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近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)があらゆる業界で注目を集める中、物流業界においても2024年問題も相まって、重要性が増しています。しかし、物流DXを単なる技術導入や業務改善の手段として捉えるのではなく、企業全体の経営戦略に紐づいた機能戦略の一部として位置づけることが重要です。物流は製品の流通や顧客へのサービス提供に直結する重要な要素であり、その効率化や最適化は企業の競争力を大きく左右します。
物流DXは、単なる業務のデジタル化にとどまらず、企業のビジョンや目標を実現するための戦術的な手段として機能します。物流のデジタル化を通じて、業務の効率化やコスト削減を図るだけでなく、顧客との関係を強化し、持続可能な成長を実現するための基盤を築くことが求められています。次に、物流DXをうまく活用し、戦略が成功した事例について紹介します。
商社という枠にとらわれないT社の独創的戦略における物流DX
T社は、生産現場で必要な作業工具、測定工具、切削工具をはじめ、あらゆる工場用副資材(プロツール)を取り扱う商社です。一般的に、企業は在庫をできるだけ少なく持つことが良いとされている中で、同社はその常識を覆すアプローチを採用しています。「お客さまは便利なところからしか買わない」という信念のもと、在庫を「成長のエネルギー」と捉え、他社では手に入らない商品やロングテール商品を豊富に取り揃えています。この戦略により顧客からの信頼を獲得し、「同社には必ず在庫があり、納期も短い」という評価を得ています。
同社は、在庫回転率ではなく在庫出荷率(注文時に在庫から出荷できた割合)をKPIとし、2030年までに在庫100万アイテムの実現を目指しています。営業力だけでなく物流力も重視しており、「即納こそ最大のサービス」という理念のもと、全国に89カ所の拠点を配置し、独自の「固定費型物流」システムを構築しています。路線バスのような配送網を整備し、小ロット・多頻度の注文に対応することで、物流コストを低減しつつ迅速な配送を実現しています。この柔軟な物流体制は、デジタル技術と相まって顧客にとっての利便性を飛躍的に向上させています。
物流DXという面においては基幹倉庫に先進的な物流機器を導入し、高密度収納と高効率出荷を実現しています。
過去10年間の設備投資は実に1,000億円以上に昇ります。
「リアルとデジタルの融合」を通じてCX価値の向上を目指すA社の物流DX
A社は全国に店舗を構える小売業で、近年オンラインスーパー事業に参入しました。同市場への参入は後発で顧客基盤のない状態でスタートしましたが、直近のユーザー数が20万人を突破し、更なる拡大を目指しています。なぜ、後発であるはずの同社がここまで急成長できたのでしょうか。その理由は明確な戦略と物流DXの活用にあります。
スーパーマーケットのオンライン化がなかなか浸透しなかった最大の理由は「商品の鮮度」においてリアル店舗のメリットが大きかったことです。そこで同社は「ネットスーパーだからこそ、鮮度が良い」というイメージを創出し、差別化を図ることに成功しました。
その差別化をするために必要不可欠であったのが物流DXの活用です。同社の倉庫には最新技術が取り入れられ、徹底的な自働化とデジタル化が進められています。注文が入ると、ロボットが自動で商品をピッキングし、その商品を人間が配送用のトートに入れます。入荷からピッキング、配送に至るまで、常温、冷蔵、冷凍の3温度帯管理を徹底し、鮮度を保って商品を届ける仕組みとなっています。また、注文があった段階で配送ルートを自動計算し、過去の大量の注文履歴から需要予測を行うことで配送効率を向上させ、「ネットスーパーだからこその鮮度」を実現しています。こうした顧客体験の向上が顧客の信頼に繋がり、さらなる成長を支える要因となっています。
これらの2社に共通するのは、戦略を明確にし、どのような機能やシステム、機械が必要かということを逆算思考(バックキャスティング)で捉え、物流DXを推進している点です。物流業界には2024年問題や慢性的な人手不足といった課題が顕在化していますが、物流DXをこれらに対応するためだけの「労働力の代替」として捉えるのではなく、「明確な戦略に基づいた物流DXの推進」が企業の競争力を高め、持続可能な成長を実現するための重要な要素であるといえます。さらに、新たなビジネスモデルの創出や顧客ニーズへの迅速な対応も可能となり、業界全体のイノベーションを促進することにもつながります。
"戦略なきDXに成功はない"
繰り返しになりますが、DXシステムの導入を目的とするのではなく、戦略に基づいた戦術の1つとして物流DXを推進していくことが有効であるといえます。
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