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今週のひとこと

部下の信頼を得たいのなら、言行一致を
貫こう。言行一致を実行するには、
有言実行することだ。

☆ 社内での人間関係を今一度振り返ってみませんか

 先日、コンサルティングに携わっている中堅企業A社の総務部長から、衝撃的な電話をいただきました。A社の経営体質の改善に向けたプロジェクトがスタートしてから、わずか1ヵ月後のことです。
 同社は、経営幹部による過度なパワーハラスメントや、劣悪とも言える人間関係など、複数の大きな問題を抱えている状況下でした。企業の骨組みそのものが崩れてしまう寸前であり、多くの従業員は疲弊しきっていました。

 プロジェクトの調整役であった筆者には、他にも様々な連絡や問い合わせが舞い込んできました。個人的な悩みや、会社を良くしていくための意見・提案、会社全体もしくは、特定の個人を批判する趣旨の内容などです。
 そこで全てに共通していたのは、パワーハラスメントや上司と部下の人間関係に関するもの。つまり、「人」の問題でした。

 2060年の労働力人口は、現状からおよそ4割減少し、約4,000万人になると言われています。2018年6月に成立した働き方改革関連法案が、今年から順次施行され、働く従業員にとっての労働環境は、改善の方向へと走り出すでしょう。

 その一方で、大手転職サイトに記載されている退職理由のランキングを見ると、1位は決まって「上司との関係」や「社内での人間関係」となっています。
 A社で起こった「人」の問題は、決してめずらしいことではないと筆者は考えています。
 今一度立ち戻って、社内、そして自分を振り返ってみてください。皆様の会社での人間関係は、うまくいっていますか。

経営コンサルティング本部
コンサルタント
本間 貴大

変わる未来へ、
1ページから始めよう

トランスフォーメーション戦略

明日は、今日の延長ではない――。 産業構造や価値観の急速な転換が訪れている「ポスト2020」に「10年後も安泰」と言える企業が、果たしてどれくらいあるだろうか。2019年は「未来への物語」の「章立て」が変わる年になる。古いものを復活させるのではなく、新しい会社へ「変身」することで未来の社会、顧客、社員から「共感」される「フューチャービジョン2030」をつくろう。

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バックキャスティングでリーダーシップを発揮

2019年4月に平成が終わり、5月から新たな元号になります。私たちの「新たな章」が、まさに1ページから始まるのです。これまで提言してきたように、「ポスト2020の本質」は今の延長線上にある好景気の反動ではなく、「価値観の大転換」という地殻変動が起きることが本質です。

タナベ経営の創業者・田辺昇一は、「経営者には、望遠鏡と顕微鏡の両方の目が必要だ」「目は遠くの山を見ながら、手は卵を握るが如し」と言っていました。今ほど、望遠鏡と顕微鏡の両方の視点が必要な時代はありません。価値観が大転換する時代は、マネジメントよりもリーダーシップが求められる時代です。事故なく運転するマネジメント能力以上に、望遠鏡と顕微鏡を駆使して、道なき道を切り拓いていく「リーダーシップ」が求められます。

2019年に提言する「トランスフォーメーション戦略」を一言で表現すると「会社まるごと変身戦略」。「顕微鏡」の目で2020年までを見つめ、「望遠鏡」の目で、2030年から2020年を見る。顕微鏡で見ると「厳しい現実」も見えます。だからこそ、望遠鏡をのぞいて、2030年から逆算的視点=バックキャスティングで会社を見つめ、経営理念以外は全て変えるほどの決断と実行を伴うリーダーシップが、今、求められています。

「共感の経済」へ転換するプッシュ型からプル型企業へ

2019年以降に、「5つのポスト」が訪れます。①「働き方改革法」の施行、②ポスト平成、③消費増税、④東京オリンピック・パラリンピック、⑤アベノミクスの終わり。このようなポスト経済下における変化の本質は、「価値の転換」にあります。価値の転換は、企業を評価する「ものさし」が変わることも意味します。「経済性より社会性」「スケールよりクオリティー」「労働量より生産性」「競争より共生」といったように、これからの企業に対する社会的価値を再認識しておく必要がありそうです。(【図表1】)

