FCCマネジメントレター:2017年03月10日
今週のひとこと ブランドとは、顧客と企業の長期的な 信頼関係を築くことである。 |
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☆ 「フットワークの軽さが強みです!」よりも大切なこと
筆者は、数年前にタナベ経営の、経営コンサルティング部門から管理部門へ異動しました。それまでは、経営コンサルタントとして、クライアントを訪問し、改善策を提案することが仕事の中心でしたが、異動後は社外の営業担当者などから提案を受ける立場となりました。
外部の方とのコミュニケーションの機会が少なくなった今では、このような方々とのコミュニケーションを通じて学ぶ機会が多くあります。
提案をする側から、受ける側に変わって強く感じるのは、「役に立つ情報を得たい」ということです。経営コンサルタントの頃は、フットワーク軽く、クライアントと数多くお会いして話をすることが大切だと思っていました。そうすることで信頼関係を築き、物事を円滑に進めることができると信じていました。
相互の信頼関係が大切であるという思いは今も変わりませんが、提案を受ける側に変わってからは、信頼関係だけでなく、現状に即した有益な情報を得たいという思いが、より強くなりました。また、一般論や机上の空論は、ほとんど価値が無いことも実感としてわかりました。
フットワークの軽さも大切な要素の一つではありますが、社外の方へ提案をする仕事をされている方は、一度ご自身が提案を受けてみることで、新たな発見があるかもしれません。
経営管理本部 経営企画室
隅田 直樹
地域資源 × 企業使命 = 「ミッションブランド」
「ブランド」と聞いて何を連想するだろうか?
BMW やルイ・ヴィトンといった社名や商品名、ロゴマーク――他にもブランドの定義はさまざまあるが、タナベ経営では、「顧客にとっての価値を定義・約束し、長期的な信頼関係を構築するもの」と定めている。単なるマーケティング要素の1 つではなく、経営的視点から捉えているのだ。
国内は人口・世帯数減に加え、東京オリンピック・パラリンピック後の需要反動減による市場縮小が予測される。しかし、市場に参入しているプレーヤーの数は減らない。また、世界の総市場化に伴い、グローバル競争も加速する。そのような環境の中で、ブランドは「非価格競争」=「顧客から選ばれるファーストコールカンパニー」への施策となる。
ブランドづくりで大事なのは、顧客にとっての価値の再定義である。価値とは文字通り、「価格に見合う値打ち」。それをどうストーリー化するかがブランディングであり、ブランドの素材探しが肝となる。
自社の商品・サービスや歴史、人材などもブランドの素材だが、モノ余り・コト不足の時代である今、注目したいのは、地域連携によるブランディングだ。「ななつ星in 九州」「仙台名産・笹かまぼこ」「博多の明太子(めんたいこ)」などのように、地域資源と企業使命をキュレーション(編集)し、社会的価値としてブランド化する。タナベ経営では、これを「ミッション(企業使命)ブランド」と呼んでいる。
TPP(環太平洋経済連携協定)締結や地方創生に関わる助成金制度、GI(地理的表示保護制度)など、環境整備は着々と進んでいる。行政のバックアップを得ながらも、地方の経営者こそが、地方創生の主人公になり得る。地域・社会の支持があれば、現在の顧客だけでなく未来の顧客にも選ばれるようになる。同時に、地域のみならず海外の顧客から選ばれることも可能である。
「天の時は地の利に如(し)かず、地の利は人の和に如かず」(孟子)。天の与える好機は地の利に及ばず、地の利も人心の和合団結には及ばないという意味だ。インバウンド需要が高まる昨今、四季が織り成す美しい景色、礼儀正しくおもてなし精神に富む国民性、安全・安心な製品といった日本のブランドイメージの高まりを「天の時」とし、地域名産・名物、名勝、歴史などの「地の利」を再発見し、地域を巻き込んだ「人の和」で地域資源と企業資源をコラボレートして、ブランド価値に転換していただきたい。
ブランディング戦略研究会 アドバイザー
南川 典大 Norihito Minamikawa
