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2025.02.25

食品製造業における中期経営計画の策定と実行戦略

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食品製造業における中期経営計画の策定と実行戦略

中期経営計画を策定する際に考慮すべき食品製造業界の市場環境の変化

食品メーカーが中期経営計画を策定する上で、食品業界を取り巻く潮流を理解することは不可欠です。特に注意すべきなのは、以下の4点です。

(1)人口動態の変化
国内市場では少子高齢化が進む一方、世界人口は2035年までに85億人に達すると予測されています。これにより、人口増加と経済発展を背景に、食料需要のさらなる拡大が見込まれます。

(2)サスティナビリティの重視
ESG(環境・社会・ガバナンス)視点の強化により、企業活動の見直しが進んでいます。持続可能な開発に向けた商品開発を推進することで、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献することが求められています。

(3)グローバル化
世界的な人口増加の影響を受け、食品業界では海外市場の開拓が加速しています。特に大手企業では、アジア市場の成長に注目し、国際競争力の強化が重要視されています。

(4)デジタル化の進展
販売チャネルの多様化が進む中で、Eコマースの成長とデジタルマーケティングの活用がますます重要になっています。オンライン販売の拡大は、今後の市場競争力を左右する重要な要素です。

中期経営計画を策定する際に考慮すべき食品製造業界の市場環境の変化

食品製造業における中期経営計画策定のポイント

食品製造業において中期経営計画を策定する際には、以下のようなポイントを押さえることが重要です。

(1)自社ビジネスモデルの構造をSWOT分析で現状把握
自社のビジネスモデルを把握するために、SWOT分析を活用し、5年後や10年後の業界の外部環境を見通し、機会と脅威、強みと弱みの両面から認識することが重要です。たとえば、機会として円安に伴う海外市場での価格競争力の向上が考えられます。一方で、小麦粉などの輸入原材料価格の高騰は脅威の一例です。世界情勢と連動する価格変動のリスクを見極め、持続的なコスト上昇を視野に入れた予測が必要です。

(2)内部環境分析で自社の強みと弱みを把握
自社の商品力と経営資源を評価し、事業領域の妥当性を判断します。自社製品の収益性や安定した生産の可能性を確認し、競争力の源泉を分析することが求められます。

(3)コアコンピタンス分析による競争力の評価
原材料調達から製造、流通までのバリューチェーンにおいて、どのプロセスを内製化しているかを評価し、強みを明確にします。グループ企業の場合は、関連会社がバリューチェーン上のどの機能を補完しているかも重要なポイントです。

(4)商品の収益分析
過去3~5年間の取引先別、商品別の売上高と粗利益率を把握し、販売量と収益性を詳細に分析します。効率の低い商品群については、作業工数、ラインの効率性、製造ロットとの関係を考慮し、最適化の余地を見極める必要があります。

食品製造業における中期経営計画策定のポイント

中期経営計画を実現させるMVV(Mission, Vision, Values)設定

企業理念は基本的に不変ですが、コロナ以降、環境や顧客ニーズが大きく変化しています。この変化を踏まえ、自社のMVV(Mission, Vision, Values)を価値判断基準と照らし合わせ、社会やステークホルダーにどのように貢献する企業であるべきか、その価値を再定義する必要があります。戦略策定においては、国内市場か海外市場か、ビッグマーケットかニッチマーケットか、高付加価値商品か低付加価値商品かといった選択を行いますが、まず「どのような貢献価値を提供するのか」という考え方が戦略の軸となるべきです。

中期経営計画を実現させるMVV(Mission, Vision, Values)設定

強化する事業を明確化する(ポートフォリオの設定)

事業の方向性は、ポートフォリオの最適化を目指し、戦略テーマを検証することで決定します。判断基準として、事業の成長性(売上高前年同期比成長率)と収益性(売上高経常利益率)の2つの要素を用います。各事業が目指すべき方向性は、「成長性10%以上」×「収益性10%以上」の成長エンジン事業であることが理想です。成長領域へのシフト、バリューチェーン強化によるビジネスモデルの多角化、さらには付加価値製品の開発強化など、事業ごとに最適な戦略を検討していきます。

強化する事業を明確化する(ポートフォリオの設定)

中期成長戦略の構築

中期成長戦略設定のポイントは、以下が挙げられます。

(1)競争優位性の強化
脱デフレ期の転換に伴い、原材料の価格高騰が続いている現状では、企業として付加価値の向上が欠かせません。まず、自社商品の競争力を客観的に評価する必要があります。例えば、プライベートブランド(PB)商品の開発を強化し、高効率な付加価値向上を目指す戦略や、低粗利ながらも大量生産と安定受注を見込んだ受託生産モデルの強化を検討します。これにより、企業の競争優位性を明確にし、最適な成長モデルを構築します。