【図表1】これからの企業に対する社会的価値

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2019年は、東京オリンピック・パラリンピック開催前年の経済成長ピーク、消費増税による駆け込み需要という「山」が訪れます。そして2020年以降における五輪景気のピークアウトと、駆け込み需要の反動減による「谷」が訪れることが予測されます。2020年以降の未来を悲観的に捉えて、その谷に備えることは大事ですが、それだけでは未来の成長はありません。先般、「大阪万博2025」が55年ぶりに決まりました。今こそ、あらためて長期的視点に立った戦略を構築する必要があるのです。(【図表2】)

【図表2】2030年の環境まとめ

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デジタルトランスフォーメーションによる産業構造の変化や社会と個人の価値観の変化は、今まで主流・主役であったビジネスモデルや商品・サービスを覆していきます。すなわち、競争戦略でライバル企業に勝利するのではなく、まったく異なった視点で主役に躍り出ることを可能とするのです。

価値観の変化に伴い、社会はプッシュ型からプル型へと変化しています。プッシュ型とは、企業が主導で、ユーザーの意思にかかわらず企業側のタイミングで技術やサービスを提供するものを言い、プル型とはユーザーの「共感」を得ながら能動的にそれらを繋ぐ活動です。例えば、ある食品メーカーは、ターゲット顧客である子ども向け工場を建設し公開。年間2万人の親子を集客し、共感を得て、ファンを繋ぎ、拡大しています。あるハウスメーカーは、「宿泊できる展示場」を建設。顧客に住宅を体験してもらい、ブランドや品質に対する共感を集めています。しかも、この宿泊型展示場には営業社員がいないのです。さらに、採用活動もプル型へ移行しています。ある建設会社では企業内大学の設立や働く環境を整えた人事制度を構築し、採用ホームページにそれらの内容を発信しています。それらの先進的活動が評価され、国や業界からの賞を受賞。結果的に業界の常識を超えた優秀な人材を採用することに成功しています。

プル型企業とは、私たちが提唱してきた「100年先も一番に選ばれる会社 ファーストコールカンパニー」になることでもあります。プル型企業に共通しているのは「共感を繋ぐ」技術です。選ばれる理由や価値をまるごと変身させていきましょう。

世界経済の循環的変化
貿易摩擦に警戒が必要

次に、2019年の世界経済について確認しておきましょう。IMF(国際通貨基金)によると、2018年の世界の実質GDP(国内総生産)成長率は3.7%。先進国、新興国・途上国ともに成長を遂げています。2019年も同程度の成長を維持する見込みですが、先進国については、米中貿易摩擦の影響で景気の鈍化が予測されています。地域別にGDP成長率を見ると、2019年の世界全体の予測成長率は3.7%、先進国が2.1%(2018年は2.4%)、新興国市場および途上国・地域は、4.7%(横ばい)となっています。

成長のけん引役が先進国から発展途上国や新興国へと代わり、多極化・多様化が進んでいます。IMFのデータを見ると、アジアとアフリカの成長率の高さが目立ちます。また、中国の名目GDPが、世界のGDP(約80兆ドル)の15%を占めるまでに拡大しています(2017年)。しかも、OECD(経済協力開発機構)が発表した購買力平価GDPランキングを見ると、購買力平価の米ドル換算では、2017年時点ですでに中国が米国を抜いて世界1位になっているのです。「米中の新しい冷戦の時代」に突入したと言えます。

足元が堅調な米国経済も、2019年は減速リスクが高まるでしょう。トランプ政権の公約の一つであった税制改革法案の成立が内需を後押しし、現在は堅調に推移していますが、IMFでは、大型減税効果は一時的であり、またFRB(米連邦準備理事会)の金融引き締めによる景気下押し圧力も加わると指摘。2020年以降に実質成長率が大きく減速するとの見方を示しています。後述する保護主義政策に端を発する貿易戦争拡大のリスクも高まっており、⽶国の動向に警戒が必要です。

