COLUMN
コラム
クロスボーダーM&A(海外M&A)とは、Cross Border(Cross:越える、Border:国境)という字の通り、「国境を越えて行うM&A」のことです。
詳細:「クロスボーダーM&Aとは?メリットや手順、成功のポイントを解説」
クロスボーダーM&A実施時に懸念される注意点とは?
クロスボーダーM&Aは、国内M&Aと同様のリスクも発生し得るものの、国内M&Aとは異なったクロスボーダーM&A特殊な問題が発生することもあります。本項ではクロスボーダーM&Aを検討・実施する際に留意すべきリスク・注意点を解説します。
注意点1:カントリーリスク
カントリーリスクとは、相手の国や地域において、政治・経済の状況の変化によって収益が変動して企業が損害を受けることです。国はつぶれないという思い込みは危険であり、世界では経済危機に陥っている国もあります。
また、情勢の変化により証券市場や為替市場に混乱が生じた際は投資資産の価値が変動するのみならず、場合によっては外貨債務の返済や投資回収が困難になる恐れもあります。なお、外貨送金が停止されると、売買代金、貸付債権、配当金等の支払いができなくなることもあります。
カントリーリスクは、M&A成立を阻む可能性があるのみならず、M&A実行後の事業運営に大きな損害を及ぼす恐れもあります。カントリーリスクの予測は非常に困難ですが、相手の国・地域の情勢を日々確認して、万一に備えておくことが重要です。
注意点2:文化や考え方の相違
海外と日本では文化や考え方が異なるため、日本国内で成功しているからといって、同様の方法をそのまま適用しても好結果が得られることは少ないと言われています。文化や価値観の違いから生じた誤解を発端に事件に発展するケースもあるほどです。
宗教によっては食習慣等も異なります。例えば、イスラム教では豚・アルコールの摂取が宗教上禁止されている等といった「ハラル」と言われる規則があります。そのため、イスラム教圏内に進出する際は「ハラル」で禁止されている食材を使用していないことを証明する「ハラル認証」と言う認証の習得が必要となる等、宗教的な理由で商品・サービスが受け入れられない可能性もある点に留意が必要です。
また、比較的時間を守り真面目な勤務をする日本人とは異なり、特に新興国等では、遅刻やサボりが当然のように行われることもあります。
そのため、日本の慣習を押し付けるのではなく、現地の慣習に理解を示しつつ共に事業運営を行う相手に対するリスペクトを持つことが重要です。
注意点3:労働・人的問題リスク
M&A自体は実行できた場合でも、現地の従業員との間に誤解が生じた場合や、労働組合に反対された場合は、適切な連携は取れません。クロスボーダーM&Aの失敗原因として多く挙げられるのが、雇用・処遇に対する考え方の相違等から労働組合が中心となり統合に反対しM&A実行後の統合が上手くいかないケースです。海外企業が日本企業を買収し、経営戦略の一環として思い切ったリストラを行おうとした時に、「人員整理の必要性・解雇回避努力・解雇者選定の妥当性・手続きの妥当性」等の厳しい条件を満たすことができず、実行できないケースも発生し得ます。
また、現地の従業員は会社に対するロイヤリティ(忠誠心)が低いケースもあり、より高い給料を提示されるとすぐに職場を変える「ジョブホッピング」等が頻繁に発生する国もあります。
なお、両社でシナジー効果を創出するためにも、従業員同士の連携は必要不可欠です。そのことからも、人的要因はクロスボーダーM&Aの成功に関わるポイントになり得るため、リスク観点のみならずM&A成功には重要な事項です。
注意点4:言語の相違
クロスボーダーM&Aには海外企業が関わるため、海外展開していない日本の会社にとっては言語の相違が成功の壁になることもあります。
国際的なビジネスシーンでは、基本的には英語が用いられています。通訳を起用しM&Aを進めることも可能ですが、英語力が乏しいと予期せぬところで行き違いが生じるリスクがあります。文化や考え方の相違を理解し現地文化に合わせようとしても、言葉の違いから細かなニュアンスが伝わらず誤解が生じた例もあります。
