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はじめに
グローバル市場において企業が成長戦略を描く際、海外進出は極めて重要なテーマとなっています。各国の経済状況、文化、法制度、消費者の嗜好などが複雑に絡み合う環境下で、現地に適応したマーケティング施策が不可欠です。
本コラムでは、海外マーケティングの役割と主要な手法について解説するとともに、テストマーケティングにおける具体的なアプローチとして、デジタルマーケティングとプレスリリースの活用方法、海外向けクラウドファンディングを紹介し、成功へのポイントと失敗例から得られる教訓について整理していきます。
海外マーケティングの全体像とは
海外市場は、まずマクロ環境とミクロ環境という二つの視点で理解する必要があります。マクロ環境では、政治、経済、法制度、文化、宗教、習慣などが市場全体の方向性に大きく影響します。一方、ミクロ環境では、現地の消費者行動やライフスタイル、購買パターンが焦点となり、細かな市場特性を把握するための重要な要素となります。企業は、ターゲット国ごとに統計データ、現地メディアの報道、SNSの口コミ、業界レポートなど、複数の情報源を活用して現地実情を正確に把握し、戦略の基盤を固める必要があります。
また、現地情報の収集と分析を通して、日本市場とは異なる消費者の価値観やニーズを理解することが、現地に根ざしたマーケティング戦略の出発点となります。これにより、企業は無理なく現地市場に適応した施策を展開し、効果的な進出を実現するための準備を整えることができます。
簡易的な分析方法として、PEST分析を紹介します。PEST分析は包括的に現地の環境と自社の業界特性を洗い出すことに有効です。
【PEST分析とは】
PEST分析は、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの観点から外部環境を評価する手法であり、企業が直面するマクロ環境の変化を体系的に整理するためのフレームワークです。この手法により、現地市場におけるリスクや機会を明確に把握することが可能となり、戦略の策定に役立ちます。
【PEST分析具体例】
例えば、政治的要因では、現地政府の政策変更、規制緩和または強化、貿易協定などが挙げられ、これらは企業活動に直接的な影響を与えます。経済的要因においては、為替レートの変動、経済成長率、消費者の購買力、インフレ率などが分析対象となります。社会的要因では、現地の文化、人口動態、ライフスタイル、価値観、教育水準が重要視され、企業が市場に適合した商品・サービスを提供するための指針となります。そして、技術的要因としては、現地の技術革新のスピード、インフラの整備状況、デジタル化の進展が挙げられ、これらは企業のオペレーションやマーケティング施策の実行環境に大きな影響を及ぼします。
このように、PEST分析を活用することで、海外マーケティングの全体像をより具体的に捉え、現地の環境に即した戦略立案の土台を築くことができるのです。
海外マーケティングの役割
海外マーケティングは、企業ブランドを現地で確立し、消費者との信頼関係を構築するための重要なプロセスです。日本企業が海外進出を図る際、まずは現地でのブランド認知度を高めることが優先課題となります。日本での実績や技術力が必ずしもそのまま評価されるとは限らず、現地消費者に企業の魅力を伝えるためのコミュニケーションが必要です。広告、プレスリリース、SNS、イベントなどの手段を用いて、ブランドの価値や信頼性をしっかりと伝える努力が求められます。
ここで、コトラーの提唱する5A(認知、訴求、調査、行動、推奨)を参考にすることで、各段階における戦略を体系的に検討することが可能となります。特に認知と訴求のフェーズにおいては、効果的な情報発信や現地メディアの活用が、消費者の購買意欲を引き出すための鍵となります。
現地市場での初動をいかに成功させるかが、今後の展開を左右する重要なポイントであることを理解しておく必要があります。
コトラーの5Aとは
コトラーの5Aは、消費者が商品やサービスを知ってから実際に購買し、さらには他者に推奨するまでのプロセスを体系的に示したモデルです。このモデルでは、次の5つのステージに分けて消費者の行動を考えます。
Aware(認知)
ターゲットが商品やブランドの存在を知る段階です。広告やSNS、口コミ、マスメディアなど、BtoBなら展示会や現地向けイベントを通じて認知度を上げていきます。
Appeal(訴求・興味)
認知した後、消費者が商品に対して興味を持ち、魅力を感じる段階です。ここでは、商品の価値や特徴が消費者の感情や好奇心を引き出すことが重要です。
Ask(調査)
興味を持った消費者が、さらに詳細な情報を求めて調査を始める段階です。ローカル言語化された公式サイトや商品ランディングページ、SNSや口コミやレビューなどから情報を集め、比較検討を行います。
Act(行動)
十分な情報を得た消費者が、実際に商品を購入する段階です。BtoBであれば見積もり依頼もここにあたります。ここでは、現地ならではの購入プロセスや購入後のサポートが、購買決定に大きな影響を与えるため現地の習慣を知っておくことも重要です。
Advocate(推奨)
購入後、満足度が高い場合、消費者が他者にその商品やサービスを推奨する段階です。リピート購入や口コミ、SNS、知り合いへの推奨を通じて、製品・ブランドの信頼性を高めさらなる認知度向上と購買につなげていきます。
この5Aモデルは各段階で適切なマーケティング施策を展開するための有効なフレームワークとして活用されます。
海外テストマーケティングについて
テストをしないでいきなり海外に支社や営業所を作り、販売に乗り出すことはないと思いますが、テストマーケティングの具体的な手法について知らない方は多いのではないでしょうか?
