CASE
事例
A社 建設業
日々の業務の中に眠る事業アイデアについて
新規事業のアイデアを創出する上で重要な視点とは?
一般的に言われているのが以下の3つになります。
新規性:どれだけ新しい価値を提供できるか
解決性:顧客の持つ課題や悩みを解決できるか
収益性:安定した利益を得ることができるか
今回紹介するA社では自社の社員が業務の中で感じている課題感をもとに新規事業開発が進められました。
社員が業務の中で感じている課題感がどのように新規事業開発に繋がったかをご紹介したいと思います。
1.オフィスPMをより効率的に実施するためのコンテンツを作る
(1)A社の概要について
A社は大手の設備施工会社であり、事業としては空調や給排水、電気、スマートビルソリューションなどの建築設備分野から、コンベヤや物流搬送システムの機械システム、さらに水処理施設や廃棄物処理施設、環境プラントなどのプラント設備事業や、オフィスなどのワークプレイスに対しての移転に関わるプロジェクトマネジメントなどを行うファシリティシステム事業などがあります。
今回新規事業を検討しているのが最後に紹介をした、ファシリティシステム事業部になります。
ファシリティシステム事業部の事業を簡単に説明すると、オフィスを移転する際の業務を一括で請け負い、移転完了までのマネジメントをしていく仕事になります。
ではなぜこの事業部が新規事業を取り組むことになったのでしょうか。
本事業部は開始してから現在で約30年となり、1つの節目を迎えるなかで次の20~30年を見越した新たな事業が必要と考えておりました。
そんな中でA社の経営企画を中心に新規事業開発の社外コンペを実施しているタイミングでもあったため、事業部として新規事業開発を実施する方向となりました。
(2)新規事業案が決定するまでの経緯
新規事業のアイデアの起点となったのが、冒頭お話したように、ファシリティシステム事業部が業務を遂行する上での課題になります。
建築業界はまだ2Dの図面が主流となっており、イメージが共有しやすい3Dを作成するにはお金も時間もかかりました。
そのような現状の中で顧客とのイメージの相違が生まれ「こんなイメージじゃなかった」とクレームに繋がることもありました。
新規事業開発の担当者は、現在の自分達の業務における課題をもう一度洗い出し、
以下のような課題があると考えました。
①内装デザイン(床・壁・天井・什器)の視覚化(パース作成など)にかかるリソース負荷が大きい
②内装デザインの決定に係るリードタイムが長い
③デザイナーと発注者とのコミュニケーションミスが起きることがある
このような課題を解決すべく、誰でも手軽に3Dのモデルの中で意思疎通が出来るツールを作成したいと考え、担当者のA氏の熱い思いの元、事業コンセプトが決定しました。
2.事業の概要
(1)プロダクト開発までの経緯
ではその課題を解決するためにはどうすればよいでしょうか?
A社自身は建設業界の設備施工企業のため、自社でプロダクトを開発するノウハウなどは持ち合わせておりませんでした。
その時に考えたのが、「共創」となります。
A社の経営企画部が実施をしていた新規事業の外部コンペを活用し、自社でもっていないノウハウを保有している企業と共に事業を推進していこうと考えました。
コンペは約30社ほどの企業が参加をし、それぞれと面談を実施しました。
その中でファシリティシステム事業の課題を解決できるノウハウをもっているITベンダーB社とマッチングし、事業を共創していくことが決定しました。
(2)プロダクトについて
B社のプロダクトは、建設業界をはじめ、現場を記録・計測し3Dモデルを作成することで、作業の標準化と品質向上などを実現するコンテンツです。
主な強みはiPhoneやiPadを使って簡単に空間をスキャンできる点です。
今回の新規事業のコンセプトは、B社のもっている開発技術を活用し、A社の社員が抱えている業務上の課題を1つでも多く無くしていくことになります。
A社は、オフィス移転のPMをおこなっていく上でどのような機能があるべきかの機能デザインを担い、一方でB社はA社が必要と考える機能を実現化していきます。
このように新規事業を自社単独で考えるのではなく、他社と共創をしていくことで生み出す事業の幅は単独で考えるよりも格段に広がります。
どうしても自社の内部リソースだけで考えてしまうと既存事業と近しいものや出来る出来ないを考えてしまうため、考えが凝り固まってしまう可能性があります。
建設設備会社がITソリューションを開発することは単独だと実現しにくいと想定される中で、このような事業を考えついたのも共創だからこそではないでしょうか。
3.事業化を推進する上で押さえておくべき要素
(1)事業性の評価について
事業を推進する上で重要なのが、事業が成功するかを客観的な目線で評価をすることが大事になります。
どうしても事業を生み出した当事者だとバイアスがかかってしまう傾向が強いため、
担当者以外のフラットな評価が必要となります。
事業を評価する上での大事な要素として、今回は外部環境と内部環境に分け、それぞれ5項目ずつ計10項目を記載しました。
⑴外部環境調査項目
①市場規模判定
目指す目標(売上・収益)=事業ロットに十分な市場規模であるかどうか
②市場の成長性判定
参入市場は成長が見込まれるかどうか、あるいは縮小スピードは微速かどうか
③競争環境判定
参入市場はブルーオーシャン/レッドオーシャンかどうか、後発参入の余白はあるか
④環境変化リスク判定
制度変更、技術進化、社会動向等によって事業が左右されるリスクが高いかどうか
⑤社会性判定
持続的成長、事業の拡張性に重要となる社会的意義が高い事業かどうか
⑵内部環境調査項目
①優位性判定
差別化された事業内容かどうか、参入障壁があるかどうか(=他社と比べた優位性)
②収益性判定
安定した収益モデルかどうか、高い収益性が見込まれるかどうか
③難易度(営業・開発等)判定
立ち上げ・実行推進段階において、垂直立ち上げ・早期立ち上げが可能かどうか
④投資判定
3年~5年で回収(事業内容により設定)が可能な範囲内かどうか
⑤既存プレイヤーとの連携可能性
既存プレイヤーとの連携(事業提携orM&A等)により、短期間での成長が可能かどうか
A社の新規事業でも以上の項目を客観的に評価をした上で、事業を進めていくことを判断しました。
担当者の事業にかける熱い気持ちが必要な一方で、冷静に事業として成り立つのか?またその事業が成功するか?を見極める力が事業を推進していく上では必要になります。
今後新規事業を検討される方は以上の内容を参考に客観的に事業を評価していただきたいと思います。
出典:タナベコンサルティング作成
(2)A社の現状について
A社では客観的な事業の評価をしたのちに事業を推進するべきと決断をし、現在は事業化をするための事業計画書の作成に進んでいます。
サービスの開始予定を2025年4月に設定し、コンテンツの開発を進めると同時にビジネスモデルの設計を実施しています。
担当者の自社の業務をよりよくしたいという熱い気持ちが伝わり、事業が成功することを祈りたいと思います。
今回の特筆すべき要素としては主に以下の2つとなります。
①新規事業を開発する上で事業アイデアは自社の業務の中に眠っている可能性がある
②事業開発をする上で、自社のリソースだけで事業を考えるのではなく、足りないものは他社と共創で事業を推進することも可能である。
皆様も新たな事業を考えているのであれば、今回の事例を参考に新規事業の検討を進めていただきたいと思います。
会社プロフィール
A社 建設業
[ 所在地 ]
東京都
業種 | 建設業 |
---|---|
従業員数 | 2,000名 |
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