企業と進むべき方向性と業界特性を踏まえた制度設計をする。
商社における人事制度の重要性
昨今、人的資本経営に注目が集まっています。人的資本経営とは経済産業省によると、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」として定義しております。
これまでは、企業は有形固定資産を通じて価値を生み出しており、人材は「人的資源」と呼ばれていました。つまり人件費(資源)=コストとして捉えられ、いかに低コストで一定のアウトプットを生み出すことができるか、ということを主軸に考えられていました。
しかし、モノを作れば売れるという時代は終焉を迎え、仕事や業務を通じて培われる能力に加え、クリエイティブな能力や先読みする力など求められる能力に変化しつつあります。
つまり、人材そのものが価値(スキルや専門性)を発揮するようになり、「人的資源」から「人的資本」へと考え方が変わり、人材の価値を最大限に引き出す重要性が高まっています。
商社業界においても、人的資本経営への取り組みは欠かせません。
通信技術の発達により、製造業が直接消費者に商品を販売するチャネルを持つようになったり、小売業が販売データを活用し、自社ブランドでの商品開発を行ったりといったことが増えてきました。
そのような環境下では、社員1人1人が提供価値を考え抜き、社会や顧客に貢献できる自社の強みを訴求していく役割が求められています。
当コラムでは、商社において、社員のエンゲージメントを高め、主体的、能動的な活躍を引き出すための人事制度設計のガイドラインをお示し致します。
効果的な人事制度構築の基本原則
人事制度において、効果を発揮するための基本原則は、企業としての方向性に一貫性があるかという点です。
価値判断システムとは、会社として何を大事にするかを言葉にしたものです。人材育成システムは、人事フレーム(等級制度)を中心に、評価制度、賃金制度があり、昇格昇進制度と連動し、教育制度に落とし込まれ、中期・年度教育方針、年間の教育計画に繋がります。
この人材育成システムと、価値判断システムを連動させるために重要なのが、人事戦略(人事ポリシー・人材ビジョン)です。理念・ビジョンを起点とし、事業・経営戦略の実現に必要な人材像を再定義することがポイントとなります。
商社における業界特性を踏まえた人事制度の方向性
商社の業種特性を踏まえた人事制度の構築ポイントを4つ紹介します。
1.経営(マネジメント)に対する意識を醸成する
商社では、「起業家精神」や、「挑戦意欲」を持った人材を求め、評価されやすい傾向にあります。重要なことですが、そのようなフロンティアを開拓していく意識のみならず、後進の育成や組織への貢献意識も重要です。我々が支援している大阪のある商社の社員にインタビューを行ったところ、「売上を上げる人が昇進している傾向にあり、部下のマネジメントや売上以外の組織貢献力が不足している人材も役職者に昇進している。」といった声を聞きます。組織として成長をしていくために、マネジメントへの意識を醸成することが重要です。
2.役割を軸にした制度を検討する
扱う商材やラインナップが多く、また時代と共に変化していきます。商品知識に詳しいことや、特定の業務遂行能力が高いことをもって評価をするのではなく、求められている役割を果たすことをもって評価する制度を検討いただきたいです。
3.職種特性に応じた人事フレーム(等級制度)を設計する
商社の特徴として、営業や管理部門に加えマーケティング、貿易実務や、製造機能を持つ場合は製造職など、職種特性が多様なことが挙げられます。それぞれの職種特性に応じて求める役割を定めた人事フレームを設計するケースが多いです。
4.利益の増減が激しいことを考慮した制度とする
商社は、外部環境の影響を受けやすく、利益の増減が激しい業界です。そのため、利益を基準にした評価を昇進や昇格に用いると、キャリアに与える運の要素が大きくなってしまいます。そのため、業績連動賞与を取り入れ、利益の還元は賞与で実施、昇進や昇格の評価は別の観点で実施、といったことを検討します。
さいごに
本コラムでは、商社のための効果的な人事制度設計ガイドラインをお示ししてきました。
重要なのは、経営戦略の実現に向けたあるべき姿と現状の人材課題とのギャップを踏まえた制度設計をすることです。当コラムが、社員のエンゲージメントを高め、主体的、能動的な活躍を引き出すための人事制度設計の一助になれば幸いです。