CASE
事例
S社 建設業
「規模の壁」突破のための私たちらしい10年後ビジョンの策定 事例
1.中長期ビジョン策定への決意
S社は千葉県に本社を置く創業30年以上の建設業であり、建築物の改修工事を主軸に事業を展開しています。
中長期ビジョン策定に至った背景としては、建築物の改修工事において創業から顧客の要望に柔軟に対応してきた対応力を強みとし、これまで順調に成長してこられましたが、ここ数年、企業が成長するうえでの規模の壁に直面されていました。売上高は成長基調ではあるものの、ある一定の売上高(壁)を前後している状態であることと、売上高総利益率では直近5年で下降傾向にありました。そのような状況の中、この成長における規模の壁の突破と、将来的に想定している後継者への事業承継や将来の明るい姿を想像することで若手社員の定着を図るといった3点を目的とし、10年後である「2033年ビジョン」の策定を決意されました。
プロジェクトとしては次期後継経営者候補も含めた次世代の経営幹部を中心に8名で構成し、現経営層である社長・専務はオブザーバーとして関わることで極力メンバーの意向を尊重してビジョンを策定することを意識されていました。
2.中長期ビジョンの体系
中長期ビジョンを策定するにあたり、現状認識からはじまり中長期ビジョンの骨子策定、重点戦略から各中期経営計画での重点施策の検討・策定をおこなってきました。中長期ビジョンの体系としては下記構成で検討し、プロジェクトメンバーとディスカッションを重ねながら意思決定をおこなってきました。
⑴現状認識(外部環境、内部環境)
ビジョンを検討するうえでの第一ボタンである現状の把握をおこないました。外部環境ではPEST分析や市場分析、ライバル分析を通じて外部環境を把握し、内部分析としては、創業からの成長過程・成長要因や業績分析、顧客分析、仕入れ先分析、組織分析、財務分析等により内部環境を把握しました。
⑵シナリオプランニングによる将来予測
外部環境分析におけるPSET分析を基に、将来重視される価値観や起こりえる環境の変化を整理し、そのうえで我が社が進むべき大枠の方向性を検討しました。
⑶中長期ビジョン「2033年の目指す姿(定性・定量)」
定量目標としては既存事業の深耕と新規事業の立ち上げを基に定量目標を決定し、一人当たりの売上成長率も加味しつつ人員数を設定しました。さらに、成長の壁を突破するためには10年間の前半で社内体制を整えることに重きを置くことで緩やかな成長を想定し、後半で大きく成長するような数値計画を立てました。
また定性目標としては我が社の大事にしている価値観を改めてプロジェクトメンバー内で共有し、建設業にとらわれず可能性を広く持って事業を展開することで顧客や地域に貢献していく「10年後の目指す姿」と、ビジョンを実現するための3つの長期基本方針を策定しました。
⑷2033年の目指すビジネスモデル
10年後の目指す姿として、我が社の提供価値を誰にどのように届けるのかを基に、現在の既存事業をさらに深め、エリア展開や新たな機能・新規事業といった提供価値を増やしていきながら、様々なステークホルダーに価値提供をおこなうビジネスモデルを策定しました。
⑸重点事業・組織戦略の策定
目指すビジネスモデルを実現するために既存事業の深耕と新規事業開発といった重点事業戦略と、その事業戦略を実行に移すための組織戦略の策定をおこないました。
⑹ロードマップの策定
中長期ビジョンを3年3回転のステップでとらえ、2033年のあるべき姿から逆算して各中期経営計画での重点実施テーマを検討・策定しました。
3.策定におけるポイント
中長期ビジョンを策定するうえで、現状を打破し未来の姿を思考することが重要です。またすばらしいビジョンができても「絵にかいた餅」にならないようにする必要があります。
これらを踏まえたうえで、この中長期ビジョンを策定するにあたりプロジェクト内で重要視したポイントは下記3点です。
⑴バックキャスティングで考える
2033年の目指す姿や重点戦略を検討するうえで、既存の延長ではなく10年後である2033年の目指す姿を明確にし、現状とのギャップを認識しました。そのうえで、現在と目指す姿とのギャップを埋めるために、逆算思考で戦略や重点実施事項を検討しました。
⑵私たちらしさの追求
成長の壁を突破するために課題となっている社内組織体制整備にしっかりと時間を要し、無理に成長せず、10年間の中で後半に大きく伸びる成長曲線を描きました。また、次期経営者を育てるために拠点を他エリアへ展開することや、独立志向がある社員に対して社内起業として事業会社化する仕組みを構築するなど、社員の多様な働き方や働きがいを追求し「人」が集まる会社を目指しました。
⑶自分たちの言葉で表現する
今回のプロジェクトで策定した中長期ビジョンが「絵にかいた餅」にならないよう、全社へ浸透し実行に移していく必要があります。今回のプロジェクトメンバーはこのビジョンの伝道師として社員に伝えていく大きな役割があります。全社員へ伝えていくうえで"自分の言葉で伝えること"が最も重要になります。ゆえに、文章や単語一つ一つを丁寧に確認しながら定義付けし、我が社としての定義を明確にすることで、全社員に伝えやすく、かつ伝わりやすい中長期ビジョンを目指しました。
このようなポイントを基にディスカッションを重ねることで、S社らしい中長期ビジョンが策定されました。
また、このプロジェクトを通して、後継者候補がリーダーシップを発揮してメンバーの意見をまとめる姿が見られたことや、プロジェクトメンバーが自部門から全社へ視点を広げることができたことも大きな効果でした。
今後、策定した中長期ビジョンを浸透させていくために、単年の経営計画に反映することや具体策を実施していきます。
会社プロフィール
S社 建設業
[ 所在地 ]
千葉県
業種 | 建設業 |
---|---|
従業員数 | 50名 |
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コンサルタント紹介
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取締役
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部山本 剛史
- タナベコンサルティング
取締役
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部村上 幸一
- タナベコンサルティング
上席執行役員
九州本部高島 健二
- タナベコンサルティング
執行役員
ストラテジー&ドメインコンサルティング事業部土井 大輔