(2)グローバル市場への展開
食品業界におけるグローバル市場の開拓は成長の鍵を握っています。まずは、ターゲットとする地域の市場環境を徹底的にリサーチし、消費者ニーズや食品安全基準、法規制を把握します。国や地域によって基準が異なるため、入念な準備が必要です。

(3)現地パートナーの選定
現地市場への参入には、信頼性の高い流通業者や販売パートナーの選定が成否を左右します。地域の消費者特性を理解し、協力体制を構築することで市場シェアを拡大できます。

(4)デジタル戦略の活用
オンライン販売やデジタルマーケティングの活用を強化し、顧客接点を増やすことが重要です。消費者の購買行動データを活かしたパーソナライズマーケティングや、SNSを活用したブランドエンゲージメントの向上を図ります。

(5)生産効率の向上
製造プロセスの見直しや自動化技術の導入を通じて、生産効率を高めます。これにより、コスト削減と品質向上を同時に実現し、収益性を強化します。

(6)製品開発戦略
消費者の健康志向や環境意識の高まりを捉え、新製品の開発や既存製品の改良を進めます。具体例として、プラントベース食品やオーガニック製品の需要増加に対応することが考えられます。市場のニーズに先行する製品戦略を打ち立てることで、持続的な成長を目指します。

中期成長戦略の構築

実行計画の立案とリソース(人・モノ・金)配分

(1)目標設定:中期目標の設定
中期経営計画に基づき、短期・中期・長期の目標を各期間における具体的な目標を設定します。

(2)組織上の戦略推進機能
「組織は戦略に従う」と言われるように、「何を実現したい組織なのか」という目的・目標を明確にします。例えば、採用難の時代において組織の機能として専門人材やまとまった数の人材が必要とされる事業を強化する場合、今後は採用や社員が持つスキル・能力を棚卸しし、データベース化するなど人事には高度な業務が求められるため、中堅規模以上の企業では総務部による兼務でなく、独立した「人事部」を設置することが求められます。またIT戦略に対しては、顧客情報の管理と社内情報ネットワークの構築、Web を活用したマーケティング、顧客とのコミュニケーションネットワークの構築などで従来の電算室やシステム室といった基幹系システムの管理業務だけでなく、情報系システムを活用した戦略的機能を発揮する機能を設置したりします。また、経営陣に対する経営実績資料の提供や経営計画策定時における事務局的な役割、計画や予算の進捗状況の確認などを主たる業務として経営企画室を設置する企業も増えています。

実行計画の立案とリソース(人・モノ・金)配分

食品メーカーA社の事例

(1)A社は、創業90年を誇る老舗企業で、長らくカップ麺などのいわゆるインスタント麺の製造として地元で業容を伸ばしてこられました。業界は、大手のグローバル企業が国内シェアを牛耳っており、また比較的低単価商品である程度の品質とブランド力を求められる事もあり、非常に競争が激しいです。商品のラインナップはそれほど多くはありませんが、県外の食品スーパーやドラッグストアのPB商品をOEM商品として多く生産しているため、薄利な商売となっています。更に設備の老朽化や人材不足などが課題となり、製造体制や品質管理も上手くいかず、結果として品質や納期に対するクレームは増え、エンゲージメントも下がる一方でありました。A社のビジョンは、「地域のために良いものを作ろう」というメッセージですが、社員からすると、会社がどこを目指すのか、どのような商品を世に送り出そうとしているのか等が不明な状況です。

(2)対策と取り組み
上記より、社長と次世代メンバーが核となって、戦略構築のための"A社ビジョンづくりプロジェクト"を立上げ、ビジョンと中期経営計画づくりに着手し、自社商品比率を高めました。5年後、海外進出に向けて組織づくりに着手するなど、様々なプランを打ち立てました。また、将来会社として必要な人材ビジョンも明確にし、5年後から逆算した人員計画を明確化することで、人不足に陥らないプランを構築しました。現在は、そのプロジェクトメンバーが主体となって、海外への取り組みや新ナショナルブランドの開発を進めています。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング
チーフマネジャー

川口 勉

大手百貨店で店舗部門統括、海外事業担当を経て当社入社。信頼を軸にしたチームビルディングを通じ、企業を変革していくコンサルティングを得意としている。特に中期ビジョン・中期経営計画の構築や次世代経営者の育成に関しては、数多くの実績を持つ。「クライアントと共に成果を上げる」ことを信条とし、情熱を持ったコンサルティング展開で多くの信頼を得ている。

川口 勉

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