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海外市場調査とは
日本市場が縮小している現状において、多くの日本企業にとって持続的な成長を実現するためには、海外進出が不可欠な選択肢となっています。国内市場の競争が激化する中で、新たな成長の機会を求める企業が増加しているため、海外進出を検討する初期段階での市場調査が重要な役割を果たします。
海外市場調査とは、特定の国や地域における市場の動向、競争環境、消費者のニーズなどを把握するための調査活動を指します。この調査は、リスクを軽減し、成功の可能性を高めるための重要なステップです。調査の種類には、大きく分けると定量調査と定性調査の2つがあります。
定量調査は、数値データを収集し、統計的な分析を行うことで市場の全体像を把握します。一方、定性調査は、消費者の意見や感情を深く理解するためのインタビューやフォーカスグループを通じて行われます。
海外市場調査は、単なるデータ収集にとどまらず、企業の戦略的意思決定に直結する重要なプロセスです。したがって、調査結果をどのように活用するかを考慮しながら進めることが求められます。
①海外市場調査の最新トレンド
近年、デジタル技術の進化・普及により、海外市場調査の手法やアプローチは大きく変化しています。従来は、進出予定国に「駐在員事務所」を設置し、現地での情報収集や営業行為開始前の関係者との関係づくりを行うことが一般的でした。しかし、企業の規模にもよりますが、より短期間に(数ヶ月など)、コストを抑えつつ、俯瞰的にポテンシャルのある国・エリアを選定するために市場調査が行われるケースが増えてきています。
例えば、定性調査のインタビューやフォーカスグループも、リアルな場だけでなく、オンラインで実施することが可能になっています。これにより、地理的な制約を受けずに多様な意見を収集できるようになりました。さらに、ビッグデータやAIを活用した分析手法も普及しており、過去のデータからパターンを見つけ出し、将来の市場動向を予測することが可能になってきています。
また、ソーシャルメディアの活用も重要なトレンドです。消費者のリアルタイムな反応や意見を把握するために、SNS上のデータを分析することが一般的になっています。これにより、消費者の嗜好やトレンドを迅速に把握し、マーケティング戦略に反映させることが可能となります。
②海外市場調査で見るべき項目
海外市場調査においては、当社がご支援する場合には「現状認識と市場調査」というフェーズでご提案することが多いです。市場調査にいきなり入るのではなく、既に商材がある場合、その商材が海外で売れる「強み」は何なのか、また事業や商材を複数有している場合には、どの商材を戦略的に海外へ売っていくべきなのか等を、"外"を見る前にまず"内"を見ることが重要です。つまり、内部環境の調査・分析を行った後、外部環境の調査・分析(海外市場調査)を進めるのが理想的です。
海外市場調査は、海外進出の手前の段階で、ポテンシャルがある国・エリアを見極めるためのものですので、調査はその要求を満たすものでなければなりません。一般的には、以下のような項目を確認することとなります。
1.市場規模と成長率: 対象市場の規模や成長率を把握することで、ビジネスチャンスを見極めることができます。
2.競合情報: 競合他社の状況や戦略を分析することで、自社のポジショニングを明確にすることができます。
3.法規制:各国の法規制を調査することで、そもそもその国に外資として参入することができるのか、もしくは参入ハードルは高くないか等を理解し、参入戦略・ストラクチャーを検討することが可能となります。
4.産業構造:サプライチェーン構造や各サプライチェーンにおける主要プレイヤーを理解しておくことも実際の参入戦略・ストラクチャーを検討する際に重要なポイントとなります。
5.文化的要因: 日本との文化的な違いを理解することで、その後適切な事業戦略を策定することができます。
6.消費者のニーズ: ターゲットとなる消費者のニーズや購買行動を理解することで、その後の実行推進フェーズにて効果的なマーケティング・営業戦略を立案することができます。
これらの項目を詳細に分析することで、企業は市場の特性を理解し、競争優位性を確立するための基盤を築くことができます。
③効果的な海外市場調査の手法
効果的な海外市場調査として即効性のあるものを何点かご紹介します。
1.デスクトップリサーチ: まずはインターネットを利用して、自社で調べられる情報を収集することが重要です。公的機関や業界団体が提供する統計データやレポートを活用することで、マクロ情報の外観を掴むことができます。日本では、JETROなどの機関が公表しているデータも有用です。
2.機械翻訳の活用: 海外の公的機関や業界団体が提供している情報は、言語の問題で心理的な壁を感じる方も多いかもしれませんが、Google Chromeなどのブラウザを使用すれば、機械翻訳で瞬時に日本語に変換することが可能です。100%正確に情報を読み取ることは難しいかもしれませんが、内容の大枠を掴むことはできます。
3.位置情報の変更: より現地の情報を取りに行きたい場合、ブラウザの位置情報をその場所に変更することをおすすめします。ブラウザは位置情報を元に表示内容を最適化しているため、現地の情報を掴むためには有効な手段です。