2つ目のリスクは、長期金利の上昇です。個人消費を減速させるリスクにもなるからです。すでに⽶国では減税による家計の恩恵を帳消しにするほど住宅ローン金利が上昇しているともいわれていますが、行き過ぎた金利の上昇は⽶国経済を圧迫するだけではなく、新興国からの資金流出などにより世界経済に混乱を招く恐れもあり、金融政策では慎重な判断が求められます。

回復基調の欧州も、不透明感は拭えません。ユーロ圏経済は、ECB(欧州中央銀行)が2015年に導入した金融緩和による好調な内需と世界経済に支えられ、経済回復が遅れていた南欧諸国も含め堅調な拡大が続いています。2017年の主要国の実質GDP成長率は軒並み1%を上回る水準となり、ユーロ圏全体では通年で2.4%増と前年を上回りました。これに伴い、失業率もスペイン、ギリシャなどをはじめ軒並み改善を見せています。

EUを含めた貿易額を見ると、FTA(自由貿易協定)カバー率は7割を超え、世界的に保護主義が広まる中で開かれた自由貿易戦略の動きをとっています。ただ、自動車関連の雇用が1260万人と多く、しかも23.6%が米国向けなので、ここでも米国の貿易摩擦がリスクになってきます。また、英国のEU離脱や移民政策も、欧州の分裂につながりかねない大きなリスク要因となっていることは周知の通りです。

一方、中国経済は底堅い成長と、産業構造の変化が進むでしょう。2017年は純輸出がマイナスからプラスに転じたことが寄与し、実質GDP成長率は政府の目標である6.5%を上回る6.9%。7年ぶりの上昇となりました。すでにGDPの過半を占める第3次産業の伸びが顕著であり、特に情報通信・情報技術サービスは26%増と突出した成長を見せています。

ただ、中国の生産年齢人口は2010年ごろにピークアウトしたとみられ、労働力の減少局面に入っています。都市部における求人倍率は1.22倍となり、特に北京、上海では人件費の高騰が顕著です。中国は、2049年の建国100周年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に、3段階の発展計画「製造2025」を発表しています。その第1段階として「2025年までに世界の製造強国入りする」と示しています。

ASEANの対世界貿易は堅調に推移しています。特筆すべきは中国依存の拡大です。1998年から2017年の20年間の中国への輸出割合は、9%から20%へ拡大しています。ただし、中国の「製造2025」の推進に伴い、中国企業の国内垂直統合でASEAN依存が減る可能性があります。その場合は、経済が減速する確率が高まるでしょう。

インド経済は、ICT政策によるデジタル経済の拡大が進み、長期的な成長が見込まれます。モディ首相が就任したのが2014年。以降、「デジタル・インディア」と呼ばれるICT政策は急速に進展し、屋台や農村エリアにもキャッシュレスが浸透しています。

日本経済は世界自由貿易圏とデジタル経済への対応が鍵

日本経済は、2012年11月を底に緩やかな景気回復が続いています。2017年度は実質GDP成長率が1.6%と2013年度以来の高い伸びとなるなど、内外需が共に回復するバランスの取れた成長を続けています。2018年度初めには、天候不順などの影響もあり成長率が鈍化したものの、海外の経済回復、情報化をはじめとする技術革新の進展、雇用・所得環境の改善に支えられた回復基調は継続することが見込まれています。

また、さまざまな産業や業種などでデジタル技術や新たなICTを活用するトレンドが進展。このトレンドは、「〇〇×Technology(技術)」と表現され、「X-Tech」(クロステック)と呼ばれています。これは産業や業種を超えて、テクノロジーを活用したソリューションを提供することで、新しい価値や仕組みを提供する動きと捉えることができます。

「X-Tech」により、「シェアリングエコノミー」が強烈な勢いで成長しています。タナベ経営は以前から「使用すれども所有せず」の経営を提言してきましたが、まさにその時代が到来するのです。「自分たちの提供している価値をいかにシェアするか」はビジネスモデルを着想する上でヒントになります。これに適応する組織には、CIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)と呼ばれる人材の配置も必要です。会社の意思決定に組み込み、組織として取り組むのです。これを「デジタルリーダーシップ」と呼びますが、デジタルリーダーシップがとれないリーダーは今後の戦略が構築できなくなっていきます。

