CASE

H社 建設業

中小建設会社が中期経営計画を策定する意義

中期経営計画とは文字通り、3~5年の中期的な自社の経営計画を立案することを意味していますが、建設業で中期経営計画を策定し、運用している企業の多くは上場企業、大企業、中堅企業などの規模、いわゆる年商100億円以上でありましたが、近年では中小企業でも中期経営計画を策定し、運用する企業が増加しています。その背景を事例を交えてご紹介します。

1.地場密着型建設H社が中期経営計画を立案しようと思案するまでのプロセス

(1)H社の概要

 H社は関東圏の地場で確固たる基盤を持つ建設会社で、建設・土木・建設資材商社、一部で不動産仲介なども事業として営み、官民の受注バランスも1:1程度の割合で、安定した受注を取れる大口先も有しています。現在は年商50億円、経常利益率10%弱。自己資本比率90%を誇り、中小の建設会社では誰もがうらやむほどの内容です。
またH社の経営計画は原則、年度の売上・利益計画のみで運用しており、投資が必要な場合についてはコストパフォーマンスを踏まえ、都度予算をあげているような形です。資金の運用については特に費用のかかるものに関してはシビアに捉えて経営を行っておりました。

(2)H社の陥った課題

H社の業績は堅調で大きな成長はないものの年間3%程度の成長を10年以上も続けており、業績だけを見ていれば問題ないように思われるのですが、ここに来て一つの経営課題が発生しました。それは人手不足です。直近3か年程度で見てみると採用ペースが大きく鈍り、またせっかく入社した新入社員も次々と辞め、定着率が低下していったのでした。そのためH社は受注した案件を外注依存で対応していく割合が増加し、足元は問題ないにしても、中期的に見れば現状の業容を維持するのが難しくなってきているのが目に見えていました。

(3)社員アンケートから見たH社の姿

H社は危機感を覚え、社員アンケートを実施し、社員から見たH社の姿の意見をもらおうと計画しました。その際に出た結果は経営陣にとってはショッキングな内容でした。多くは以下の内容が集約されていました。

①会社の未来が見えない。
②自身の成長を感じられない。人事や教育制度など何もない。
③周りの会社は新しい取り組みをしているのにH社は何も変わっていない。
④昔の良さをそのまま引きずっており、時代の価値観とずれている。
⑤方針が不透明だから、各自が好き勝手に仕事をしており、いくつものスタンダードがある。

H社は未来の不透明なところで何かを考えるのではなく、まずは足元を固めていれば問題ないと考えていましたが、現存の社員からの意見を元に将来の方針や会社がどう変わっていくのかを示さなければ、H社の将来性の理解を得られないのだと気づかされ、中期経営計画を立案し、自社がどう変わっていくのかを社員に示していこうと考えました。

2.H社の中期経営計画の論点

(1)H社の中期経営計画での検討事項

①自社のビジネスモデルを検討
まずは魅力であったり、ワクワクするビジネスを検討し、夢のある形を作るところからスタートしました。
また将来に渡り、持続的な成長を示すことで、時代環境は変わろうとも安定した事業で、H社は安定した雇用や就業環境を維持できることを検討し、示しました。

②自社のルールやマニュアルを検討
人の背を見て学べという組織風土であったため、ノウハウが俗人化しており、現場管理者によって仕事の進め方が変わり、その下に属する主任や作業員が困惑することが多くありました。技術承継も同様です。これを会社の仕組みにどう落としていくのかを検討し、示しました。

③人材に対する考え方
人事制度は形骸化しており、実質的に機能しておらず、将来の期待できる賃金も見えない状態でした。また人材育成については現場のOJTに依存しており、会社として教育訓練を実施していることはありませんでした。働く社員のキャリアが見える形にするための人事制度や教育体系、人材ビジョンについて検討し、示しました。

④働き方改革を実現するためのデジタル化
2024年4月に向け、対応していることは人を増やし、極力負担を減らすことでした。デジタル化については社員がついていけないだろうという先入観と投資金額の大きさで経営陣が二の足を踏んでいました。そこでデジタル化も手段の一つのオプションとして業務改善を検討し、示しました。

いずれの論点も年度方針では解決できない問題であったため、H社は最後にアクションプランを策定し、3か年で誰が何をどのように進めていくのかを検討し、中期経営計画を完成させました。

(2)完成した中計による社員の声

 実に10ヵ月かけて完成した中期経営計画を社員向けに発信をしたところ、社員の方からはまだ不信の声が上がっていました。要因を探ってみると出来れば良い会社になると思うが、そんなことを今まで検討してこなかった会社がそんなに簡単に変わることが出来るのかが疑問という声でした。しかし、この声については経営陣や経営幹部のメンバーは前向きに捉えました。なぜなら、出来たら良いという声があったためです。つまり、H社で考えている中期経営計画は社員に認められ、後は、施策をやりきれば社員にとっては望ましい形になれるという捉え方をしました。

(3)現状のH社の姿

現在も足元での課題を解決しながら、中期経営計画の施策について取り組んでいます。実際、少しずつ成果も上がっており、中期経営計画を立案した際に不信感を持っていた社員も施策に協力的になりました。また中期経営計画での取り組みを対外的にアピールするようになってからは、中途採用や新卒採用、離職率等にも良い効果を得られ、以前よりも人の応募は増え、離職者も減少しています。H社の中期経営計画の実行状況は道半ばでありますが、必ず完遂させ、次の中期経営計画に繋げようと考えています。
中期経営計画の意義は自社の業績を良くするための事業計画というだけではなく、社員の幸せやステークホルダーとの関係性等を作っていく上でも重要な計画となります。人をこれからも大事にしていきたいと考えている建設会社があれば、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

会社プロフィール

H社 建設業

[ 所在地 ]
埼玉県

業種 建設業
従業員数 80名

コンサルタント紹介

山本 剛史
タナベコンサルティング
取締役
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部山本 剛史
村上 幸一
タナベコンサルティング
取締役
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部村上 幸一
高島 健二
タナベコンサルティング
上席執行役員
九州本部高島 健二
土井 大輔
タナベコンサルティング
執行役員
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部土井 大輔

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