また、M&A実行後に協働で事業運営する際も、言語が通じないことでスムーズな事業運営に支障をきたす可能性もあるため、クロスボーダーM&Aを実施する場合は、ある程度の外国語への対応は必須といえます。
注意点5:法律リスク
クロスボーダーM&Aを実行する場合は、一般的には対象会社が属する現地の法律による手続きに沿って取引されます。当事者同士の交渉がスムーズに進み最終契約が締結された場合でも、法律で買収が規制されていればM&Aは実行できません。
国により外資規制で買収が禁止されている業種もあります。また、買収自体は許可されている国や業種でも、規制当局への申請や認可が必要な場合や、公開買付(TOB)の規制がある場合もあり事前の把握が大切です。
また、M&A実行後に組織再編を含めたPMIを行う際にも、法律が整っていないなどの問題により、PMIで想定以上の時間・費用が生じるケースもあります。
注意点6:訴訟リスク
国・地域によって、訴訟に対する考え方や意識が異なることもリスクとして考えられます。
日本では訴訟に発展するケース自体が少なく、請求される賠償金額も比較的少ないといわれています。一方で、訴訟に発展しやすい国や地域もあり、例えば「訴訟大国」と揶揄されるアメリカは日本と比べると遥かに訴訟トラブルが頻繁に発生しています。アメリカでは賠償請求も認められやすいことのみならず、賠償金も高額になりやすいため訴訟時の負担が大きくなりやすい傾向にあります。
まずは、進出予定地域・国が訴訟に発展しやすいかを確認した上で、入念なデューデリジェンスを行い、対象会社が問題を抱えていないか調査することが必要です。
注意点7:環境リスク
環境に関する基準や規制も、国・地域によって大きく異なります。
日本より環境汚染に厳しい国も多くあり、厳しい規制がある国や地域では、土壌汚染や水質汚染等の規制に反すると罰金が科される場合や賠償金の支払いを命じられることもあります。例えばフランスでは、「廃棄禁止及びサーキュラーエコノミーに関する法律」により食品以外の売れ残りを原則的に廃棄できないため、廃棄すると約200万円の罰金が科されます。
また、事業運営により土壌や水質の汚染が発生すると、賠償金が数億円規模になるケースもあります。思わぬ負担が発生しないように、必要に応じて環境デューデリジェンスを実施することで事前に現地の法律や基準、規制を含めた環境リスクを把握し対策することが必要です。
注意点8:為替リスク
現地法人の業績が順調に成長したとしても、為替レートの影響で日本から見ると減収になる可能性があります。
例えば、インドネシアへ進出するために現地の企業を買収したケースで解説します。
インドネシアの通貨ルピアは、2023年2月20日時点で1ルピア=0.0089円なため、100万ルピアを売り上げると、日本円では8,900円になります。今後為替レートが変わり、仮に1ルピア=0.0050円になると、100万ルピアの売上は日本円で5,000円です。
現地では同じ100万ルピアを売り上げているものの、日本円に換算すると大きく金額が変わります。
クロスボーダーM&Aを検討する際は、為替レートの仕組みにより、現地での業績が好調でも、日本での利益に寄与しない可能性がある点に留意が必要です。
注意点9:リスクの予測困難性
日本企業同士のM&Aにおいても、当初の予定通りにM&Aが成功しないことがあります。それがクロスボーダーM&Aでの外国企業との買収交渉ともなれば、国内M&Aでは生じ得なかった予測困難なリスクが発生する可能性もあります。
例えば、現地を視察したとしても、該当国特有の政治・経済のリスクや、日本との文化・国民性の相違に起因するリスク、気候が異なることによるリスクや、スタッフの管理不足等の人的リスクなど、様々なリスクがあります。
クロスボーダーM&Aを検討・実行する際は、想定外のリスクが起こり得る可能性にも憂慮するとともに、相手企業と十分な協議を重ねることが肝要です。