COLUMN
コラム
閉じる
VUCAの時代と言われ始めて久しいですが、今年に入り急激な円安が訪れています。
このような環境下、海外展開により利益を確保している企業も散見されます。勿論、製造業では日本で製造し輸出することで価格競争力を回復した企業もありますが、海外で作り、売るという海外事業を創ったことで業績を安定させる企業もみられます。本稿では、こうした時代における海外事業の重要性とその事業拡大の方策について述べてみたいと思います。
円安時代になぜ海外展開は有利なのか?
2024年に入り為替相場は円安水準で推移しており、アメリカ連邦準備理事会(FRB)が利上げを開始した2022年初めは110円台だったドル円相場は大きく円安となり、一時は1ドル160円まで円安が進行するなど、不安定な状態が続いています。
加速する円安によって、国内市場向けのビジネスにおいては、海外で物を作り、国内で売ることは不利に働きますが、海外市場に目を向けると円安はメリットに置き換わります。
円安が続いている今こそ海外展開に有利に働く理由をいくつか挙げてみます。
1. 輸出競争力の向上
円安は日本円の価値が下がることを意味し、日本からの輸出品が相対的に安くなります。これにより、日本製品の価格競争力が高まり、海外市場でのシェア拡大が期待できます。特に自動車や電子機器などの分野では、価格競争力が売上に直結する為、円安は大きな追い風になります。
2.国内生産コストが相対的に安くなる
海外市場で割安になるのは、商品価格だけでなく、海外市場からみた日本国内の生産コストが円安で相対的に安くなるため、日本の労働力を利用した商品生産やビジネスモデルは、円安の状況では有利に働きます。
3. 為替の影響による業績の引き上げ
円安は日本企業の海外売上の円換算額を増加させるため、海外で得た収益を日本円に戻す際、その額は増加します。これは、企業の財務諸表上の売上高や利益を押し上げ、株主や投資家などのステークホルダーに対して企業の魅力を高める要因となります。
「ユニクロ」の海外展開にみる海外事業の重要性
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、2022年10月に決算を発表し、円安と海外事業の好調を背景とした、過去最高の最終利益となりました。海外では、欧米や東南アジアでコロナ禍からの回復によって20%増加したことが功を奏しました。ユニクロの海外進出は2001年にロンドンに海外店舗を初出店したところからスタートし、現在では国内店舗数の約2倍の海外店舗を運営するに至っています。(同社決算説明会資料より)
柳井会長兼社長は、「北米および欧州で事業を継続的に拡大できる基盤ができたことで、初めて真のグローバルプレーヤー、本当の意味でのグローバルブランドになれる条件が整ったと考えております」と、グローバルプレーヤーとして、スタートラインにやっと立ったとの認識を示されています。
日本の人口は戦後増加を続け、1967年に1億人を突破し2008年に1億2808万人となったのをピークに人口減少が始まりました。2050年頃には1億人を下回る人口となることが予想されており、国内市場で一定のポジションを確立した企業の海外展開は最早必須の課題であるといえます。
ファーストリテイリングのような企業でも最初の海外出店から20年を経てようやくグローバルプレーヤーとしてのスタートラインに立ったといえる状況になりました。しかしながら、その間に周到な準備をしてそれでも失敗をし、失敗を通じた学びからの多くの軌道修正を通じて上記の店舗数にまで拡大することができたのです。
海外進出には入念な事前調査を
文化習慣の違いを乗り越えて、市場を拡大する、海外への事業展開は国内とは事情が異なるということはユニクロの例から見ても明らかです。海外進出、海外展開をするためには、その実行の相当前の段階から事前の下調べを十分に行うことが重要です。
社長の海外視察を遊びと揶揄されることもありますが、リーダーが先を見据えて行動することは否定されるべきことではありません。見聞を広め、未来を予測することはトップの務めでもあります。言葉の壁を自ら経験することも重要ですし、同業日系企業の進出状況を目で見て、経験談を伺うことは今後の計画の構想に十分に役に立ちます。10年先を見据えたときに、環境はどれだけ変化しているか、海外事業が自社にとってどういう意味合いを持つかを考えながら視察を繰り返すことで、進出の意思決定にいずれ役立つ時が来るでしょう。
具体的に海外進出を検討する際はフィージビリティスタディやFS調査と呼ばれる事前調査を十分に行ってから進めていくことが重要です。海外投資はそれなりの金額がかかり、法規制も異なる環境下であるため、リスクも高く国内に比べコントロールすることが困難です。取引関係だけではなく、規制や税務、労務など広範な情報を事前に把握したうえで進めていくことが望ましいです。進出を検討し始めたら、一人ではなく複数名で検討を進めていくことも重要です。プロジェクトチームを作って、こうした情報を集めながら計画を作っていくことで、海外事業を複数で管理できるような体制が整います。海外事業は一人の力で実行することは困難ですし、進出後も現地にお任せでは駄目で、本社と現地の円滑なコミュニケーションがあってその後の成長があります。そのためには事前準備の段階から、ピッチャーとキャッチャーの関係のように現地と本社の両方の核となる人材にプロジェクトに参画してもらい、一緒に理解を深めてもらうとよいでしょう。
自社ですべての調査を進めることが難しければ、コンサルタントを起用することも一考に値します。コンサルタントは、法律や会計の実務を担うだけではなく、クライアントの課題やビジネス上の論点も一緒に検討し、スケジュールを立てて伴走してくれるインストラクターのような役割を果たします。海外展開を検討する際はまず何から始めて、何をゴールにするかといった「海外展開のロードマップ(青写真)」を予め検討して、スケジュールに従ってタスクを管理して実行を支援する役割を担います。経験がなければ、何をやらなければならず、それにどれくらいの時間がかかるかを見積もることは難しいので、経験者の声を聴きながら進めていくことが有効です。
時代の変化を見据えて一歩先を考える
昨今の為替レートの急激な変動は、海外ビジネスだけではなく国内での調達や物流などあらゆる経済活動へのインパクトをもたらす可能性があります。また中長期で見たときに、円高、円安どちらに進んでいくか専門家でも意見も分かれるところです。予測できないことをどちらかに賭けることは危険ですし、あらゆる環境の変化に耐えられる事業構想力を持つことが重要です。これまでの時代を振り返ると、アジア通貨危機、ドットコムバブルの崩壊、エンロン事件、リーマンショックなどいくつかの時代の転換点でグローバルな視点で時代を乗り切り成長した会社もたくさんあります。目先の経済環境を乗り切ることは重要ですが、その先にある成長のチャンスをどう見つけるかが経営のカギとなります。
日本企業にとって海外事業は成長のためのドライバーです。今月(2022年10月)より、入国制限の緩和がされ、海外渡航も元に戻りつつあります。2020年以降コロナの影響を受け、海外事業や海外展開に躊躇している企業も多かったのではないかと推察します。進出だけではなく、撤退や再編も含め先を見据えた意思決定をするためにも、再び日本の本社が海外に目を向け、時代の先を見据えた経営をするため、経営者には積極的に海外視察に出かけてほしいと考えます。