブリッド調査とは

海外市場調査において、アンケート調査とインタビュー調査を単独で行うのではなく、両者を組み合わせて実施する手法を「ハイブリッド調査」と呼びます。これにより、定量的なデータと定性的な洞察の双方を得ることができ、より多角的で深い市場理解が可能となります。

ハイブリッド調査の特徴

ハイブリッド調査の最大の特徴は、異なる調査手法の強みを相補的に活用し、市場全体の傾向を把握しつつ、その背景にある具体的な理由や心理を深く掘り下げられる点にあります。例えば、まずアンケートによって広範な対象から意識や行動の傾向を数値で捉え、その結果から浮かび上がった特定の疑問点や興味深い層に対して、さらにインタビューで深掘りを行う、といったアプローチが可能です。これにより、「何が起きているか(What)」だけでなく、「なぜそれが起きているのか(Why)」を高い解像度で理解することができます。

ハイブリッド調査のメリット・デメリット

ハイブリッド調査には、以下のようなメリットとデメリットが存在します。

メリット

  • 大規模な定量データで全体像を捉えつつ、定性データでその背景や詳細な動機を理解できるため、網羅性と深掘りの両立が可能です。
  • 定量データで得られた傾向を定性データで裏付けたり、逆に定性データで得られた仮説を定量データで検証したりすることで、データの信頼性と解像度が向上します。
  • 定性調査で得られた新たな発見が定量調査での分析を深めるきっかけとなったり、定量調査で示された仮説が定性調査で詳細に検証されたりするため、予期せぬ発見と仮説の検証につながります。
  • 量と質の双方からの情報に基づいているため、企業が海外市場での戦略を立てる際の意思決定の根拠がより強固なものとなります。

デメリット

  • アンケートとインタビューの両方を計画・実施するため、それぞれの調査を単独で行うよりも、全体としてかかる費用と時間が増加する傾向があります。
  • 各調査の目的、対象者、実施方法、そして得られたデータの統合方法までを綿密に計画する必要があり、設計が複雑になります。
  • 定量調査の統計分析能力と、定性調査の深い洞察力という、異なる種類の専門知識が求められます。
  • 異なる性質のデータをどのように統合し、一貫性のある結論を導き出すかという点で、高度な分析スキルが求められ、データの統合・分析が難しいです。

ハイブリッド調査の具体的な方法

ハイブリッド調査には、主に2つの具体的なアプローチがあります。

段階的アプローチ(Sequential Approach) :

  • Step1 : 定量調査(アンケート)の実施: まずは大規模なアンケート調査を実施し、市場全体の傾向、消費者の意識、行動パターンなどを定量的に把握します。
  • Step2 : 定性調査(インタビュー)の実施: アンケート結果から浮かび上がった特定の課題や興味深い層に対して、さらに個別のインタビュー調査を実施します。これにより、アンケートだけでは分からなかった「なぜそうなのか」という背景や動機を深く掘り下げます。

並行アプローチ(Concurrent Approach) :

  • アンケート調査とインタビュー調査をほぼ同時並行で進める方法です。アンケートで全体像を把握しつつ、同時にインタビューで一部の層から深い情報を得て、その情報を相互に補完しながら分析を進めます。この方法では、より迅速に多角的な知見を得られる可能性がありますが、調査管理の難易度が高まります。

いずれのアプローチにおいても、調査設計の段階で、各調査から得られる情報をどのように統合し、最終的な結論に結びつけるかを明確に計画することが重要です。

ハイブリッド調査を行う際の注意点

ハイブリッド調査を成功させるためには、以下の点に注意する必要があります。

  • 目的の明確化 : 各調査手法が全体目標に対してどのように貢献するのか、その役割を明確に定義することが不可欠です。曖昧なまま進めると、データの統合が困難になります。
  • データ連携の工夫 : アンケートで得られた定量データを、インタビューのスクリーニング条件や質問項目の調整に活用するなど、各調査フェーズ間の連携を綿密に計画します。
  • 専門知識の確保 : 定量的な統計分析スキルと、定性的な洞察力やインタビュー技術という、異なる専門知識が求められます。社内に両方のスキルがない場合は、外部の市場調査会社に協力を求めることも検討すべきです。
  • 時間・予算管理 : 調査が複雑になる分、計画通りに進行しないリスクも高まります。余裕を持ったスケジュールと予算を設定し、進行状況を常にモニタリングすることが重要です。

アンケート・インタビューを組み合わせたハイブリッド調査とは

まとめ

海外市場調査は、企業のグローバル戦略において不可欠なプロセスです。その中でも、アンケート調査に代表される定量調査と、インタビュー調査に代表される定性調査は、市場の現状を多角的に理解するための強力なツールです。
それぞれの調査手法には明確な特徴、メリット、デメリットが存在し、最適な選択は調査の目的によって大きく異なります。

目的に合った調査方法を選択

アンケート調査は、広範な層から効率的に情報を収集し、市場全体の傾向や意識を数値として把握するのに適しています。特定の製品に対する需要の有無や価格許容度、ブランド認知度など、統計的な分析を通じて客観的なデータを得たい場合に有効です。
インタビュー調査は、少数の対象者から深い洞察や本音、潜在的なニーズ、複雑な背景情報などを引き出すのに優れています。製品開発の初期段階でターゲットのインサイトを深掘りしたい場合や、サービス利用における具体的な課題を詳細に理解したい場合に適しています。
ハイブリッド調査は、定量的な「広さ」と定性的な「深さ」の両方を兼ね備え、より網羅的で信頼性の高い市場理解を可能にします。複雑な市場環境や、深い洞察と統計的裏付けの両方が求められるようなケースで、その真価を発揮します。

成功のカギは適切な計画と実行

企業が海外市場へ進出する目的、知りたい情報の内容、利用できる予算、そして調査にかけられる期間など、様々な要素を総合的に考慮し、最も目的に合致した調査方法を選択することが成功への鍵となります。
一つの方法に固執せず、複数のアプローチを検討し、場合によっては外部の専門家である市場調査会社の知見を積極的に活用することも賢明な選択です。データに基づいた、精度の高い意思決定こそが、競争の激しい海外市場でビジネスを成功させるための基盤となります。

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タナベコンサルティンググループは
「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
志を掲げた1957年の創業以来、
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