日本経済の循環的変化について見ていきましょう。1999年以降、日本経済は約20年もの間デフレの状態にあると考えられてきました。デフレ状態の要因として、多くの人々が物価や賃金の上昇を長らく経験していないため、物価や賃金が「上がる」という感覚自体が希薄化していることも経済動向に影響しているという見方が出ています。

米中貿易摩擦による影響も無視できません。トランプ⽶大統領は、中国からの約2000億ドル相当の輸入品目に対して追加関税を課すことを発表しました。これに対して、中国側も⽶国からの約600億ドル相当の輸入品目へ報復関税の発動を発表。両国とも、自国に対して有利な条件で決着をつけようとする戦略であるとも考えられるため、先行きはいまだつかみにくい現状となっています。

また、今後発動される可能性のある通商政策が、日本経済、および日本企業の収益に与える影響はどうでしょうか。大和総研のマクロモデルを用いて日⽶中の経済に与える影響を試算すると、⽶国が中国からの約2000億ドル相当の輸入品目に対する追加関税率を25%に引き上げられるケースの試算値によると、GDPの下押し効果はそれぞれ中国がマイナス0.22%、⽶国が同0.28%となり、日本が同0.02%となります。

他方、これに対抗すべく、TPP11(イレブン)、EUとのEPA(経済連携協定)によるGDPの押し上げ効果が期待されています。日本とEU貿易圏を足すと、世界人口の約1割、貿易額の約3割、GDPの約3割を占めますし、東アジア地域包括的経済連携、RCEP(アールセップ)が実現すると世界全体の人口の約5割、GDPの約3割を占める経済圏が生まれます。

働き方改革はこれからが本番
社会課題の解決で持続的成長

「働き方改革関連法」が成立し、2019年4月から順次施行されます。非正規雇用労働者の処遇改善や長時間労働の是正など、労働制度の抜本的な改革を行うものです。その他、子育てや介護などとの両立、副業・兼業など働き方の多様化に伴うさまざまな課題や、労働生産性の向上を阻む多くの問題を解決するための法案として掲げられました。

働き方改革の主要項目は残業時間の上限規制、有休取得の義務化、勤務時間インターバル制度、割増賃金率の猶予措置廃止、産業医の機能強化、同一労働同一賃金、高度プロフェッショナル制度の創設です。同一労働同一賃金は、正社員やパートなどの立場、勤続年数にとらわれず、同じ仕事であれば同じ賃金が発生するという賃金設定。つまり、賃金の安い労働者を集めるようなビジネスモデルは存続が難しくなる可能性があります。人件費を下げることで会社を経営する形から脱却しなければなりません。働き方改革関連法は、これまでの就労観だけでなく国民の生活の形も変容させる可能性があります。

2015年9月の国連総会で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。2016年から2030年までの国際目標である「SDGs」の実現に取り組んでいる会社が増えています。SDGsの日本版モデルの中には、日本政府の提唱するこれからの社会像「Society(ソサエティー)5.0」(超スマート社会)が示されています。これまでの社会では、経済や組織といったシステムが優先され、個々の能力などに応じて個人が受けるモノやサービスに格差が生じている面がありました。Society5.0では、今まで人間が行っていた作業や調整をAIやロボットが代行・支援するため、日々の煩雑で不得手な作業などから解放され、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることができるようになることを目指します。テクノロジーが切り拓く新しい未来像としてSociety5.0を見てみると、これから企業が何に取り組んでいくべきか、その方向性の一端が見えてきます。

未来が変わるならば、
会社の未来の形を変える必要がある。

「フューチャービジョン2030」
未来の顧客価値を再定義せよ

未来が変わるならば、会社の未来の形を変える必要がある。それは、古いものを復活させることではなく、新しい形を描くことで未来の期待に応えることです。つまり、事業・収益・組織・人材・生産性のトランスフォーメーションを実現していくことが大切なのです。