すべてをリサーチ会社にお任せするとコストも高くなりがちなので、まずは自社で出来ることからスタートさせていきましょう。以下に主要な手法とその特徴について解説いたします。
【デジタルマーケティングによるテスト】
低コストかつ広範囲にリーチできるデジタルマーケティングは、海外進出時のテストに最適です。SNS広告、リスティング広告、LPの制作、ローカル言語サイトの最適化など、複数のチャネルを段階的にテストしていくことで、現地のターゲットのニーズや課題が見えてきます。これにより、「撤退基準」「引き際」を見極めることもできます。デジタルマーケティング上の反応があまりに悪いと、本格販売は検討から外すなど決断するのが良いでしょう。では具体的に解説していきます。
検索エンジンマーケティング(SEM)
「検索=ニーズやウォンツ」と考えて問題ありません。つまりGoogleの検索キーワードは、現地のニーズやウォンツの集合体であり、「求めていること」そのものなのです。Googleでは「キーワードプランナー」という無料ツールを使うことができます。またSimilarWebなども無料で出来ることは限られますが、対象Webサイトにどのようなキーワードで流入してきているか調べることができます。
Google広告は1万円からでも出稿できるため、キーワードプランナーで、ニーズの高いキーワードを10個以上抽出して、自社製品の広告を簡易的に作成して出稿してみましょう。現在は、AIが発達しているため、英語はもちろん、他の言語のコピーについても簡単に作成できます。
あとは、各キーワードに対してどのような反応があったのか?(表示回数、クリック数、クリック率)などを見れば、ターゲットのニーズを数値で検証することが可能です。
海外向けプレスリリース
企業が新たな製品やサービス、あるいは進出の意向を現地に伝える際、プレスリリースは極めて効果的な手法です。現地メディアに取り上げられることで、現地でのブランド認知度や信頼性が飛躍的に向上します。
このようにプレスリリースは報道機関などメディアに対して実施するわけですが、メディアの役割は「(対象メディアの)ターゲットに有益な情報であれば、紙面、Web、番組などで報じる」ことが前提です。
つまり、プレスリリースをメディアに届けて報道が獲得できれば、それはその国のターゲットにも有益な情報だとメディアも判断してくれた、と言えるわけです。
このような手法の応用編ですが、某外資系大手IT企業が、サービス開発の前段階で「新サービス」としてプレスリリースを配信し、掲載してくれるメディアがあれば、「ニーズがある」と判断して、実際に開発に着手する。つまりは、掲載されなければ「ニーズがない」として開発しない、というエピソードもあるほどです。
現在は、Global PR Wireなど安価で海外に向けてプレスリリース配信できるサービスもあるため、気軽にプレスリリースを制作して海外メディアに向けて配信していきましょう。
海外クラウドファンディングでのテストマーケティング
海外のクラウドファンディングプラットフォームは、多くのファンが存在し、大きな市場となっています。BtoCには限られますが、製品や実行したいイベントなどがある場合、クラウドファンディングを活用してニーズ調査を実施してみましょう。もちろん、資金調達も出来るので、うまく行けばその利益を次の本格販売に備えることも出来ます。例え利益が出なくてもテストマーケティング費を少しでも回収出来たと考えれば挑戦してもいいのではないでしょうか。
クラウドファンディングは、誕生して10年以上経過し、世界中から日々出品されており競争も激しい環境ですが、一般販売と比較すると、良いシミュレーションになるはずです。クラウドファンディングの限られたコミュニティーの中でしっかりとプロモーションし、認知を獲得していきましょう。
【それぞれのテストマーケティングの連携効果】
デジタルマーケティングとプレスリリース、海外向けクラウドファンディングの活用は、単独で活用しても効果的ですが、連携させることで相乗効果を発揮します。例えば、BtoC商材の場合、KickStarterなど大手の海外クラウドファンディングに出品し、デジタルマーケティングとプレスリリースを活用して、タッチポイントを増加させ認知や興味獲得につなげる、といった具合です。
