FCC Management Letter(FCCマネジメントレター) (サンプル)

生活雑貨の製造小売業(SPA)-「無印良品」という新しいビジネスモデルで、世界的なオンリーワンポジションを築いた良品計画。「変化と成長」の立役者である松井忠三氏が手掛けた「仕組みの導入による組織風土の革新」に迫る。
日本文化の原点から生まれた商品コンセプト
若松 良品計画は、製造小売業(SPA)という新しいビジネスモデルで成功されている企業です。しかし、現在の成功までの道のりで、大きな危機も迎えました。そんな大変な時期に社長に就任された松井さんは、危機を乗り越えて見事に同社を復活させた。 その松井さんに「無印良品」という新しいビジネスモデルがどのように生まれ、事業を展開し、低速したのちにV字復活を遂げたのか、「変化と成長」のいきさつをお伺いしたいと思います。
松井 無印良品の成功要因は5つに集約されます。1つ目は「コンセプト形成」です。 まず無印良品が生まれた背景から説明しましょう。私が西友に入社した1973年は、流通業界の盟主が百貨店からGMSという総合スーパーマーケットに代わった年でした。しかし、GMSはその後、下り坂の時代を迎えます。私も経験しましたが、予算を達成できないのに人件費は増えるばかり、利益は目減りするばかりで、そこから脱却を図ろうとトライ&エラーを繰り返していました。そんな状況の中、1980年に生まれたのがプライベートブランド(PB)の無印良品でした。
若松 当時は、無印良品だけでなく各流通グループで複数のPBが誕生していましたね。
松井 そうなんです。しかし、生き残ったのは無印良品だけでした。
若松 その要因の本質はどこにあるとお考えですか?
松井 最大の理由は、キャッチコピーとしても掲げた「わけあって、安い。」ということです。もちろん、無印良品だけが安いわけでなく、各社のPBはナショナルブランド(NB)よろも3割ほど安かった。でも「安かろう、悪かろう」の商品が多かったんですね。当時は、お客様が自分の価値観で商品を選ぶ時代に入りつつありました。そんなニーズを先取りしたのが無印良品だったのです。ブランドを立ち上げる際、たどりついたのが「日本の文化の原点」でした。豪華絢爛な室町時代の文化から、装飾を全て削って生まれたのが茶道や能です。 非常にシンプルな造形や所作の中に、さまざまなものを包容する文化が生まれ、それは今も脈々と受け継がれています。この原点を見据え、「不必要なものを削りながら、品質は絶対に落とさない。100%の品質で他社の商品より3割安い」というコンセプトを貫いたわけです。
若松 「日本文化の原点」。先見力によるコンセプトで開発された「商品がブランド」が、物語として「ミッション(使命)」にまで昇華していますね。
松井 消費者の価値観も十人十色になっていたので、各社は細分化されたニーズに合わせて商品開発をしました。しかし、無印良品はその反対をいったのです。

株式会社良品計画 前代表取締役会長/株式会社松井オフィス 代表取締役 松井 忠三(まつい ただみつ)氏
1949年静岡県生まれ。73年東京教育大学(現筑波大学)卒業後、西友ストアー(現西友)入社。91年良品計画に出向、92年入社。総務人事部長、無印良品事業部長を経て2001年社長に就任。赤字状態の組織を風土から改革し業績のV 字回復を遂げる。08年会長就任、15年より名誉顧問。著書に『無印良品は、仕組みが9割』『無印良品の、人の育て方』(共に角川書店)ほか多数。
無印良品の商品コンセプトは優れていた。私がトップとして挑んだのは、 それらを磨き続けられる組織経営への大転換でした。 松井 忠三氏
陶磁器の皿を例にとりましょう。無印良品ですから、至ってシンプルなデザインです。これを、食事の皿として使う人もいれば、小物入れとして使う人もいる、灰皿として使う人もいる。それぞれの価値観で使う。それが無印良品の商品価値であり、消費者に受け入れられた理由の1つです。