4.定性的なデータの取得: オンライン調査を通じて迅速にデータを取得することも可能です。特にBtoC商材については、(一見意外に思われるかもしれませんが)YouTubeを利用して消費者の意見や感情を深く理解することができます。例えば、進出検討国に赴任しているご家族(全く別の会社の駐在員の配偶者、所謂"駐妻"など)が、現地小売店の棚にどんな競合商品が置いてあるかを紹介している動画が見つかるかもしれません。また、BtoB商材でも競合製品の詳細を解説してくれているような動画が見つかるケースもあります。
5.その他SNSの活用: 特にBtoC商材の場合、YouTubeの他、ターゲットユーザー層が使っているであろうSNS(例えば、TikTokやPinterest)でも、掘り出し物の情報が見つかることがあります。まずは様々な手法を試してみることが重要です。
一方で、自社で調べることにはいくつかの課題もあります。まず、自社で調べられる情報の粒度が限られていることです。大きなカテゴリでは多くのデータが見つかる一方で、特定のニッチなカテゴリでは情報が少なくなることがあります。その場合、現地に詳しい代理店やパートナーにインタビューを行うなどして、定性的に情報を掴みにいく必要があります。
また、特に中小企業や中堅企業では、海外事業担当者が他の業務と並行して調査を行うため、時間と労力がかかることが多いです。その点、市場調査会社やコンサルティング会社は様々な調査の実施経験があるため、調査の勘所を早期に押さえることができます。進出検討国に拠点があったり、ネットワークがある場合には、現地にいないと知り得ない情報を掴むことができるため、外部委託することは有効な手段となります。
④地域別市場調査のポイント
地域別市場調査においては、英語圏と非英語圏での情報収集の難易度が異なります。世界の情報の約80%が英語で記載されていると言われており、英語が話されている国・エリアの情報は比較的容易にアクセスできます。しかし、非英語圏の場合、前述のようにブラウザの機械翻訳を活用することができるものの、依然心理的なハードルは高く、またそもそもデータベースとして情報がまとまっていない可能性もあります。
そのため、非英語圏の市場調査を行う際には、現地に詳しい人から情報を集めることが必要となりますので、現地拠点を持っている、もしくは現地にネットワークがある市場調査会社やコンサルティング会社に依頼することが推奨されます。特に、日本と大きく文化や法規制が異なる地域では、現地の専門家の知見が不可欠です。
さらに、地域ごとの消費者行動や嗜好の違いを理解することも重要です。例えば、アジア市場では、特にデジタルマーケティングが重要視されており、SNSを通じたプロモーションが効果的です。一方、欧州市場では、環境意識が高い消費者が多く、持続可能性を重視した商品が求められています。このように、地域ごとの特性を把握することで、より効果的なマーケティング戦略を立てることが可能となります。
⑤まとめ
これまでの内容を振り返り、海外市場調査の重要なポイントをまとめます。海外市場調査は、企業が新たな市場に進出する際に欠かせないプロセスです。最新のトレンドや効果的な手法を活用し、可能な限り正確な情報を収集することで、リスクを軽減し、成功の可能性を高めることができます。
さらに、特に重要な2点を挙げておきます。
1つ目は、海外事業を含む新規事業全般について言えることですが、一度決めた計画通りに進めるウォーターフォール型ではなく、少し試してみてダメだったら別のやり方に変えて再度試すアジャイル型のマインドを持つことが重要です。特に海外では、予想外の事態が発生したり、状況が急速に変化することがあるため、臨機応変に当初検討の別の方向性や手段へ切り変えるマインドを持っていることが海外事業を推進、また成功に導くために必要なことだと考えられます。
2つ目は、進出の優先国がある程度絞れた段階では、実際に現地に行くことが重要です。現地に赴き、五感でその国の空気を感じ、関係者にインタビューを行い、現地の生の声を聞くことが最終判断段階では不可欠です。海外進出に成功している経営者にその秘訣を聞くと、共通して「実際に現地に足を運ぶこと」という回答が返ってきます。当社は、事業成功のポイントとして、国内においては「現場・現実・現品」を重視し、三現主義を提唱してきましたが、海外進出においては「現場(日本)・現物・現品」に加え「現地(海外)」の四現主義が成功のカギとなると考えています。これらのポイントを踏まえ、海外市場調査を進めていくことが、その後の戦略立案、実行推進フェーズの成功に繋がります。
最後に、海外市場調査は単なる情報収集にとどまらず、企業の未来を切り開くための戦略的な活動であることを再認識することが重要です。市場の変化に敏感に反応し、柔軟に戦略を見直すことで、企業は持続的な成長を実現できるでしょう。海外進出を検討する企業は、海外"進出"が目的となるのではなく、海外進出が"成功"となるように、これらのポイントを押さえ、戦略的に行動することが求められます。
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