1993年タナベ経営に入社(東京本部)。西部本部長、取締役を経て2014年より現職。上場企業から中小企業まで数百社のコンサルティング・教育などに従事し、数多くの実績を誇る。経営の視点から、仕組みと人の問題解決を行う"ソリューションコンサルタント"として定評がある。著書に『問題解決の5S』(ダイヤモンド社)ほか。
ブランドは企業価値である
タナベ経営 コンサルティング戦略本部 本部長代理
ブランディング戦略研究会 リーダー
平井 克幸 Katsuyuki Hirai
専門分野はブランディングをはじめ開発・マーケティングなど多岐にわたり、これまでに中堅・中小企業の成長支援を数多く手掛けてきた。
著書に『タナベ流新規事業開発プログラム』(タナベ経営刊)がある。中小企業診断士。
ブランドは無形の財産
コンサルタントとして企業経営の現場に携わっていると、優れた技術や商品・サービスを持っていながら、意外に儲(もう)かっていない会社が多いことに気付かされる。商品・サービスの価値に見合う適正な価格設定ができていないためだ。欧米に比べて日本の会社は総じてブランディングが下手だといわれるが、「もったいない」というのが正直な感想である。
ブランドというと大手企業の特権のように思われがちだが、実際は中堅・中小企業でも成功している例は多い。儲かる企業体質にしていくためにも、もっとブランディングに力を入れるべきだろう。
ところで、ブランドとは会社のさまざまなステークホルダー(顧客・従業員・取引先など)の「心に蓄積されたイメージ」であり、"企業価値"である。しかも、ヒト・モノ・カネといった経営資源とは異なる"無形の財産"になり得る。
設備や建物といった有形資産や、業績を支えるヒット商品は、100年たてば陳腐化する。将来の自社を担う有能な若手社員も、100年先には在籍していない。しかし、ひとたびブランドを築けば、100年先の自社に残せる可能性がある。これが、ブランドという時間を超える価値の重要性である。
強いブランドを創るためには、他社とは違ったポジションで差別化されたイメージを、どれだけ持たせられるかがポイントになる。従って、経営内容よりイメージが大事であり、いくら業績が良くても企業イメージが悪ければ、ブランドとしての価値は低い。
では、どうすればブランドイメージを高めることができるのだろうか。広告宣伝だけの話なら、多額の費用を使ってテレビCMや新聞広告を打てばいい。その理屈でいえば、資金力のある大手企業に中堅・中小企業は勝てない。しかし、そうでないことは周知の事実だ。
ブランディング成功の鍵は、もっと経営の本質的な部分にある。それが「社会・顧客・人材」という企業価値に対する3つの視点(【図表1】)だ。顧客から社会性・合理性・人間性という基準で選ばれるポイントである。
社会の役に立つ会社、悩みや問題を解決してくれる会社、働く社員が素晴らしい会社。果たして皆さんは、どのような会社に見られたいと思うだろうか。次に、3つの視点を具体的に解説する。(【図表2】)
【図表1】ブランドイメージと顧客の選択基準
【図表2】企業のブランド価値を高める3 つの視点
ブランド価値を高める3つの視点
(1)ミッションブランド(社会価値)
店頭に同じジャンルの商品が並んでいた場合、その商品が「社会にとって善いか悪いか」で選ばれるケースが増えている。このような価値観は、最近の若い人に多く見られるようになった。背景には、世界規模での社会貢献意識の高まりがあると考えられる。
慈善事業への寄付金付き商品などはもちろん、リサイクルやクリーンエネルギーを活用したエコ消費型商品、環境保護や貧困支援のボランティア活動などは、社会性の視点でのブランディングを具現化したものだ。従来よりコスト負担が増えても、それを「未来への投資」だと捉えれば、決して無駄にはならない。
また、地方創生や町おこしに貢献することでブランド価値を高める方法もある。地域の資源を生かした商品・サービスを、地場企業や生活者と共に育て、全国に向けて発信し、最終的には利益(納税)や雇用として地域に還元するものだ。