若松 なるほど。消費者が商品用途を考えたわけですね。顕在化した消費者ニーズや用途だけではなく、それらを包み込む「シーズ(ニーズの種)としてホワイトスペース(未開拓マーケット)」を創造できたことが革新的だったのですね。
競争しない商品を絶え間なく開発する組織
若松 成功要因の2つ目に挙げられるのが「脱セゾン化」です。当時、良品計画はセゾングループの一員でした。グループから離れることは、思い切った方針転換だったと思います。
松井 セゾングループは百貨店と量販店を中心とした流通集団です。戦後、流通の中心にいたのは百貨店ですが、その後GMSの時代になり、大量仕入れ・大量販売を行うスタイルになります。そこからチェーン・オペレーションやセルフサービスというビジネスモデルが登場するわけです。一方、良品計画の無印良品は、SPAという新しいビジネスモデル。百貨店やGMSで育った人たちは、このモデルを理解できなかったのです。
若松 私はコンサルタントとして、チェーンストアと呼ばれる流通企業とSPA企業の両方をコンサルティングした経験があります。流通業は店舗から経営を発想しますが、一方、SPAは商品政策やマーチャンダイジングから発想します。両者は戦略や組織スタイルが全く異なるのです。
松井 故に、われわれは西武百貨店(現そごう・西武)や西友のビジネスの考え方から脱却せざるを得なかった。しかし、それが成功要因の2つ目になったのです。 3つ目が、「出店による商品開発のプルアップ」です。どういうことをするかというと、30坪でスタートした店舗を60坪、120坪、300坪と広げ、40品目でスタートした商品アイテム数も増やしていく。それによって拡大した収益で、さらなる新商品開発を行うわけです。
若松 商品開発力と店舗開発力が正比例する成長モデルの実現を狙ったわけですね。仕入れ商品がないから、商品開発力がなければ店舗はつくれない。「無印コンセプト」の商品アイテムそのものを、絶え間なく増やし続ける仕組みや組織が必要になります。
松井 その通りです。加えて4つ目の成功要因が、「生活雑貨拡大政策による差別化推進と成長」です。他のSPA 企業と競合しない生活雑貨の分野を選んだのです。
若松 SPAはアパレル(衣料分野)であることがほとんどです。SPAのパイオニアといえる米国のGAPもアパレルですし、日本のユニクロもしかり。その点、無印良品は「生活雑貨」というアパレル以外の分野で展開していった。そこも独創性ですね。5つ目の成功要因としては、「SPAによる高差益率」を挙げていらっしゃいます。
松井 実はSPAはハイリスク・ハイリターンのビジネスモデルです。通常、小売業は1000円の商品を売る場合、原価500円に卸売りのマージン150円を乗せた650円で仕入れます。利益は350円。一方、SPAは卸売りが介在しないため、利益に150円がプラスされて500円になる。売れると利幅は大きいのですが、売れないと在庫を抱えることになります。
若松 良品計画の2014年度の連結業績を拝見すると、売上高が約2600億円、経常利益は約266億円(2015年2月期)。粗利益率(営業総利益率)は50%近くあり、経常利益率が約10%。いわゆる流通企業モデルの常識では考えられないほど高い生産性です。
松井 百貨店やGMSは、それぞれが類似の仕入れ商品を売るので価格競争にならざるを得ない。結果、利益率も低くなりやすい。ところが、無印良品は全てがオリジナル商品ですから、そういった価格競争には陥らないわけです。
大企業病からの脱却仕組みの見える化を断行

若松 さて、無印良品の誕生から20 年が経過した2000 年に、業績が落ち込みました。そこで松井さんが組織改革に着手されたのですが、良品計画の中ではどんなことが起こっていたのでしょうか?
松井 簡単にいうと「大企業病」に陥っていたのです。組織も硬直化し、変化に対応できない体質になっていました。
若松 トップとして、経営者として松井さんが考え、実行したことを振り返っていただけますか?