そこで得たリアルタイムのデータをもとに、次の施策へと迅速にフィードバックする体制を整えることが、海外進出の成功を左右する重要なポイントとなります。
海外マーケティングでの失敗例と教訓
海外進出におけるマーケティングでは、成功事例だけでなく失敗例からも多くの教訓が得られます。
【日本常識の過信】
日本人はなぜか「Japan Brand」「Made in Japan」はすごいと思いがちです。しかし、それは昔の話。今は「日本だけ特別なブランド」という概念は捨て去りましょう。
また、日本市場での成功をそのまま海外市場に適用することは、必ずしも良いとは言えません。日本企業が自社ブランドの評価を過信し、現地での認知がゼロからのスタートを十分に見積もらない場合、初期段階で大きな壁に直面します。現地消費者に対して信頼性を獲得するためには、地道なブランド構築と継続的なコミュニケーションが必要です。
【文化・習慣の無視】
現地の言語、文化、宗教、生活習慣などの違いを軽視した施策は、消費者とのミスマッチを招きます。適切なローカライズがなされなければ、広告やプロモーションが現地で受け入れられず、期待する効果が得られません。現地専門家やパートナー企業と連携し、文化や習慣に合わせた戦略の策定が不可欠です。
【計画不足による予算超過】
海外進出の初期投資は、予想以上に膨らみます。特に円安時代の今は「海外マーケティング」は想定している1.5倍、国によっては3倍以上と考えても問題ありません。特にアメリカでのマーケティングにおいては、想定以上の金額の高さに驚くでしょう。
テストマーケティングを通じて実際の費用感を把握し、柔軟な予算調整策を講じることが成功への鍵となります。
海外マーケティング成功のポイント
海外マーケティングにおいて成功を収めるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
【迅速なテストマーケティングと柔軟な戦略】
海外市場は常に変動しているため、テストマーケティングの結果を迅速に反映させ、戦略を柔軟に見直す体制が必要です。予想外のコスト発生や市場環境の変化に対応するため、常に現地パートナーとの情報共有を行いながら、施策の改善を図ります。
【AIを活用した市場調査と情報収集】
ターゲット国のマクロ・ミクロ環境の詳細な分析が基盤となります。統計データや現地レポート、SNSの口コミ情報など、多角的な情報源から正確な市場実情を把握することが、戦略の出発点となりますが、現代はAIを活用したら大まかな市場は把握できるはずです。必要以上に調査に時間とコストはかけないようにしましょう。
ただし、AIの調査はあくまでWeb情報の集合体です。現地にいかなければわからないこともたくさんあるので過信することは禁物です。
【現地パートナーとの協働】
現地企業のパートナー探しは重要な業務です。販売代理店や広告代理店、コンサルティング会社、また専門家たちは他社も取り扱っていることが多いので、多くの情報をもっています。お金を支払っているから下請け扱いしないで、パートナーとして信頼性を確保し、大きな情報収集に役立てていきましょう。双方の強みを活かした共同戦略を展開することで、効率的なブランド認知と市場開拓が実現できるでしょう。
まとめ
海外マーケティングは、単なる調査や宣伝活動に留まらず、企業全体の成長戦略の一環として不可欠な施策です。ターゲット国のマクロ・ミクロ環境の詳細な分析を基に、現地市場に適応した戦略を策定し、デジタルマーケティングやプレスリリース、展示会やクラウドファンディングといった多角的な手法を統合して実施することが成功への鍵となります。
企業がグローバル市場で持続的に成長を遂げるためには、現地情報のスピーディーな収集と柔軟な対応、さらには現地パートナーとの協働が欠かせません。市場の多様性や文化の違いといった課題に対して、計画的な投資とリスク管理を徹底し、常に最新のマーケティング手法を取り入れることで、海外進出における成功が実現されるのです。
まずは、手元で出来る調査と施策を整理して第一歩を踏み出してみましょう。
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