例えば、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、九州を元気にするというコンセプトで、地元企業や住民の総力を結集したサービスが魅力の地域ブランドでもある。いずれも社会性をどうやってブランドイメージに変えていくかがポイントになる。
(2)ソリューションブランド(顧客価値)
顧客にとっての価値は「モノ」から「コト」に移ってきている。顧客が抱えている問題をどう解決するか、顧客の願望をどう実現するか、最近売れているものはソリューション、すなわち問題解決型の商品・サービスである。
ブランドを差別化するために重要なのは、未開拓市場を見つけてその先駆者になること。最も強いブランドは市場を創造した「ファーストブランド」に相違ない。コンビニエンスストアといえば「セブン-イレブン」、カフェといえば「スターバックス」、スマートフォンといえば「iPhone」など、最初にイメージが浮かぶのは、ほとんどがその市場のファーストブランドだ。
老舗企業の場合は、従来のブランドを磨き直して"リブランディング"する方向もある。その前提として、自社の本質的価値を再認識しなくてはならない。これまでに培ってきた技術を顧客視点で見直せば、違った価値を発見できることがある。
例えば、今治タオルで有名な四国タオル工業組合は、吸水性と肌触りを本質的な価値として品質にこだわり、今治はタオル産地として奇跡的な復活を遂げた。
(3)エンプロイーブランド(人材価値)
ブランドの価値は、最終的には現場の社員で決まると言っても過言ではない。ブランドを具現化した商品やサービスを扱い、顧客との接点になるのは全て"人"だからだ。
例えば、広告宣伝でどんなに信用あるブランドをアピールしても、現場で社員が不祥事を起こせば、途端に会社は信用を失う。逆に、広告宣伝を一切しなくても、社員による素晴らしい顧客対応が評価され、ブランド力の向上につながった例も枚挙に暇(いとま)がない。
前向きで自由闊達(かったつ)な社風で話題となり、それが企業ブランドのイメージとなって定着した会社も多い。「顧客満足より社員満足が大事だ」と公言する経営者もいる。ひと昔前は「顧客第一」を最優先に掲げて、社員は後回しという会社もあったが、労働力人口が減っていく中、すでに優秀な人材の争奪戦が始まっている。長い目で見た場合、社員満足を追求しない会社は生き残っていけないだろう。
自社のブランドに共鳴して入社した社員が貢献し、会社のブランド価値を高めてくれるような、善循環サイクルをどうやってつくるか。全てはエンプロイーブランディングの方向付け次第だ。
ブランディングは全社活動
企業として社会貢献を前面に出すか、顧客の問題解決において新たな価値を見いだすか、優秀な人材や社風の良さを強みに変えるか。これがブランディングの3つの視点である。
果たして皆さんの会社は、どの視点からブランドイメージを高めるだろうか。それが今後のブランディング戦略の指針になるはずだ。
実行段階での課題は、組織全体が動かなければブランディングは進まないことである。ブランディングは全社活動であり、ブランド推進室やブランドマネジャーといった専任部署や担当者の活動だけでは成功しない。
ブランド価値を高める方向に全社を動かす手段が「インナーブランディング」である。社内のブランド認識を高め、社員の行動を改革していくために「ブランドブック」を作成したり、それに基づいた社員教育を行ったりする方法がある。
ブランドブックとは、ブランドに対する考え方や行動指針を明確にしたもので、社内における"ブランドの憲法"に相当する。作成に関わった社員のブランド認識が深まることから、組織横断型のプロジェクトなどで、社員を巻き込んで作り上げるのが望ましい。
本稿で紹介したの3つのテーマで、社内にブランディングのプロジェクトチームを立ち上げ、「社会価値・顧客価値・人材価値」の視点を取り入れた、独自のブランドブック作りに挑戦していただきたい。
ブランドを会社の内面から変えていく取り組みは、自社に対する社内外の見方を変え、やがて企業価値を向上させるだろう。
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