松井 2つのことを行いました。1つは対症療法。38億円あった在庫を処分し、店舗を閉鎖、人員も整理しました。こうした痛みを伴う対症療法を行わざるを得なかったのです。しかし、人員整理だけでは企業を再生できません。復活するには、負けた構造から勝つ構造にしなければならない。そこで次に、1つずつ課題を検証していきました。
若松 なるほど、負けた構造はどこにあるのかを検証した結果、先ほどおっしゃった大企業病にたどりついたのですね。私自身も経営コンサルティングで300 社を超える企業再生を経験してきました。病気を治すだけではなく、健康で元気になってこそ、真の再生と呼べます。同じですね。
松井 無印良品というコンセプトは素晴らしいのですが、それを磨き続けるということをしていなかった。店舗数を増やして事業が拡大したように見えても、質を伴っていなかったのです。これを改善しない限り、復活はあり得ないという結論に至りました。
若松 松井さんの著書を拝読すると、そのころの良品計画は「経験主義」に陥っていたとあります。この経験主義とは、セゾングループの成功体験ということでしょうか?
松井 はい。経験は個人に帰属するので共有化が難しい。「見えない化」の代表選手ですね。そこで、経験主義を全て仕組みにして「見える化」に取り組みました。時代が変わったにもかかわらず、過去の経験主義でビジネスを行っていた企業風土を変えていったのです。
若松 その「見える化」が、店舗マニュアル「MUJIGRAM」(ムジグラム)などの取り組みにつながったのですね。
松井 ムジグラムは、新人アルバイトにも分かりやすい平易な言葉で書かれたマニュアルです。ディスプレーから接客、発注まで、店舗運営に関わる全てを網羅したもので、毎月更新しています。これにより、個人の経験に関係なく、質の高い業務を遂行できるようになりました。 またマーケティング面では、「声ナビ」という仕組みを開発しました。例えば、無印良品の詰め替え用ペットボトルには、中身が見えないもの・半透明・透明の3 種類があります。さらに3 色の識別リングを用意し、容器に付けておけば中身がすぐに分かるよう工夫しています。 この商品に対し、お客さまから「『シャンプー』と印刷してある容器の方が便利だ」という声があったとします。すると、そのご意見と社内からの意見の両方を「声ナビ」というイントラネットで共有し、反映するか否かを決定するのです。つまり、顧客の声と社内の声から商品開発を進める。こうした仕組みづくりをしていったんですね。
若松 顧客の声を商品開発に役立てる。これは流通、小売業ではなくメーカー発想であり、店舗を持つSPAの強みを最大限に生かした仕組みといえます。
松井 ただ、お客さまの声だけではニーズを取ることはできません。つまり、顧客自身も気付いていないニーズを捉えた商品開発に結び付きづらい。 そこで取り入れたのが、「オブザベーション」という方法です。お客さまのお宅を訪問し、生活の様子を全て写真に撮らせていただく。すると、例えば浴室に異なるブランドのシャンプーやリンス、ボディーソープが、棚からはみ出さんばかりに並んでいるわけです。こうした商品の容器は、店頭で消費者の目を引くために個性的なデザインばかりですが、生活シーンでは収納しやすい角型の形状が便利。そこで、無印良品はスッキリと収納できる角型の容器を提供する。これがオブザベーションによる新商品開発スタイルです。

株式会社タナベ経営 代表取締役社長 若松 孝彦(わかまつ たかひこ)
タナベ経営のトップとしてその使命を追求しながら、経営コンサルタントとして指導してきた会社は、業種を問わず上場企業から中小企業まで約1000 社に及ぶ。独自の経営理論で全国のファーストコールカンパニーはもちろん金融機関からも多くの支持を得ている。関西学院大学大学院(経営学修士)修了。1989 年タナベ経営入社、2009 年より専務取締役コンサルティング統轄本部長、副社長を経て現職。著書『100 年経営』『戦略をつくる力』『甦る経営』(共にダイヤモンド社)ほか多数。
