COLUMN

2023.11.29

住宅業における中長期ビジョン・中期経営計画策定のすすめ

本コラムでは、2020年のコロナショック以降、大幅な見直しを迫られている住宅業の、今後のあるべき姿を描き、未来にわたって成長発展し続けるための「ビジョン・経営計画策定」に関する着眼点を紹介します。

住宅業は、不動産業にはじまり、建設業、住宅設備業、住宅産業、リフォーム業と実に多くの業種にわたる産業であり、「人が集まって生活する」ことで多岐にわたる経済効果をもたらす国内でも有数の基幹産業です。
それだけに、政府の政策や景気動向、資材価格や人材確保面等の環境変化に影響されやすく、目先だけでは解決できない長期的な視点で取り組む課題も多く存在します。
安定した業績を上げていくために何が必要か。
今回は、事業計画の中でも中長期(5年から10年先)にスパンでものを考えていく中期経営計画に焦点を当てて取り組むメリットや必要な考え方、事例の紹介を通じて今後取り組むべきテーマを整理していきます。

中長期ビジョンとは

同地域で類似商品を同じ顧客層に提供していれば、自ずとビジョンや戦略も似たような内容となりがちです。
例えば地元志向の調達を叫ばれる地域においては「県産材の利活用」が必須となりますし、災害や健康被害が課題となれば、耐震設計や健康住宅のフレースが叫ばれます。
埋没しかねない自社の特徴を地域においてどのようにアピールするのか。
「地域になくてはならない」なら、どのような存在価値で地域に貢献していくのか。地域社会や地域住民のために自社社員と協力してどのような事業を営んで自社のあるべき姿を実現するのか。「どのような会社を目指すのか」その方向性が中長期ビジョンです。
3年先であれば、現状の延長線上の話となるため、現状のライバルに向き合いますが10年先となれば、10年後の予測を描いたうえでその環境や顧客ニーズ変化が向き合う相手になります。これら予測される変化に対応し、維持成長に必要な取り組みを10年後の実現のために今からどんな取り組みに着手していくか。バックキャスティングで考えていく必要があります。

中期経営計画とは

ビジョンに期限と数字を吹き込むもの。それが中期経営計画です。
ここでは中期経営計画を描く上でのポイントを3点紹介します。

1. 背景を明らかにし、関係者が理解・腹落ちできるようにすること

どのようなきっかけで取り組みを始めるのか。またはやめるのか。きっかけやいきさつを明らかにすること。
自社の事業が展開するエリア・市場規模がどの程度あって、その中で自社のシェアやポジションがどのような状況なのか。
置かれている環境が今後どのように変化するのか。
少子高齢化で着工棟数が右肩下がりの中、中古住宅がどの程度増えているのか。地域における空き家対策の今後の取り組みや期待されるリフォーム分野の状況はどうか。
計画のもととなる数字や状況の現状を正しく認識し、背景として明確にすることが必要です。
情報源としては、国土交通省の「建築着工統計調査」にて新設住宅着工戸数の推移(総戸数、持家系・借家系別)をはじめ、項目によっては地域ごとの毎月の動向がわかり、自社のシェアも算出することができ、今後の中期目標設定にも役立てることができます。
「なぜこんな数字が目標になるのか?」根拠となる背景を知らされず、半信半疑で腹落ちなく顧客に、部下に向き合って業績がうまくいくはずがありません。
ビジョンや計画が生まれた背景を社員をはじめとする関係者・協力会社に至るまで理解を図り、協力を得て一丸体制を創る努力を払うことは極めて重要です。

2. 目的を明らかにし、相手に合わせて伝えること

中期経営計画を実現することで社内外の関係者にどのようなメリットが享受されるのか。実現した際の期待成果が目的となります。
何のために取り組むのか。昨今のトレンドでは、これまで主流だった「顧客価値(顧客にどのように役立つか)」や「人材価値(社員にとってどのような還元を図るか)」に加え、「社会価値(地域社会への貢献)」がサステナブルな取り組みとして必須となってきています。顧客・社員・地域社会に分かりやすいメッセージで計画の目的を発信することが求められます。