これらを生み出すのは、「競争戦略」ではありません。変化する未来において競争は逆効果を生みます。今、求められているのは、より遠くから今を見つめるバックキャスティング視点の戦略であり、未来において私たちはどのような使命や役割を果たすのか、そのミッションを追求する新しいストーリーの構築です。それを「フューチャービジョン2030」と呼んでいます。先のSDGsもそうなのですが、3年、5年先よりも10年先の「2030年」をターゲットに戦略を練ることがポイントです。

私たちは、会社をまるごと変身させるトランスフォーメーション戦略を「変わる未来に向けた、ビジネスモデルとコーポレートモデルの改革的転換」と定義します。「ビジネスモデル」とは、自社の事業価値を決定付けるビジネスプロセスであり、「コーポレートモデル」は社内における企業価値を高める要素です。この2つを転換することで、会社全体の変身につながります。トランスフォーメーション戦略において求められる「革新」と「改革」の複合化とは、次の通り。

トランスフォーメーション戦略=ビジネスモデル革新×生産性カイカク

ビジネスモデルの「革新」によってもたらされる収益力とは、売上高経常利益率の向上であり、目指すべき数値は「売上高経常利益率10%以上」の生産性カイカクなのです。生産性とは「生産活動に対する(労働・資本などの)生産要素の寄与度」、つまりインプットに対してアウトプットを最大化することであり、「1人当たり経常利益」を高めることが求められます。目指すべき数値は「1人当たり年間経常利益300万円以上」です。すなわち、「粗利益率40%、経常利益率10%、連続10年で実質無借金のFCCブランド企業」を目指さなければ、「トランスフォーメーション戦略」の価値は半減します。

トランスフォーメーション戦略に共通している項目は次の6項目です。

トランスフォーメーションに必要な6つの戦略指針
  • 10年先からのバックキャスティングを行う
  • 成功体験を捨て未来の顧客価値を再定義する
  • 本業と向き合いポートフォリオを最適化する
  • 売り上げ・利益のセグメンテーションを変えきる
  • マネジメントよりもリーダーシップを重視する
  • 会社の変身ストーリーをブランディングする

私の経験科学では、トランスフォーメーションの実行は20年から30年に一度は直面する戦略なのです。多くの場合は事業承継期ですが、うまく取り組めた会社とそうでない会社があります。うまく取り組めない会社は「成功体験」が邪魔をします。実行のタイミングを逃すと、結果的に大きな病気にかかって手遅れになるケースが多いのです。従って、この戦略実現の難しさは会社存続の難しさと一致します。その意味からも、トップマネジメントのリーダーシップが非常に大切な戦略と言えます。

+ブランディングでトランスフォーメーション戦略を加速

プル型社会へのシフトで重要なことは、「+(プラス)ブランディング」という発想を持つことです。企業のブランドを確立すれば、他の企業とは明確な違いを示すことができます。プル型企業としてのブランドを構築すれば、企業イメージの向上につながり、顧客拡大・ファン拡大につながります。また、社内で働く人たちにも誇りとやりがいをもたらすため、顧客へ提供する商品・サービスのロイヤルティーや品質の向上につながります。

従って、トランスフォーメーション戦略を可視化し、社内外に発信するブランディング活動を忘れないことです。そのためには①2030年までのロードマップ、②新たな価値を生むバリューチェーン、③ビジョンブックへの展開、④ダイバーシティー&インクルージョンの推進、⑤事業ポートフォリオの最適化、⑥SDGsの全社戦略展開のような要素を含む「ブランディングMAP」を作成しながら、戦略ストーリーに一貫性を持たせ、ステークホルダーの「共感」を得ながら推進していくことが大切です。

最後に、会社を変身させる挑戦には「決断」というリーダーシップが不可欠です。「決断」と「決定」は違います。決定は情報がそろった中で決める行為ですが、決断とは、情報不足の中にあって決めなければならない経営行動です。