SPAの多くはアパレルが主流。 良品計画は生活雑貨を中心に幅広い商品開発を手掛けた。 特筆すべきビジネスモデルですね。 若松 孝彦
常に変化し続ける企業風土をつくることが大切
若松 現在、良品計画は海外進出も積極的に行っています。そのビジネスモデルにおいてもモデル企業であると感じます。
松井 国内に約400店舗、海外に約300店舗があります。年間出店数は国内が20、海外は60ぐらいです。2年後には、双方とも470~480店舗ほどを目指しています。 ただし、ひと口にグローバル市場といっても、画一的な市場が広がっているわけではありません。中国には中国独自の市場がありますし、イタリアもそう。つまり、さまざまなローカルマーケットがたくさんあるのが海外市場です。各国の市場特性を踏まえることが成功のポイントになるでしょう。
若松 「グローバル」という市場はなく、「ローカル」「地域密着」の積み上げが、結果としてグローバル企業をつくるのですね。 最後に、松井さんは、これまで社長、会長、そして現在の立場に至る過程で承継も経験されました。100年、200年と続く企業にすることは経営者にとって重要な仕事です。承継の秘ひ 訣けつに関して、松井さんの見解をお聞かせいただけますか?
松井 経営者は、とかく自分と相性の良い人を後継者に指名しがちです。しかしそれよりも、会社や組織をより良く成長させることができる人物を選ぶべきです。相性優先で選ぶと、自分の7掛け」の人を選んでしまう(笑)。それでは会社が発展する可能性や確率が下がります。いずれにしても、変化し続ける風土をつくることを念頭において、仕組みづくりや後継者選びを行っていただきたいですね。それが100年企業になる前提であり、タナベ経営が提唱される「ファーストコールカンパニー」への第一歩にもなるのではないでしょうか。
若松 変化し続ける風土づくりを継続するには、仕組みと人材の両輪が必要だということですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。
これからの経営の在り方=3M
山村 隆
『FCC REVIEW』新装刊に寄せて、これからの経営パラダイム(ものの見方・考え方、思考の枠組みのこと)について考えてみたい。
筆者が最近、特にコンサルティングの現場で感じるのは、理念・ビジョンの実現(本稿では「ミッション」として表記)と利益は企業経営の両輪だということである。そして、この両輪を回すためにマーケット(市場)との向き合い方を変えなければ、旧態依然とした経営体質から脱せず、顧客視点を失い、将来への不安だけが募るという悪循環に陥ってしまうケースがあまりにも多い。 この解決策は、「3M」による新たなパラダイムの実現しかないと筆者は考える。3M とは、ミッション(Mission)、マーケティング(Marketing)、マネジメント(Management)の頭文字を取ったものである。
ゴールは、ミッションへ
【図表1】をご覧いただきたい。
これまでの経営パラダイムは、KGI(Key Goal Indicators:重要目標達成指標)やKPI(KeyPerformance Indicators:重要業績評価指標)のような「定量的な目標」を設定。進捗をマネジメントし、その実現のためにマーケティングやセールス、そしてそのサポート活動を行ってきたといえる。
しかし、これからはミッション実現のために、考え方そのものの再構築が求められる。なぜなら、ミッションとは顧客や社会に対する「約束」だからだ。 もし売上げだけを上げればよいなら、成長市場に参入し、競合以上のことをやれば売上げや利益は確実に上がる。しかしそれをしないのは、企業に使命があるからだ。やるべきことがあるからだ。
加えて、社員も「利益○○%、売上高○○億円目標!」といわれて「燃える」時代ではなくなっている。皆「より社会を良くしたい、何かを成し遂げたい」と願っているのだ。 モノが売れず、答えもない大変な時代だが、高度経済成長を経て、わが国の経済をここまでけん引してくれた先達がいるからこそ、本質的なことを考えられるようになった幸せな時代であるともいえるだろう。
