COLUMN

2023.10.16

中期経営計画策定における見直し方法(ローリング方式・固定方式)

中期経営計画は、企業経営における経営管理の仕組みとしてのマネジメント・コントロール・システムの構成要素として策定されます。中期経営計画は対象期間における、事業展開を具体化したものであり、その作成のタイミングやプロセスを多くの会社で制度化しており、経営システムとして位置づけられます。
策定期間は3年毎、あるいは5年毎に行っている会社が多く、策定方式としては、計画策定にあたって対象とした計画期間の完了まで計画の見直しを行わない「固定方式」と、毎年度最新の環境変化を折り込み、計画を更新していく「ローリング方式」があります。不確実性が高く、経営環境の変化も激しい近年は、「ローリング方式」による策定が主流となっています。

「ローリング方式」と「固定方式」の特徴を理解する

不確実性が高く、経営環境の変化が激しい時代に適した経営計画の見直し方

中期経営計画の更新方法は「ローリング方式」と「固定方式」の2つに大別されます。「ローリング方式」は、一定期間の計画を毎年作成しなおす手法であり、「固定方式」は一定期間の計画の期間中は更新を行わない手法です。

「固定方式」の場合、計画時点における最終年度の目標に対する強いコミットメント意識が生まれます。しかし、計画途中で未達になる可能性が高まると、それ以降は目標が事実上効力を失ってしまいます。中期経営計画の実態としてこの様な目標未達となるケースは少なくありません。「固定方式」では、計画策定当初における全社的目標をステークホルダーに開示するという性格が強いため、財務目標はやや高い水準の努力目標として設定される可能性が高いことがある点も留意が必要です。

「ローリング方式」は時間の経過とともに実態に合わなくなった計画を毎年修正していくため、目標が効力を失うリスクは少なく、ステークホルダーにとっても、修正された情報を毎年確認できるという点では有用性が高いです。また、毎年経営者や従業員が中期的な経営方針を検討しなおす機会を提供することも大きなメリットがあります。更には「ローリング方式」にて予算が策定される企業は財務目標は必達目標としての性格を強くすることができます。

コンサルティング現場における「固定方式」と「ローリング方式」の実例比較

実際のコンサルティング現場の実例として、「固定方式」と「ローリング方式」を採用している企業での目標設定の方法・業績の着地についてケーススタディとして紹介します。

『固定方式』を採用している企業は、
❶固定方式のため、計画途中で財務的な目標が修正されないため、中期経営計画の最終年度の目標値と実績値が乖離する傾向があります。
❷財務目標はやや高めに設定されます。
❸財務目標は修正されないままのため、数値と実際の経営にどの様な関係にあるのか判断しにくくなります。

『ローリング方式』を採用している企業は、
❶財務目標が毎年修正されるため、中期経営計画の最終年度の実績値が目標値に近づいていく傾向があります(ステークホルダーにとって有益な情報を提供できていると言える)。
❷一方で、最終年度の目標値と実績値の差異が拡大するケースがあります。この様な事象が発生する要因の1つとして、中期経営計画における財務目標が年々向上する形で設定されることがほとんどです。
❸財務目標の修正方向としては、上方修正が圧倒的に多く、当初目標がやや低めに設定されるケースが見られます。


「固定方式」と「ローリング方式」の企業比較をした場合、「ローリング方式」にフォーカスすると以下の3点のケースが上げられます。

<固定方式より、ローリング方式に見られる特徴>
❶財務目標が毎年修正されるため、有用な情報を提供している
❷財務目標に連続性が生まれ、企業活動に対するステークホルダーの理解度は深まる
❸財務目標が情報修正される場合が多い(毎年の修正を予定することが当初の目標にバイアスをもたらしている)

まとめ

ステークホルダーとの対話が求められる時代の中期経営計画・マネジメント・コントロール・システムのあり方

中期経営計画には、戦略的な長期ビジョンの実現と日々の企業活動をつなぐ役割を担っています。そのため、中期経営計画には単なるビジョンにとどまらず、財務目標、設備投資額、研究開発支出、販売目標などについて、具体的な目標が明示されます。数年にわたる中期計画であること、具体的な数値の裏付けがあること、という特徴を兼ね備えた中期経営計画は、内部の経営管理に役立つだけでなく、投資家だけでなく、社内のメンバーといったあらゆるステークホルダーにとっても、注目すべき情報を提供しています。

経営者は今まで以上に具体的な経営戦略や経営計画についてステークホルダーとの対話が重要視されています。3年あるいはそれ以上にわたる計画期間では経営方針や事業環境の変化は当然生じます。その場合、中期経営計画自体の見直し、財務目標が修正されることがあります。中期経営計画が経営者による企業経営のあり方・情報をステークホルダーに伝達するツールとするならば、その修正内容もステークホルダーにとって有用な情報です。
「ローリング方式」のメリット・デメリットを理解した上で長期ビジョンを実現するマネジメント・コントロール・システム、経営システムとして確立していただきたいと思います。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部
ゼネラルパートナー

藤原 将彦

IT業界でシステム開発業務・プロジェクト運営を経て当社入社。企業の原点である「ミッションの確立」や、未来に向けた「ビジョン・戦略の構築」を得意とする。 また、新規事業・新商品開発やDX実装支援など、クライアント企業の成長エンジンづくりに数多くの実績を持つ。 クライアント視点を大切に、前向きに情熱を持って取り組むコンサルティング展開で多くのクライアントから高い信頼を集めている。

藤原 将彦

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