COLUMN

2024.02.09

食品関連企業における中期経営計画策定のポイント

食品関連企業における中期経営計画策定のポイント

食品関連企業の中長期ビジョン構築においては、その業界特性上、一般企業で構築する場合と前提条件を変える必要があります。その前提条件とポイントについてご説明いたします。

1. 中長期を見据える上での食品業界の特性

(1)外部環境の変化が大きく、影響を受けやすい(世界情勢・円安・気候変動)

コロナ禍は5類への分類見直しに伴い、過去数年に比べると落ち着いたものの、昨今の世界情勢はコロナ禍に引き続き、非常に目まぐるしい状況となっています。特に、ウクライナ戦争やパレスチナ情勢など非常に厳しい状況であると言えます。この状況は食品業界のみならず、社会全体に大きな影響を及ぼしています。また、温暖化に伴う気候変動は、日本のみならず世界的な問題となっています。この世界情勢や気候変動および世界各国の金融政策は、食品業界にとっては非常に大きな影響があります。
世界情勢の変化は、原料の流通、特に輸入に対して影響が大きく、流通量の減少が原料価格の高騰を招いています。また、畜産業においては、家畜飼料の原価高騰に連動して、食肉などの価格が高騰しています。原油価格も高騰しているため、光熱費も上昇しています。これはすべて、製品原価に転嫁せざるを得ない状況と言えます。
同様に、円安も輸入製品・原材料の高騰を招いており、原価に対して大きな影響を与えています。現在の日本の政治状況を鑑みた際に、短期的な対策が打たれることは考えにくく、この影響は中長期的に続くことが予想されます。
また、気候変動により、今まで取れていた生鮮品(農産物・水産物)は従来通りには取れなくなっており、このまま気候変動が大きくなると、生産環境は大きく変化することが予想されます。事実として、フランスワインの原料を生産するブドウ農家は温暖化により従来の品種が育てにくくなるほど、平均気温が上昇してしまっています。この状況が続くと予想すれば、原材料の調達は長期的な視点でみると、非常に大きな問題となるでしょう。食品関連企業の中長期ビジョン構築においては、これは欠かすことのできない視点であると言えます。

(2)食の技術進化(フードテック)が急速に進んでいる

食品業界における技術進化「フードテック」という言葉は既に業界内に定着しているほど、進化が進んでいます。遺伝子技術による食材の進化、バイオテクノロジーによる食肉生産、人の手を使用しないロボティクス調理など日進月歩のスピードで世界中でさまざまな潮流が起こっています。世界的な食材の高騰や人件費の上昇が続けば、そのギャップを埋める対策としての技術進化はよりニーズが高まると考えられ、これからもさまざまなフードテックが生まれるでしょう。
食品関連企業においては、このフードテックの潮流は対岸で起こっていることと捉えず、自社にどのように組み込み、発展させていくかを考える必要があります。これを踏まえた上での中長期ビジョンとすることも必要なテーマと言えます。

(3)人々の食志向のニッチ化が急速に進んでいる

情報処理技術の進化とスマートフォン普及により、人々が情報を得ることは容易になっており、スマホ1台で世界中の情報を得ることができる時代になっています。かつて(たった30年程度前)の日常の情報媒体が、新聞・テレビ・雑誌という三大マスメディアであった頃と比べ、現在の情報環境は大きく変化しています。
これにより、起こっているさまざまな現象のうち、食品業界に大きく関わるのが「食志向のニッチ化」です。かつての三大メディアの時代はマスメディアから画一的な情報が発信されることにより、いわゆる"大ブーム"というマス消費が発生していました。しかし、スマホ時代の現代においては、人の情報は自らが選んだメディア(WEB/SNS)から情報を収集するため、マス消費は起きにくい状況になっています。個人の食志向に応じて、メディアが選ばれるため、「食志向のニッチ化」が急速に進んだと言えます。この傾向は今後もより加速すると考えられ、食品関連企業は「食志向のニッチ化」に対する自社の戦略を見定め、正しいコミュニケーションにより顧客とつながっていくことが求められます。
また、このスマートフォンを中心とした情報化社会の副産物として考えなければならないのは、SNSの情報拡散/情報流出などのリスク対策です。こちらも自社の短期および中長期的な対策として、検討が必要なテーマとなるでしょう。

1. 中長期を見据える上での食品業界の特性

2. 食品業界の特性を踏まえた「長期ビジョン」「中期経営計画」のポイント

前述の通り、中長期を見据えた食品業界の特性を踏まえると、食品関連企業の中長期ビジョン策定においては、特に下記3つのポイントを押さえる必要があると言えます。

(1)外部環境変化を見据えた「超長期視点」

外部環境の変化・食の技術進化・食志向のニッチ化は、今後も中長期的に進むことが考えられるため、それを前提とした戦略策定が必要です。そのために、タナベコンサルティングでは長期視点でのビジョン構築が必要と述べておりますが、特に食品関連業界においては、「超長期視点」が重要です。一般的な長期は10年程度で定めますが、原材料確保の観点を考えると、20~30年という「超長期」を前提とした戦略策定が必要です。なぜならば、原材料の安定生産・調達やそれに伴う工場設立の償却年数を踏まえると、10年という期間は短いからです。30年後(今ならば2053年)の世界がどのように変化しているか、を予想しながら自社の戦略を今から考えることが大切です。

(2)超長期を踏まえた「長期バックキャスティング思考」

前述の「超長期」視点を踏まえて考えると、これをある程度の期間で分解した「長期バックキャスティング思考」も重要である言えます。30年後の環境を見据え、10年後・20年後・30年後に自社がどのような姿になっていたいのか、これを真剣に考えなければなりません。超温暖化による生産環境の劇的変化、テクノロジーの究極進化による人手ゼロ時代、地球レベルを超えた宇宙レベルでの食品生産の必要性などは、もはやSFの世界ではなく、現実の世界になりつつあります。自社がこれからも成長発展していくためには、これを「長期バックキャスティング思考」で整理したうえで、現在実行するレベルの「中長期ビジョン」に落とし込む必要があります。

(3)実行度を高めるための「KPI・マイルストーン設計」

「超長期視点」「長期バックキャスティング思考」を踏まえた中長期ビジョンを策定したとしても、最終的には、中期(3~5年)、短期(1年)で何をどのようにして、どこまで成長するかを見定めなければなりません。つまり最終的には、中長期ビジョンと一貫性を持った「KPI・マイルストーン設計」に落とし込むことが重要です。自社の描いた中長期ビジョンは、KPI・マイルストーンを愚直に実行していくこと以外では実現できないのです。

前述の状況を踏まえると、今後も食品業界は厳しい環境が続くことが予想できます。しかしながら、人間が生きていくのに欠かせない"食"はなくなることはありません。だからこそ、今このような環境を踏まえた戦略を策定し、成長をしていくことが、食品業界には求められているのです。

2. 食品業界の特性を踏まえた「長期ビジョン」「中期経営計画」のポイント

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング
エグゼクティブパートナー

井上 裕介

大型リゾート・旅館にてホテル・スキー場・飲食店舗を運営し、新規企画開発・人材育成・業務改善・収益改革などに従事後、当社へ入社。現場経験を生かした戦略設計や中期ビジョン策定、新規事業戦略策定、SDGs策定支援など幅広く活躍している。

井上 裕介

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