マネジメントは優先順位の最下へ
「3M 経営」実現のために次にすべきことは、旧来の経営パラダイムにおけるマネジメントの位置付けを変えることである(ここでいうマネジメントは広義の「経営」ではなく、狭義の「目標の設定と進捗の管理」という意)。
これまでは、目標を設定してその進捗を追うというスタイルだったが、これからは「どうすればそれが達成できるのか?」「ミッションに照らし合わせて今何をすべきか?」とビジョンや具体策を打ち出せるスキルこそが求められる。進捗を追うことは、システムやExcel などの表計算ソフトにやらせておけばよい。
そこで重要になるのは、やはり「マーケット=マーケティング」である。マーケティングとは理想の顧客と自社との接点(コミュニケーション)を設計することであり、売上げが上がる仕組みづくりであるといえる。そのため、マーケティングの進捗こそが管理されるべきなのだ。よって、狭義のマネジメントはその下にこなければならない。
「1億円を100億円にしてくれ」といわれて「はい。できました」とはならないように、数字自体をマネジメントすることはできない。その数字をつくっている思考・行動しかマネジメントできないのである。だから、数字ではなくマーケットとの関わり方を管理しなければならないのだ。
商品や開発も、3Mへ
当然だが、ミッション実現のためのマーケティングを行うに当たり、商品やサービス開発の考え方も変わってくる。
前頁【図表1】のように、これまでは製品をつくれば売れる時代の「つくる側視点」に立った「プロダクトアウト」だったが、逆に「市場や顧客視点」で考える「マーケットイン」が重要だという時代へ移り変わったのはご存じの通りである。
しかし、結果として現在はつくるだけでは売れず、また顧客の声も万能ではない。どれだけ市場調査を行い、顧客視点に立ったとしても売れず、さらに顧客自身も欲しいものが明確ではないため、顧客の声ばかり聞いていても、期待したようなイノベーションが起きない。企業も発展しない。そんな八方塞がりの状況になっているのではないだろうか。 そこで提唱したいのが2 つ目の3M、「Mission Meets Market=自社のミッションと市場との接点」という考え方である(【図表2】参照)。自社があるべき姿を実現でき、それを求める市場があれば、「試行錯誤する覚悟」ができるからだ。
マーケティングプロジェクトに入ると、コンサルティング先の企業から「それは必ず結果が出るのか?」と聞かれる。筆者は自信を持って即答する。「分かりません」と。そんなものがあるなら、皆やっている。そして、そんなものは存在しない。
顧客・競合・社会は変わり続けるからだ。
だからこそ、筆者は続ける。
「今考え得るベストはこれだ。 試す価値がある」と。結局、自社や市場・競合の動きを見ながら調査・検討を続け、ミッションを信じてマーケットに提案し続けることでのみ、成功への扉は開ける。 そして、われわれは常に答えのない中で知恵と努力を結集し、どこかにあるティッピングポイント(沸点という意味から転じて「爆発的に成功するポイント」)を探し続けることしかできないのだ。
だからこそ、ミッションを全ての中心に据えた、新たな経営パラダイムを実現しなければならない。
著者プロフィール
山村 隆 Takashi Yamamura
タナベ経営 コンサルティング戦略本部 部長代理
中堅・中小企業へのマーケティングや人事制度構築のコンサルティングを展開。「経営は関わる人を幸せにする仕組みづくり」をモットーに、クライアントの特性に応じたシステムを導入している。特にインターネット(オンライン)とリアル(オフライン)を融合した泥臭いマーケティングコンサルティングや人事コンサルティングが持ち味。

山村 隆
『FCC REVIEW』新装刊に寄せて、これからの経営パラダイム(ものの見方・考え方、思考の枠組みのこと)について考えてみたい。