3.手段を具体的に設計し明らかにすること

どのようにして計画を実現するのか。中期経営計画を「絵に描いた餅」にしないために取り組みを具体的に作成する必要があります。
例えばステージ別に1年目から3年目を第1ステージ「競争力再生」、4年目から6年目までを第2ステージ「成長進化」、7年目から9年目までを第3ステージ「市場創造」として重点となる取り組みを顧客軸と商品軸で明確して実行と検証を図りながら、成果を上げるための軌道修正を図りながら次のステージの準備を進めていきます。
例えば、第1ステージの「競争力再生」ステージであれば、既存顧客とのパイプ強化策として、展示場への来場者対応を変える。具体的には、来場時の入口で「詳しく話を聞きたい」来場者には赤いアンケートボード、自分のペースで見て、必要に応じて聞きたいときに来場者のほうから声をかけたいご希望者には青いアンケートボードを渡し、顧客のニーズに合わせた来場者対応が「一目で誰もがわかる」仕組みを導入して来場者対応の生産性を向上させることです。
第2ステージの「成長進化」ステージであれば、来場せずともVR技術で顧客が見たいときに見たい仕組みを導入する。また、週末の来場に合わせて来場前の木曜日や来場後の月曜日に集中してホームページへのアクセスが集中する行動パターンを見越して来場を誘発したり、来場後のお礼と同時に次なるステップにつながるイベント案内を発信するなど「きっかけ」をこれまでにない技術を駆使して見込み客を刺激する取り組みに着手します。
第3ステージの「市場創造」ステージでは、顧客ニーズから生まれる商品・サービスの研究を異業種の事例を踏まえて研究し、計画的に取り組むことが必要です。
過去の事例を見ても新築借家の様に注文住宅として建てて住むにしても「住まい方」を分譲から賃貸に発想を変えて企画する商品づくりは地域の工務店が大手の下請け工事から自社ブランドの商品を制作・展開し進化させたのがきっかけです。
また、建売住宅・注文住宅の受注から施工へと進化するパターンにおいても個人住宅ではなく法人向けの社宅や寮を請け負う際に「賄いつき」で食の充実を図り、時代のニーズに合わせて新分野を創造したパターン。
他には不動産業から必要な電化製品や寝具等も設置済みの家賃設定で特徴ある物件づくりを研究し、賃貸住宅の企画・設計・販売まで手掛けて新たな市場を生み出すなど顧客に寄り添い、声を聴き、顧客ニーズを叶えるために自社のビジネスモデルを進化させる研究とパートナー探しに取り組むことが市場創造につながります。【図1】

出典:タナベコンサルティング作成

住宅業における中期経営計画作りのポイント

住宅業では、経営計画の内容は、自社の事業と規模によって展開の範囲が決まります。
例えば、戸建て住宅の分野では、まずは、手当される土地に企画住宅を建てて売る「建売」住宅が、小規模でも始められる分野になります。
企画が重要視される事業だけに、資金的に余裕ができてくると、自社で企画して販売する段階から顧客の要望に合わせた「注文住宅」へ分野を広げる展開が一般的です。
同地域で契約数を伸ばしてシェアを獲得するか、他地域に進出して契約数を伸ばすか。
売上を伸ばすにも同業種企業との違いを出すか。差別化戦略が重要となります。
ここでは自社のビジネスモデルを進化させるために必要な着眼を紹介します。

1. 戦略面・・・戦略KPIの設定

中期経営計画を「絵に描いた餅」にしないためにも、計画を予定通り進める上で、数値の基準は不可欠です。
ここでは立てた計画が予定通りに進めるために、計画段階で事業計画と合わせて戦略KPIを一緒に策定することをお勧めします。
受注売上・粗利益、完成工事売上・粗利益をゴールとなるKGIとするならば、一般的なKPI指標として「来場率」「着座率」「見積率」「査定率」など、契約に至るプロセス数字に基づいた様々な指標を各社設定されています。
その中でも将来に向けて解決すべき課題に全社で協力して取り組む指標を戦略KPIと呼びます。会社経営に良い影響力を与える指標を設計し、全社で取り組むことを目的とした指標です。
例えば「契約後1か月以内着工率」。
営業担当は契約時をピークに以降物件に対するモチベーションが低下しがちです。
引き継いだ工務担当とのコミュニケーションが良くなければ、着工までに期間が開いてしまいます。住宅は一般的に着工戸数が増えるごとに先出しの経費がかさみ、資金需要が高まりお金が足りなくなります。契約後いかに早く着工するか。この課題を解決するために、契約後1か月以内に着工すべく、関係性持っている営業担当を軸に営業任せにせず、工務・本社もサポートし、一丸体制で組織的に顧客対応を取り組むことです。新しい住まいへの期待に膨らむ顧客の気持ちに寄り添いつつ、自社のキャッシュフロー改善が図ることができる指標として極めて有効です。戦略KPI実現の具体的な組織行動の計画を設計をお勧めします。【図2】