未来は不確実な情報だらけです。ただし、未来は創るためにあります。今日は昨日の続きであっても、明日という未来は今日の続きではないのです。だからこそ「決断」が必要になるのです。今、決断しなければ手遅れになり「ゆでガエル」になる可能性があります。「未来のあるべき姿」「その時は何を果たすべきか」を示すべきなのです。2019年は、皆さんの「決断」と「実行」のリーダーシップで「まるごと変身」に挑戦しましょう。


タナベ経営 代表取締役社長
若松 孝彦 Takahiko Wakamatsu

タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。
関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989年タナベ経営入社、2009年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。『100年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか著書多数。

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中小企業が今すぐできる3つの採用活動

コンサルティングの現場で、話題に上ることが多いのが「採用難」の問題である。近年の有効求人倍率はリーマン・ショック後の2009年を底に、8年連続で右肩上がりに上昇。直近では1.50倍(2017年平均、厚生労働省調べ)という44年ぶりの高水準を記録したことは記憶に新しいのではないだろうか。

しかし、危機感を強く持ってはいるものの、実際には過去からの延長線上の対症療法的な手立てで終わっていたり、半ば諦めてしまい、採用への投資を見送っていたりという企業も少なくない。今後、数年の採用環境は、中途・新卒ともに現状より厳しくなることが予想される中で、中堅・中小企業はどのように採用マーケットを戦っていくべきなのだろうか。

本稿では、中堅・中小企業が、限られたリソースの中で今すぐに取り組める採用活動を3つ、事例を交えながらお伝えしたい。当たり前に見える内容でも、意外とできていない企業が多いものだ。あらためて、自社の活動と照らし合わせてほしい。

社員の出身校・前職(キャリア)を活用した活動

まず1つ目は、社員の出身校・前職(キャリア)を活用した採用活動である。簡単に言うと人脈営業だ。社員の出身校の中でも、特に相性の良い学校や、今後長くパイプを構築したい大学などをピックアップし、キャリアセンターやOB・OGのつながりを活用する。中には、トップ自ら大学キャンパス内を歩き、学生と一緒に食事や会話をしながら情報収集をしたり、キャリアセンターを通じて就活生に対する講演を毎年実施することで間接的に企業ブランディングにつなげている企業もある。

また中途採用においては、中途入社した社員の前職を洗い出してみる。親和性の高い会社や業界があれば、その社員の人脈を活用し、前職の後輩・同僚で転職を考えている有能な人材に直接コンタクトを取ってもらうという方法である。ただ、この活動方法は、その社員が「自社を後輩や同僚に紹介したい」と心から思えるかどうかがポイントになる。日頃から社員満足度を意識した経営ができているかが問われるといえる。

「類は友を呼ぶ」。自社においても社内で優秀な人材やロイヤルティーの高い社員をピックアップし、その社員の「友」へダイレクトにアプローチするという対策を検討してみてはいかがだろうか。

退職者を再雇用

2つ目は、退職者の再雇用だ。何らかの理由で自社を離れてしまった社員をもう一度自社に呼び戻すというアプローチである。昨今では、サイボウズの「再入社パスポート」※のように社員の"出戻り"を歓迎する制度を設けている企業もある。いきなり「制度をつくりましょう!」というのではなく、まずは「一度退職した社員を再雇用してもよい」という風土やマインドセット(判断基準)をつくろうということだ。

退職者の再雇用は、退職者本人が会社の業務内容を把握しており、会社側も退職者の人間性をある程度理解しているという大きなメリットがある。しかし、退職者全員に声を掛ければいいということではない。当時、事情により仕方なく退職した人や、キャリアアップなど前向きな理由で退職した人などを対象に、「もう一度、わが社で輝いてみないか?」と声を掛けることがポイントだ。

再雇用を成功させるポイントは、退職者リスト自体をきちんと整理・把握しておくことにある。自社は退職者のリストを眠らせていないか。または退職者リストを作っていない、退職理由や経緯を把握できていないという状態になっていないかを確認することから始めてみてはいかがだろうか。