筆者が最近、特にコンサルティングの現場で感じるのは、理念・ビジョンの実現(本稿では「ミッション」として表記)と利益は企業経営の両輪だということである。そして、この両輪を回すためにマーケット(市場)との向き合い方を変えなければ、旧態依然とした経営体質から脱せず、顧客視点を失い、将来への不安だけが募るという悪循環に陥ってしまうケースがあまりにも多い。 この解決策は、「3M」による新たなパラダイムの実現しかないと筆者は考える。3M とは、ミッション(Mission)、マーケティング(Marketing)、マネジメント(Management)の頭文字を取ったものである。
ゴールは、ミッションへ
【図表1】をご覧いただきたい。
これまでの経営パラダイムは、KGI(Key Goal Indicators:重要目標達成指標)やKPI(KeyPerformance Indicators:重要業績評価指標)のような「定量的な目標」を設定。進捗をマネジメントし、その実現のためにマーケティングやセールス、そしてそのサポート活動を行ってきたといえる。
しかし、これからはミッション実現のために、考え方そのものの再構築が求められる。なぜなら、ミッションとは顧客や社会に対する「約束」だからだ。 もし売上げだけを上げればよいなら、成長市場に参入し、競合以上のことをやれば売上げや利益は確実に上がる。しかしそれをしないのは、企業に使命があるからだ。やるべきことがあるからだ。
加えて、社員も「利益○○%、売上高○○億円目標!」といわれて「燃える」時代ではなくなっている。皆「より社会を良くしたい、何かを成し遂げたい」と願っているのだ。 モノが売れず、答えもない大変な時代だが、高度経済成長を経て、わが国の経済をここまでけん引してくれた先達がいるからこそ、本質的なことを考えられるようになった幸せな時代であるともいえるだろう。

マネジメントは優先順位の最下へ
「3M 経営」実現のために次にすべきことは、旧来の経営パラダイムにおけるマネジメントの位置付けを変えることである(ここでいうマネジメントは広義の「経営」ではなく、狭義の「目標の設定と進捗の管理」という意)。
これまでは、目標を設定してその進捗を追うというスタイルだったが、これからは「どうすればそれが達成できるのか?」「ミッションに照らし合わせて今何をすべきか?」とビジョンや具体策を打ち出せるスキルこそが求められる。進捗を追うことは、システムやExcel などの表計算ソフトにやらせておけばよい。
そこで重要になるのは、やはり「マーケット=マーケティング」である。マーケティングとは理想の顧客と自社との接点(コミュニケーション)を設計することであり、売上げが上がる仕組みづくりであるといえる。そのため、マーケティングの進捗こそが管理されるべきなのだ。よって、狭義のマネジメントはその下にこなければならない。
「1億円を100億円にしてくれ」といわれて「はい。できました」とはならないように、数字自体をマネジメントすることはできない。その数字をつくっている思考・行動しかマネジメントできないのである。だから、数字ではなくマーケットとの関わり方を管理しなければならないのだ。
商品や開発も、3Mへ
当然だが、ミッション実現のためのマーケティングを行うに当たり、商品やサービス開発の考え方も変わってくる。
前頁【図表1】のように、これまでは製品をつくれば売れる時代の「つくる側視点」に立った「プロダクトアウト」だったが、逆に「市場や顧客視点」で考える「マーケットイン」が重要だという時代へ移り変わったのはご存じの通りである。
しかし、結果として現在はつくるだけでは売れず、また顧客の声も万能ではない。どれだけ市場調査を行い、顧客視点に立ったとしても売れず、さらに顧客自身も欲しいものが明確ではないため、顧客の声ばかり聞いていても、期待したようなイノベーションが起きない。企業も発展しない。そんな八方塞がりの状況になっているのではないだろうか。 そこで提唱したいのが2 つ目の3M、「Mission Meets Market=自社のミッションと市場との接点」という考え方である(【図表2】参照)。自社があるべき姿を実現でき、それを求める市場があれば、「試行錯誤する覚悟」ができるからだ。

