COLUMN

2024.02.09

ライフスタイル中堅企業の中期経営計画を実現に導くメソッドとは

ライフスタイル中堅企業の中期経営計画を実現に導くメソッドとは

筆者が担当するコンサルティングにおいて最も多いテーマが"中長期ビジョン""中期経営計画"です。ポストコロナにおいて極めて不確実性が高い昨今ではありますが、会社の未来を描くためのビジョンや経営計画の策定は企業で最も高揚感が高まる瞬間でもあります。一方いくら立派なビジョンや経営計画が策定されたとしても、推進段階において失敗する企業は一定数存在するのが実情です。今回はライフスタイル中堅企業A社を事例に、ビジョンおよび中期経営計画が達成されない要因を探ります。

中期経営計画の推進に不安を抱える経営者の声

A社は都心部に本社を構える生活日用品を取り扱う専門商社であり、企画開発力を強みに自社ブランドも保有する売上高約300億円、売上高経常利益率約3%の創業50年超の中堅企業です。当該分野では業界3位のポジションを形成され、消費者の声を反映して開発した自社オリジナル製品は業界内でも高い評価を得ています。筆者は同社の経営者および経営幹部と共に5ヵ年の中期経営計画を策定し、以下をその骨子としました。

■ 中期定量ビジョン
「売上高500億円、売上高経常利益率5%」

■ 重点戦略
①自社ブランド(PB)の開発強化 【KPI】自社ブランド売上高比率:30%→50%
②EC立上げによる川下への本格シフト 【KPI】EC事業売上高比率:0%→20%
③人的資本経営の推進  【KPI】教育投資:人件費予算3%、40代の経営者人材(役員)の輩出

筆者は同社が中期経営をスタートし一年が経過したタイミングで、一年ぶりにA社の経営者と面談をしました。
以下はその際の筆者(以下コンサルタント)とA社経営者との会話です。

コンサルタント 中期経営計画がスタートし一年が経過しました。推進状況はいかがですか?
A社経営者 正直に申し上げると一年目は計画未達成でした...。
コンサルタント あんなに素晴らしい計画を策定したにもかかわらず、どうされたんですか?
A社経営者 私としては期首に全従業員を集め"新中期経営計画"の発表をし、全従業員が同じベクトルを向き良いスタートを切ったものと思っていました。しかし一年が終わり従業員の意識や行動はこれまでと大きな変化が見られず、結果として中期経営計画自体も未達成となってしまいました。
コンサルタント なるほど。中期経営計画そのものが全従業員へ十分に浸透されていなかったのですね。"組織は戦略に従う"という言葉にもある通り、計画を達成に導くためには組織体制やマネジメントのあり方なども抜本的に見直す必要があります。
A社経営者 確かに仰る通り、中期経営計画の策定を機に真に会社が変革されていなかったのかもしれません...。

その後、話は2時間程度におよび、A社には以下の主要な問題が発生していることが判明しました。

・中期経営計画は期首に一回社内発信されたのみであり、ビジョンや重点戦略を理解しているのは幹部以上の人材に留まっている
・重点戦略に掲げるEC事業への投資など、経営資源の配分が不足している
・中期経営計画の策定前後を比較して組織体制に大きな変革が見られず、戦略を推進するための責任や権限も不明確である
・重点KPIはリアルタイムで把握することができず、マネジメント上の課題を抱えている
・中期経営計画の振り返りや対策は一部の経営者と幹部のみで実施されている
・人材育成のあり方がこれまでと変化が見られず、中期経営計画を推進するリーダーが育っていない

中期経営計画の推進に不安を抱える経営者の声

中期経営計画が達成されない5大要因

A社事例をもとに、中期経営計画が達成されない要因は以下5つに大別されます。

①ビジョンが浸透されていない
ビジョンは社内外へ発信および浸透していくためのインナーブランディングとアウターブランディングが必須です。中期経営計画が達成されない企業の多くでは、ビジョンが適切に社外へ発信されていなかったり、社内の末端社員まで浸透されていないケースが多く見受けられます。社内外への発信と浸透により計画初年度より一気呵成に推進力を高めていくことが重要です。

②マネジメントの仕組みが整備されていない
中期経営計画を推進するためには、正しくレビューおよびモニタリングするための環境整備が必要です。中期経営計画が十分に推進されない企業では、管理会計の仕組みが整備されておらずKPIを正しく把握することができなかったり、レビューやモニタリングするための会議体が整備されていないことが多い状況です。中期経営計画の推進状況の可視化とPDCAを回すための仕組み構築が求められます。

③適切な戦略投資が実行されていない
戦略は経営資源の再配分であることを考えれば、投資という資源配分が求められます。投資が設備更新に偏っており新たな投資がされていないことや、攻めの投資と守りの投資のバランスが崩れているなど、適切な投資無しには戦略は推進されません。戦略投資枠の確保と重点戦略への積極投資が重要です。

④戦略に応じた組織形態となっていない
組織は戦略に従うことを前提に中期経営計画と連動した組織の変革は必須です。中期経営計画の推進を阻害する大きな要因が組織にある企業は多く存在します。戦略を実現に導くための重点ユニットの確立と責任・権限を確立しなければなりません。

⑤中期経営計画を実現に導くリーダー人材が不在
"企業は人なり"というように、ビジョンと中期経営計画をもって人材育成を進めていくことが重要です。計画や戦略が推進されない理由は、つまるところ"人材"の問題に帰結します。人材育成の抜本的見直しと中期経営計画を推し進めるリーダー人材の輩出が必要といえるでしょう。

中期経営計画が達成されない5大要因

中期経営計画を実現に導くメソッド

先述の中期経営計画が達成されない5大要因をもとにした、実現のためのメソッドは以下図表1の通りです。中期経営計画が未達成の企業はいずれかの項目で課題を抱えていることは間違いありません。計20の項目を一つずつ客観的にチェックし、課題項目に対して改善を図ることで中期経営計画の推進力が高まることでしょう。

■ 図表1

中期経営計画を実現に導くメソッド チェックシート

出所 : タナベコンサルティング作成

せっかく立派な中期経営計画を策定したとしても、推進段階で過去と何も変化が無ければ、策定に掛けた多くの時間とコストが無駄となります。
中期経営計画は本来会社を変革に導くものです。中期経営計画の策定を機に、全従業員への浸透を大前提として実現に向けた適切な投資、組織体制および人づくりやマネジメントのあり方を抜本的に見直すことが肝要です。

著者

タナベコンサルティング

森田 裕介

大手アパレルSPA企業を経て、当社へ入社。ライフスタイル産業の発展を使命とし、アパレル分野をはじめとする対消費者ビジネスの事業戦略構築、新規事業開発を得意とする。理論だけでなく、現場の意見に基づく戦略構築から実行まで、顧客と一体となった実践的なコンサルティング展開で、多くのクライアントから高い評価を得ている。

森田 裕介

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