※ 退職者に「再入社パスポート」を交付し、退職後6年間は復帰を可能とする制度

自社の営業・プロモーション活動の場面を利用

3つ目は、自社の営業活動の現場を利用するアプローチである。この方法は、会社のビジネスモデルや業界によって少しカスタマイズが必要となる。私が支援先で導入いただいた事例を基に説明したい。

ある消費財メーカーA社から採用の相談を受け、これまでの新入社員の入社動機をヒアリングした。そこで注目したのが「当社の商品を含め、この業界が学生時代から好きで、地方にいながら毎年欠かさず東京のイベント・展示会などに足を運んでいた。そこで出展していた当社を知り、どうしてもその業界での仕事に携わりたいという思いが強かったため、自分で当社に電話し、面接を志願した」という社員の声だった。

この事例を基に、A社が毎年数回出展しているイベントや展示会のブースで、自社商品のPRと合わせてリクルーティングのPRも同時に行うことを決めた。導入の背景として、A社には先述した新入社員のように業界自体に魅力を感じて入社した社員が多かったことが挙げられる。

これは、A社が「求める人材像」として描いていた姿とも合致する。業界好きの人が集まるイベントがあるのだから、そこで採用活動をするのは至極当然のことで、効率的であるという結論に至ったのだ。

この方法を実施する上でのポイントは、まだ就職意思が特段ない人々(潜在的ニーズ)にアプローチできることである。すでに就職したいという意思がある人たち(顕在的ニーズ)を対象にしているのであれば、一般的な就活イベントや業界主催の合同説明会などにブースを出展する、もしくは採用ポータルサイトへ登録するという発想になるものだが、ニーズが顕在しているマーケットでは採用競争が激化するのは当然である。

おそらく中小企業のほとんどは、このマーケットで必死に差別化を図ろうとしており、そうすればするほど費用対効果が出ず、苦労しているのではないだろうか。

そこで、視点を顕在層から潜在層にシフトすることで、リクルート活動が始まる前からアプローチする。ライバルがいない・やらない市場で自社をPRすることができるため、顕在層を対象とした採用競争を優位に進めることができるのだ。

採用活動をマーケティング思考で行う

今回紹介した3つの視点に共通することは、「マーケティング思考」「営業視点での発想」だ。例えば、2つ目に挙げた退職者リストは、営業活動に置き換えれば、「失注リスト」や「過去の取引先リスト」になる。おそらく、失注リストや過去の取引先リストを持っていない、もしくは持っていてもアプローチしていない企業はほとんどないだろう。

このように考えると、採用活動における「退職者リスト」へのアプローチは必然的な流れである。企業が大事にしている「顧客リスト」と同じように退職者リストも大切にしてほしい。

今後も採用難が続く中で、中堅・中小企業が優位性を築くためには、人事部門をマーケティング思考や営業視点で活動できる部門に発展させる必要がある。社内の限られたリソースの中で行う採用活動は、人事部門だけではなく、トップも含め全社横断的な活動として捉えてほしい。

決して、就職ポータルサイトのエントリー数だけに一喜一憂したり、大企業の引き立て役のような誰も来ない採用ブースを出すことだけに満足してはいけない。

今回紹介した3つの施策を参考にしながら、「リクルーターはどこにいるのか」「何をしている時に接点が持てるのか」「どのようなタイミングで入社意欲が高まるのか」といったマーケティング思考を人事に取り入れてみてほしい。

まずはできることから1つずつ実行することだ。これを機会に、読者の皆さまが採用活動への新たな一歩を踏み出せることを祈っている。

経営コンサルティング本部 チーフコンサルタント 御堂 裕一
  • タナベ経営
  • 経営コンサルティング本部 チーフコンサルタント
  • 御堂 裕一
  • Yuichi Midoh
  • タナベ経営入社後、人材育成部門にて企画から集客・運営業務まで一貫して従事。個性あるメンバーを育て、リーダーとして活躍。現在はコンサルタントとして、企業のビジョン・戦略構築から組織づくり、強みを生かす人事制度・人材育成システム構築を支援している。現場に入り込み、クライアントとのチーム編成を通じて、成果につなげていくことを得意とする。
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    担当:タナベコンサルティング 戦略総合研究所