マーケティングプロジェクトに入ると、コンサルティング先の企業から「それは必ず結果が出るのか?」と聞かれる。筆者は自信を持って即答する。「分かりません」と。そんなものがあるなら、皆やっている。そして、そんなものは存在しない。
顧客・競合・社会は変わり続けるからだ。
だからこそ、筆者は続ける。
「今考え得るベストはこれだ。 試す価値がある」と。結局、自社や市場・競合の動きを見ながら調査・検討を続け、ミッションを信じてマーケットに提案し続けることでのみ、成功への扉は開ける。 そして、われわれは常に答えのない中で知恵と努力を結集し、どこかにあるティッピングポイント(沸点という意味から転じて「爆発的に成功するポイント」)を探し続けることしかできないのだ。
だからこそ、ミッションを全ての中心に据えた、新たな経営パラダイムを実現しなければならない。
著者プロフィール
山村 隆 Takashi Yamamura
タナベ経営 コンサルティング戦略本部 部長代理
中堅・中小企業へのマーケティングや人事制度構築のコンサルティングを展開。「経営は関わる人を幸せにする仕組みづくり」をモットーに、クライアントの特性に応じたシステムを導入している。特にインターネット(オンライン)とリアル(オフライン)を融合した泥臭いマーケティングコンサルティングや人事コンサルティングが持ち味。

日本郵便株式会社、幼稚園の園長先生方、タナベ経営をプロジェクトメンバーに開発された、幼稚園児を対象としたプロモーション・プログラム「おてがみごっこあそび」。
2014年度は、約120の幼稚園でプログラムが導入、実施されました。プロモーションの目的、手応え、今後の展望をプロジェクト・リーダーである 日本郵便株式会社 切手・葉書室 担当部長 山下健一郎氏にうかがいました。

(左)日本郵便株式会社 本社 切手・葉書室 担当部長 山下 健一郎 氏
(右)タナベ経営 SPコンサルティング本部長・SP営業本部長 島田 憲佳
はがき・手紙離れの現状
現在、日本郵便が国内で扱う郵便物数は、およそ220 億通程度です。年々、数億枚ずつ減少しており、皆様も実体験として感じていらっしゃるかと思いますが、手紙や郵便に触れる機会は確実に減ってきています。2014 年度、5,000 人規模のインターネット調査を実施したところ、手紙を書いていない、触れることのないという方が、約半数に達していました。
手紙、書くことの魅力とは
要件を伝えるということにおいては、パソコンやスマートフォンの方が優れているという認識はありますが、一方、手紙がもつ魅力というのは、ライフスタイルや季節感に応じたやりとり、手紙でしか伝えられない特定の相手に対する想い、近況の報告といったところにあると考えています。私たちは、手紙のやりとりを通じて皆様に、文字や絵を伝えることを楽しみ、喜びを感じていただく、また、実際に生活に活かしていただくということを支援している企業ですので、手紙の流通量の減少という課題に対しては、日々、様々な部署で取り組みを行っています。
これまでの取り組み
日本郵便では、過去5年ほどにわたり、小学校、中学校、高等学校を対象としたプロモーションを実施してきました。それぞれ教材を用意し、授業の中で、手紙のやり取りを勉強していただいていますが、現在、小学校では約半数、中学校では約1/4、高等学校では約17%の学校で採用していただいています。そうした中、2014 年度の段階で、幼児と大学生を対象としたプロモーションは未着手の状態でした。
幼稚園児に向けたプロモーションの意味
私自身、日頃、仕事などを通じて若い方々と接する中で、小さい頃から手紙や書くことに親しんでこられた方とそうでない方とでは、コミュニケーションのとりやすさに違いを感じることがあります。また、企業の方からも、新入社員の方々の手紙や郵便にまつわるトラブルのお話を耳にすることがあります。こうしたトラブルも、手紙や書いて伝えるということへの経験の不足が大きな原因となっています。そこで、時間がかかる話ではありますが、より小さな頃から、手紙を書くこと、書いて伝えること、相手に伝わることを楽しい、好きだと感じられるような環境づくりをすること、また、それを継続的に経験していける仕組みをつくることが大切だと考えています。
