COLUMN

2022.08.31

VUCAの時代に描く長期ビジョンの意義

近年の予測不能な変化の激しさを形容する言葉としてよく用いられているVUCA。Volatility(変動性)、Uncertainly(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの言葉の頭文字で構成されているキーワード。このVUCAの時代だからこそ求められる企業の未来ビジョンについてその意義と役割を解説いたします。

100年に一度の出来事が毎年発生するボーダレスな世界

なぜ100年に一度と言われる出来事が頻繁に起こるのか?

ボーダレス化と多様化が加速させる世界の混沌と変革

「100年に1度」とはめったに起こらない出来事を表現する形容詞的に使用され、私たちはこの言葉を聞くたびに驚きを体感します。ただ、多くの方も感じられているかと思いますが、ここ最近「100年に1度」をよく耳にします。例えば、私たちのビジネスや生活に直結する出来事だけでも、ウクライナ戦争、新型コロナウイルス、東日本大震災、原発事故などがあります。また経済・産業という視点で見れば、IT革命、自動車の電動化、世界金融危機、マイナス金利などが思い浮かびます。このように考えると、毎年のように「100年に1度」が発生しています。

そうすると「100年に1度」という表現が大げさな表現なのかというとそういうわけでもありません。上述の出来事は、実際にそれくらいのインパクトがありますし、新型コロナウイルスの前のパンデミックはスペイン風邪で、その発生は1918~1920年にさかのぼります。つまり、ちょうど100年前になります。

簡単に言うと、多種多様な分野でそれぞれ「100年に1度」レベルの事象が発生しているということです。例えば、自動車の電動化はモビリティー分野における「100年に1度」レベルの変革ですが、科学や天候、政治なそれぞれ別の分野で大きな変革や発見があれば、それらもやはり「100年に1度」と形容され、毎年「100年に1度」が発生していることになります。
そして、これだけの説明ですめば、とてもシンプルな感じがしますが、ここにボーダーレスというキーワードが入ってきます。ボーダーレスとは、境がない、ことを示し英単語です。あらゆる分野に浸透しているIT化や金融のグローバル化、イノベーションのビジネス化などによって、上述した多種多様な分野の変革や遠い他国で起こる出来事が、ボーダーレスに私たちのビジネスや生活に、直接あるいは間接的に影響を与えます。

将来の企業の姿をデザインする長期ビジョン

未来に向かって進むべき道の明示が組織を強くする

新社長が示したビジョンがコロナ禍経済を乗り越える支えに(あるメーカーの事例)

現在、多くの企業が中期経営計画だけでなく、長期の将来ビジョンを作成し公表しています。一つには、世の中に広く浸透してきたSDGsへの寄与というものが企業に求められるようになり、SDGsは普遍性や永続性を求めることから、そのゴールを2030年という長期に定めていることがあります。

つまり、SDGsのターゲットやゴールと自社の事業を連動させることが狙いです。そして、もう一つのポイントが一般的に設定される3か年の中期経営計画では期間が短いため、目標が控えめになり、飛躍や変革を発想することが難しいことです。他方、前段で説明した通り「100年に1度」の出来事が毎年のように発生するVUCAの時代に、外部環境を予見し、10年先の長期のビジョンや中期経営計画を策定しても、現実的ではなく実効性に乏しいという意見もあります。

しかし、逆説的ですが、VUCAの時代だからこそ長期ビジョンを示す必要があるのです。長期的なビジョンがなければ、頻発する外的な出来事に対し、その場対応の繰り返しに終始し、進むべきゴールが不明瞭になってしまいます。臨機応変で柔軟な対応は企業にとって必要不可欠の能力ですが、それだけでは、株主や投資家だけでなく、組織内で働く社員たちも不安な気持ちになってしまいます。そして、それは株価の低迷や停滞、社員のエンゲージメントの低下などを引き起こすことにもなりかねません。繰り返しになりますが、VUCAの時代だからこそ企業の長期ビジョンを示す意義が強まっているということです。

外部環境のめまぐるしい変化によって未来の予測が困難であることを理由に、創業50年を超える業歴の中で、今まで一度も長期ビジョンも中期経営計画も作成したことがなかったメーカーがありました。新社長に交代した事業承継を機に、長期ビジョンと中期経営計画を初めて作成し全社に発信しました。そして、その直後にコロナショックが起こり、他の多くの企業と同様、発信した中期経営計画を大幅に見直さなければならなくなりました。
しかし、その社長は「このタイミングで初めてビジョンと中期経営計画を打ち立て全社員に発信できたことがとても良かった」と仰られました。理由は、全社で進むべき未来の方向性をビジョンとして明示していたため、100年に一度のパンデミックで社会経済が混乱する中、現在の中計推進が後ろ倒しになったり、足元の施策が変更したりすることがあっても、社内でのベクトル統一が図られていたおかげで組織内で大きな混乱はなく、業績へのインパクトも軽微なもので済んだためでした。コロナも収まりつつある現在、業績は順調に伸長し、明示した長期ビジョンに向かって着実に成長を続けています。

長期ビジョンと中期経営計画のつながり

長期ビジョンからバックキャスティングで策定する未来志向の中期経営計画

前年ベースや各部門からの積み上げて作成するマンネリな中期経営計画からの脱却

時間軸でとらえると、永続的な価値観として存在する理念やミッションのもと、長期ビジョンは10年、中期経営計画は3年というのが近年の一般的な傾向になります。長期ビジョンの確立は中期経営計画を作成する際に非常に有効です。10年後の企業のあるべき姿を実現するために、3か年の中期経営計画を3回転させ、各中計を第一次、第二次というように段階化し、各ステージにおいて到達すべき定性・定量の目標を、長期ビジョンのマイルストーンとして定めます。

つまり、未来のために、次の中計でどこまで目指すべきかというバックキャスティング型の策定が可能になります。さまざまな企業から中期経営計画作成における問題点として、前年ベースからの積み上げになってしまう、各部門の業績予測の集計になってしまう、毎年かわりばえのしない施策しかでてこない、というのをよくお聞きします。そして過去から振り返ってみると、10年以上あまり変わらない業績や硬直化した組織、停滞する人事などという結果になるケースが多々あります。

特に少子高齢化による人口減少という構造的にマーケットが縮小していく未来が確実な日本企業にとって、積み上げの繰り返しだけで持続的あるいは飛躍的な成長を遂げることは不可能でしょう。事業ポートフォリオのデザインをはじめ、DX、グローバル、M&Aなどこれからの企業経営に必須のテーマも長期ビジョンに組み込みながら未来を描くことこそが持続的な成長を実現するための第一歩になります。
もしまだ取り組まれていないようでしたら、この機会に、長期ビジョンとそこからブレイクダウンしていくバックキャスティング型の中期経営計画作成にトライしてみてください。

著者

タナベコンサルティング
取締役
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部

村上 幸一

ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案、マーケティング、フィージビリティ・スタディなど多角的な業務を経験後、当社に入社。豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを数多く手掛けている。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導し、絶大な信頼を得ている。中小企業診断士。

村上 幸一

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