COLUMN

2022.10.06

異次元競争を勝ち抜くビジネスモデル・イノベーション

ウィズコロナの中で経済回復路線となりペントアップ需要が見込まれるものの少子高齢化による人口減少・内需縮小という構造的な逆風は変わりません。正常化に向かう今だからこそ、現在の事業の成長と変革にあらためて向き合う必要があります。今回はビジネスモデルのイノベーションについて解説してまいります。

流動的変化の中で見失ってはならない構造的変化

コロナ・パンデミックは流動的変化であり、少子高齢化は構造的変化

コロナの猛威は約100年前のスペイン風邪以来のパンデミックだと言われています。言い換えれば、100年に一度の頻度で発生し、収束すれば元の状態に戻る流動的変化です。それに対して、出生率の低下が要因となる少子高齢化は未来の人口構造を確定させる構造的変化となります。つまり、コロナ禍とは異なり、元に戻ることはありません。それ以外にも私たちの周囲では数多くの構造的変化が起こっています。以下はビジネスにかかわる構造的変化の一例です。

流通業界は規模の拡大によって、大手流通業者が食品から衣服、家電、おもちゃまで含めあらゆる町の個人商店を淘汰し、地理的クロスボーダー戦略によって全国のシェア争いをしてきました。ちなみにこれは多くの業界において中間流通である卸売業にも当てはまります。

しかし、大規模化した現在の勝ち組み企業にとっての大きな悩みのタネが店舗のショールーミング化です。ご存知の通りショールーミング化とは、実店舗で商品の見定めをした上で、その店舗で購入せず、より安価なインターネット通販で購入することです。消費者にとって通信販売の最大のデメリットは商品を実際に手に取ったり試したり出来ない点にあります。そこで実店舗に行って商品を品定めした上で、ポイントを貯めているお気に入りの通販サイトや価格比較サイトで最安値の業者を見つけそこで購入するのです。

今この記事をお読みいただいている方の中にも同様の消費行動をした方もいらっしゃるのではないでしょうか。大きな実店舗を運営している限り、家賃も人件費もかかるため、通販サイトと価格競争するのは厳しいものです。これは産業構造の変化と消費行動の変化を意味していますが、いずれも元に戻ることはない構造的変化になります。

通常の競争ではない異次元の競争が通常になってきている現実

地理的クロスボーダーで成長してきた勝ち組企業が、技術革新によるクロスボーダーによって異次元の競争を強いられている。

上記の事例は大企業が規模の経済の追求のために越境(地理的クロスボーダー)し、時には同業をM&Aしながら推進してきたある意味定石の戦略になります。その規模の経済性によって同業他社と戦うという通常の競争をしてきました。ところがインターネットの普及と急速な技術革新によって、WEB通販という新たなビジネスモデルの競合が現れ、通常では考えられない競争をしなければならないようになりました。地理的クロスボーダー戦略で成長してきた勝ち組企業が、技術革新を武器として異分野からクロスボーディングしてきた企業に苦戦を強いられているという状況です。つまり異次元の競争が発生し、現在はそれが通常となっています。

このケースに限らず、サプライチェーンの業種を超えた異次元競争も発生しています。例えば、メーカーが今まで卸売を通じて小売店の店舗に商品を陳列して販売するという通常のビジネス形態を、そのメーカーが直販サイトを開設しダイレクトに商品を販売する形態の D to C "Direct to Cusumer"モデルがあげられます。このケースの場合、卸・小売業にとってみれば仕入れ先が競合になるということです。またこれの逆パターンもあります。卸・小売りの企業がより高い収益をあげるため、メーカーの定番品などをプライベートブランドとして他のメーカーに製造させて販売するケースです。いずれのケースも同業界における競合ではなく、異分野間の異次元の競争といえるでしょう。

異次元競争の仕掛け人こそがビジネスモデルのイノベーター

垂直統合型ビジネスモデルイノベーション

「窮すれば即ち変ず、変ずれば即ち通ず、通ずれば即ち久し」では遅い

大手量販店がWEB通販企業との競争によって収益確保が以前と比較して難しくなっているの対して、ファーストリテイリング(ユニクロ)、良品計画(無印良品)、ニトリなどは持続的な成長と高収益を誇っています。タイトルとして掲示している通り、これらの企業の共通点は、企画、製造から流通、販売まですべてのサプライチェーンを自社で運営する垂直統合型のビジネスモデルです。いくらWEB通販企業が攻勢を仕掛けても、これらの企業の製品は直営店あるいは自社サイトでしか購入できないわけですからもともと勝負にはなりません。

これら垂直統合型のビジネスモデルを展開している企業の攻勢によって、製造・卸・小売りと分業してきた既存の企業の多くは劣勢を強いられています。つまり、ビジネスモデルをイノベーションしている異次元競争の仕掛け人が業界全体の構造を変革していっているのです。もちろん既存の企業においても垂直統合型ではない要素で差別化し、成長をしている企業も数多く存在します。ただ、ここで紹介した業界だけではなく、様々な業界で同じような現象が起こっています。

つまり、自社がイノベーションに挑戦しなければ、時間軸の差はあれ、社会全体の構造変化だけでなく、イノベーターが起こす業界の本質的変化、あるいは市場を形成する顧客の価値観や消費行動の変化によって、劣勢を余儀なくされることになってしまいます。

中国の古典『易経』に「窮すれば即ち変ず、変ずれば即ち通ず、通ずれば即ち久し」という言葉があります。苦境に立った時には変わらざるを得ず、変わることができれば新たな道が開け、それを繰り返し継続していく、という意味であり、経営に通ずる非常に素晴らしい諺です。しかし、流動的変化と異なり、構造的変化は徐々に進んでいきます。つまり、「窮すれば即ち変ず」では「時すでに遅し」になってしまいます。

そのため、常に外部環境に敏感になり、自社が率先してイノベーションに挑戦するマインドと行動が重要です。また、今回事例として掲載した有名な企業以外にもイノベーションに成功している企業は多くあります。自社の業界に限定せず、ぜひ視野を広げて異分野の先進優良企業のビジネスモデルやイノベーションを調べてみて下さい。きっと多くの気付きと学びがあるはずです。なぜならイノベーションは異分野の異能な人間が起こす異質のムーブメントだからです。

著者

タナベコンサルティング
取締役
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部

村上 幸一

ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案、マーケティング、フィージビリティ・スタディなど多角的な業務を経験後、当社に入社。豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを数多く手掛けている。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導し、絶大な信頼を得ている。中小企業診断士。

村上 幸一

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