タナベ経営を選んだ理由
幼児を対象としたプロモーションに取り組むことになりましたが、そもそも私たちは、幼稚園がどういうところなのか、園児の皆さんがそこでどのように過ごしているのかもよく知らないような状態でした。そうした中で、東京都幼稚園連合会さんとのつながりもあるタナベ経営さんと一緒に、現役の園長先生たちと直接お話をさせていただきながら、幼児を対象としたアプローチを考え、プログラムの開発を行うことができるということが大きな魅力に感じました。
プロジェクトの進め方
まずは、実際に幼稚園にうかがい、先生方のお話を聞かせていただいたり、園児たちの様子を見学させていただいたりするところからはじめました。その中で、今回の「おてがみごっこあそび」というプロジェクトにおいては、園児たちの間で「ごっこあそび」がどのように発生するのかを知ることも貴重な経験でした。プロジェクトのメンバーである園長先生とタナベ経営さん、私たち日本郵便とで定期的に話し合いを重ね、どういった「おてがみごっこあそび」が最も効果的なのか、また、どうすれば園児全員に参加してもらえるような環境や仕組みをつくることができるのかを考えていきました。
幼稚園からの評価
初年度となる2014 年度は、約120 の幼稚園で実施していただきました。各幼稚園に「おてがみごっこあそび」用のキットをお配りしたのですが、その中には、郵便屋さんの帽子やお手紙バッグ、日常手に入りづらい消印スタンプや切手風に紙を切り抜けるクラフトパンチなどが入っています。タナベ経営さんにつくっていただいた小さなお手紙バッグも、園児にはぴったりの大きさでした。帽子もとても楽しそうにかぶっていましたね。園児にとっては、リアル感が大事だということで、こうしたなりきりツールのご提供は、幼稚園の先生方からも好評をいただきました。

子どもたちにも変化が
「おてがみごっこあそび」を通じて、子どもたちが、文字に興味をもったり、気持を込めて書くようになったりという声も寄せられています。さらに、手紙を書いた後、お家に帰って、切手を貼って、また持ってきたというお子さんもいらっしゃったようで、そういうお話を聞くとうれしいですね。こうしたことからも、手紙を身近に感じられる環境をつくることが、いかに⼤事かということを実感しています。
改めて気がついた手紙の力
日本郵便内のプロジェクトメンバーからも「当初は、手紙を通じて、子どもたちに楽しく、仲良く遊んでもらおうという発想でしたが、幼稚園の先生方から、教育的観点から見た「おてがみごっこあそび」のお話を聞かせていただくことで、文字を書く、相手を思う、相手が喜ぶことを想像するということ、さらに、郵便屋さんになりきって遊ぶという意味では、人の役に立つ、役割を果たすことで自身を持つなど、手紙が持っている要素の幅の広さを改めて知ることができました」との声も聞かれています。
今後の展開とタナベ経営に期待すること
幼稚園、保育園、幼保園は、全国で37,000カ所と非常に設置数が多く、この取り組みをいかに拡げていくかということが大きな課題のひとつではありますが、2015 年度は、新たに1,000 ~ 3,000 カ所といった規模感で展開していきたいと考えています。その中で、タナベ経営さんには、幼稚園や保育園とのネットワーク、豊富な知識やノウハウを活かして、新たな取り組み方法や企画をご提案いただけることに期待しています。

IMPRESSIONS

- タナベ経営 SP コンサルティング本部長・ SP 営業本部長
島田 憲佳Kazuyoshi Shimada
100 年先にも顧客に一番に選ばれる商品・サービスの提供。この点において未来の消費者の創造はなくてはならないものです。 今回のプロモーションではデジタル化により大きく変化するコミュニケーションマーケットにおいて、"手紙"というアナログコミュニケーションの良さを次世代の消費者へ伝える効果的なプロモーションの展開支援を担当させていただきました。