出典:タナベコンサルティング作成

2. 戦術面・・・顧客との接点開発により差別化を図る

他社との差別化を図るためにはいかに顧客との接点を生み出すか。
自社のファンを生み出すための施策の中でいかに他社との差別化を図るか。
自社の過去客を囲い組む「感謝祭」イベントや地域のイベントに参加等の接点づ
くりが一般的です。

Aクラス情報源開拓
Aクラスとはすでに自社の真の顧客のこと。わが社の強み・持ち味を正しく理解していただき、そこに魅力を感じて頂き、知り合いを紹介したりしていただいている顧客を指します。このAクラスの情報源となる顧客をいかに増やすか。
例えば、対個人であれば、地域の自治会長さん。対法人であれば社内への窓口となる総務部長さん。個人情報の観点から不特定多数の方への案内になりますが、地域のイベント情報や地域の有力企業への職域訪問による自社イベント・新商品企画紹介などの便宜を図っていただくパイプ作りに取り組むことによって、顧客との接点を立体的に行うことができるようになります。
このように経営計画作りには接点開発の視点を織り込むことです。

3.戦闘面・・・商談・進捗の見える化により習慣を変える

初回からアプローチ、プレゼンテーション、クロージングと顧客との毎回の商談の中での差別化をいかに図るか。
ありがちなのは、過去の知識と経験に頼った商談の進め方を各営業担当に任せきりになっている状況です。
業界経験は長いものの、業績に波がある。またはスランプに陥り思うように成績が上がっていない営業担当や施工担当者に多いのはこのパターンです。
具体的には、住宅は大きな買い物だから各社を比較する。またはオーダーの際には間取りからカーテンの色までじっくり考える時間が一番顧客が幸せを感じるという発想。顧客まかせの検討に付き合っているうちにいつの間にかライバル会社につけこまれて失注してしまう。
「じっくり考えたい」という要望と同じくらい「早く決めたい」という要望もあり、そのためにも正しく顧客をリードする存在となることが重要です。

ポイントとなるのは、商談に関して進捗が「順調」かを状態や数値基準を用いて見える化することです。

その1 キーパーソンとの面談(会えているか)
商談の決定権を持つキーパーソンは誰か。きちんと会っているか。キーパーソンのニーズを正しく把握し、自社の提案の価値を理解されているかを掴むことです。
総商談数の中でキーパーソンとの初回面談を「有効面談数」として数値管理することも有効です。

その2 予算の把握
わが社の提案の予算面が顧客の予算内に収まっているか。またはどこまでのオーバーならOKか。その意思決定は誰がするのか。支払の原資・方法についても把握することです。

その3 タイミングの把握
今回の提案に関するタイミングとして「キーパーソンに相談」「キーパーソンに会う」「検討する」「購入の決定をする」「入居(利用)する」「支払う」等いくつかのタイミングがあるが、毎回の商談で「いつか(いつにしたいか)」を迫ることで相手の本気度や検討の状況が把握できる。
なかなか聞き出せない、言い切れない営業担当がいれば、「今回のご提案の説明ををご一緒に聞かせたい方はいらっしゃいますか?」とキーパーソンを聞き出して次回お会いするためにも自分の上司同席で面談のセッティングをするなど流れを変えるきっかけをつかむことが重要です。
商談の進捗を見える化により、これまで個人任せだった思考と行動を、正しい顧客視点で組織的に取り組めるよう習慣の見直しを行動レベルで検討し、計画作りに活かすことが重要です。

最後に

住宅業は社会課題となっている災害に強い住まいづくりや空き家問題、働く職人不足のテーマも見方を変えれば、耐震設計・長寿命化を目指したレジリエンス住宅の開発や中古住宅市場や健康・省エネ等スマートホームの拡大、建設ロボットや新たな工法の開発など新たな市場が生まれるテーマが目白押しの業界です。
何を辞め、何を始めるのか。自社のビジネスモデルを見直し、顧客・社員・地域社会に新たな価値を提供する企業としてなくてはならない存在として成長発展するためにも、中長期ビジョン・経営計画を背景・目的・手段を明らかにして組織一丸で成長発展を果たすきっかけとしての策定をお勧めします。

著者

タナベコンサルティング
ストラテジー&ドメインコンサルティング
チーフマネジャー

影本 陽一

営業マネージャーの経験を生かした営業戦略立案、目標達成マネジメント支援など、「目標達成が当たり前のチームづくり」を得意とする。 その他、マーケティング支援や中長期ビジョン構築をはじめ、ブランディング活動による組織の活性化、人事制度の構築、「元に戻らない教育制度」の構築と実施、実施後のフォローアップを手掛けている。

影本 陽一

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「日本には企業を救う仕事が必要だ」という
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