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海外マーケットへの進出・テクノロジーの急速な進化・サステナビリティへの関心の高まり等、変化が激しい時代を迎え、企業競争力を左右するバリューチェーンの変革は避けて通れぬものとなりました。過去に構築したバリューチェーンの最適化には、バリューチェーンを再評価し、①イノベーション(変化)、②マルチ化(増やす)、③トランスフォーメーション(組み換え)の3つの観点で付加価値を再定義し、パーパスから事業戦略・組織体制・経営システム・人的資本に至るまで一貫性のある設計を行うことが重要です。
バリューチェーンの基本概念と重要性
(1)バリューチェーンの基本概念
バリューチェーンとは経営学者マイケル・ポーターが提唱した概念です。バリューチェーンを直訳すると「価値連鎖」であり、「企業における各事業活動を価値創造のための一連の流れとして捉える考え方」のことを言います。
「バリューチェーン」と似た言葉で「サプライチェーン」がありますが、「バリューチェーン」は他社との「差別化」の視点を重視するものです。一方、「サプライチェーン」は「効率化」の視点を重視するものという違いがあります。
(2)バリューチェーンの重要性
日本企業はバブル崩壊以降、いかにしてコストをかけずに製品・サービスを提供するかという視点でマーケットと向き合ってきました。そのため、サプライチェーンの効率化や合理化が重視されてきました。しかし、昨今の世界的なインフレの影響で多くの企業が値上げを余儀なくされており、現行のビジネスモデルのまま事業展開することは、収益力を下げるだけでなく競争力阻害の要因になりかねません。
そのような変化の中、改めて自社の付加価値を見直すバリューチェーンの変革が注目されています。自社のバリューチェーンを再評価し、付加価値の源泉に資源(ヒト・モノ・カネ)を集中投下させ、新たなビジネスモデルを展開していくことが求められています。

バリューチェーンの構成要素
バリューチェーンの構成要素は大きく分けて「主活動」と「支援活動」の2つに分類でき、さらに業種によって多少の違いがあるものの以下に分類できます。また、各機能を連動させることで企業が提供する価値の源泉を創出します。
【主活動】
① 購買物流:原材料の受け取り、保管、在庫管理など
② 製造:原材料を製品・サービスに変換するプロセス
③ 出荷物流:製品の出荷、配送、チャネル管理
④ 販売とマーケティング:市場への訴求、販促活動
⑤ サービス:納品後の顧客サポート、メンテンスなど
【支援活動】
① 全般管理:経営管理、財務、人事の全般
② 人事・労務管理:採用、研修、評価
③ 技術開発:研究開発、プロセス改善
④ 調達:資材・外部サービスの購買活動
一般的なバリューチェーン概念図
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バリューチェーン分析の実施手順
バリューチェーン分析とは、企業の強みや課題をバリューチェーンの要素ごとに分析する手法のことです。ここでは、ステップごとにその実施手順を説明します。
(1)自社のバリューチェーンを定義する
自社の事業に関連するすべての活動を、工程や機能ごとに分類します。生産から販売に至る一連のプロセスの中で、事業の中心的な役割を果たす活動を「主活動」とし、それを補助・支援する役割を担う活動を「支援活動」として整理します。
(2)各活動のコストを把握する
コストを一覧化することで、削減の可能性がある領域や、無駄な支出が生じている部分を特定します。また、各活動間のつながりや影響も把握することができます。
(3)自社の強みと弱みを分析する
競合他社との比較を通じて、「主活動」と「支援活動」における各プロセスでの自社の優位性や課題を明らかにします。

バリューチェーン再構築の方法
自社にとって最適なバリューチェーンは何か?最適なバリューチェーンを構築するためには、企業におけるパーパス(企業の存在意義)を出発点とし、事業戦略(ビジネスモデル)、組織体制、経営システム、そして人的資本に至るまで、一貫性のある設計を行うことが重要です。しかしながら、変化が激しく先行き不透明な時代において、バリューチェーンを変えていく、つまり「再定義」することが重要となります。バリューチェーンの再定義には3つの方法があります。
(1)変化させる(イノベーション)
環境変化や顧客ニーズの変化に応じて、既存のバリューチェーンに新たな価値を追加・再編します。単一企業で達成しづらい場合は、産業横断で連携します。アライアンスなど自社以外との「共創」で価値を創出し、競争力の維持と強化を行います。
(2)増やす(マルチ)
コアバリューを軸としてバリューチェーンの領域を「横方向と縦方向」に拡大し、異なるセグメントや異業種市場への進出を図る方法です。価値の接点を増やし、成長機会を最大化することを目的としており、横方向=水平展開としては既存製品の地域や顧客層の拡大、縦方向=垂直展開としてはサプライチェーン上流・下流の取り込みなどが挙げられます。
(3)組み替える(トランスフォーメンション)
従来の枠を超えた新たなビジネスモデルをゼロベースで設計・構築し、バリューチェーン全体を再構築する方法です。次の時代に適応できる組織・モデルを生み出すことを目的とします。「バリューチェーンの変革による新たなビジネスモデル開発」「機能分解によるバリューチェーンの再設計」などが挙げられます。
バリューチェーン強化の事例
PCやその周辺機器の製造やパソコンショップの全国展開をする会社をグループ傘下に持つM社は、PC企画・開発から部品調達、製造、販売、アフターサービスまで一貫したバリューチェーンを国内で構築しています。通常モデルに加えて、ゲーム向けやクリエイター向け、ビジネス向けなど用途に特化したPCを、ユーザーごとにカスタマイズするBTO(受注生産)で提供するビジネスモデルを展開しています。
同社のバリューチェーンの強みは、「情報収集力」、「機動力」、「安心感の提供」、「拡張性」、「開発力」の5つです。この中の情報収集力において、調達先であるパーツメーカや代理店等からは「世界最先端の製品情報や市場トレンド」を、全国の店舗と24時間365日体制のコールセンターからは「消費者ニーズ」を収集しています。また、グループ経営による一気通貫のバリューチェーンで機動的な対応を可能にしている他、国産・自社サポートセンターによる安心感、ベンチャー企業とのアライアンスや共同開発などの自由度が高い拡張性を有しています。
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M社のwebサイトを基にタナベコンサルティング 加工、作成
さいごに
近年、企業の競争力を左右する「バリューチェーン」の変革は企業にとって避けては通れない道となっています。その背景には、海外マーケットへの進出、テクノロジーの急速な進化、そしてサステナビリティへの関心の高まりなどがあります。
中でも注目すべきは、テクノロジーの急速な進化であり、デジタル技術の導入がバリューチェーンを大きく変える可能性があります。IoT(internet of thing:様々なモノがインターネットとつながり相互通信・情報交換を行う仕組み)の一般化や生成AIをはじめとした先端技術やブロックチェーン技術などを活用することで、需給予測の高度化やリアルタイムでのトレーサビリティ管理が可能になり、バリューチェーン全体の「見える化」のみならず「高度化」も実現します。
そして今後ますます求められるのが、サスティナブル(持続可能な)な価値の創出です。再生可能エネルギーの導入やエシカル調達など、環境・社会への配慮をしたバリューチェーン構築が求められる時代に突入しており、効率性だけでなく「柔軟性」と「社会的責任」を兼ね備えた「次世代型バリューチェーン」への進化が、企業の未来を左右するカギとなるでしょう。
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