適正価格の再設定と価格転嫁を実現させながら、
働くドライバーの士気を向上させる評価制度・賃金制度へ
運送業(物流業)を取り巻く環境
2024年問題でクローズアップされている運送業(物流業)。
自動車運転業務(トラックドライバー等)の時間外労働の上限規制により、年間の時間外労働時間上限が1,176時間から960時間になった。
時間外労働の給与の割増率が月60時間を超える分には25%から50%以上に引き上げられたことと併せて、運送業にとって大きなコストインパクトとなっている。
異業種においても物流機能を持つ企業が増え、世の中のあらゆる産業や多くの消費者にとっても欠くことのできない存在となっている。
しかし、当の運送業(物流業)は常にサービス・品質の向上を求められ、さらに原油価格の高騰、人材不足等、取り巻く環境は、ますます厳しくなってきている。今や生き残りをかけた価格転嫁を余儀なくされている。
運送業(物流業)に評価制度が求められる理由
先述の環境下、さらに各社にとって避けられないHR領域の課題がある。
全日本トラック協会資料を参考に、以下に6点記す。
(1)ドライバー不足・若年労働者不足への対応
(2)ドライバーの待遇改善
(3)週休2日制の導入、有給休暇の取得促進
(4)賃金体系の見直し(全産業平均並の賃金の実現)
(5)キャリアパスの明示
(6)女性、高齢者が働きやすい職場づくり
これらの厳しい経営環境を打破するために、運送業各社の取り組むべき課題は多く、コスト削減、業務の効率化、品質の向上、システムの構築等、さらに最近では業務形態の多様化による請負業務・派遣業務等、これらに関わる社員の処遇及び育成に至るまで、多岐にわたる。
運送業(物流業)の評価制度の設計ポイント
評価制度と賃金制度に分けて、それぞれ構築ポイントを詳述する。
(1)評価制度の設計ポイント
そもそも運送業(物流業)は、一般的に以下の職種を抱えていることが多い。
職種別においては、ドライバー業務、運行管理業務、倉庫業務、営業業務、事務業務など多岐にわたる。
会社における貢献度合いを測る指標も当然に異なる。
評価項目については、貢献(成果)、姿勢・態度(情意面)、発揮能力に集約されることが多く、筆者のご支援している先の運送業においても同様である。
ここでは、最も主要な職種として、ドライバーの評価について触れる。
ドライバーは職種特性上、保有する運転免許と乗車できる車両の種類によって運ぶことのできる物量が大きく異なる。その意味で、貢献(成果)は乗車車両によって生産性が変わる。
姿勢・態度については、①業務姿勢、②無事故無違反、③誤納・遅配・ミスの有無、④経費節約、⑤デジタコ管理、⑥車両・キャビンの美化(点検・維持管理)であり、客観的な評価が比較的実施しやすい。
また、ドライバーの経験や貢献等を踏まえ、複数の職位を設けることでより階層に合ったレベルでの評価を実現しやすい。
(2)ドライバーの評価制度(メリット・デメリット)
①メリット
・ドライバーのモチベーションが向上する
・生産性が高まる
・会社の理念が浸透する
・安全運転意識が向上する
・会社の評価が高まる
・人材育成に役立つ
②デメリット
・評価者のスキルが求められる
・手間や労力がかかる
・自社でしか活躍できないドライバーが育ってしまう
・ドライバーのモチベーション低下が起こる可能性がある
運送業(物流業)の賃金制度の設計ポイント
(1)賃金制度の設計ポイント
従来の日本型雇用の代名詞であった年功序列の考え方は、年齢や勤続年数などの経年で昇給する要素や、直接仕事と関わりのない扶養家族・住居・居住地域等の属人的要素を組入れた賃金設計であったが、昨今では従来の要素からより貢献や成果、発揮能力に重点をシフトするケースが多く見られるようになった。高度成長期のような右肩上がりの景気が期待できない経営環境では、個人の会社に対する貢献度や能力に応じた賃金体系によって、適正な人件費分配の実現を図るとともに、企業体質変革が不可欠だ。しかし、先の属人的要素が全く機能しないということではない。複数で取り組む作業が多い職種や、経験年数とスキルの習熟度が影響する職種などは、勤続給や年齢給等の年功給を活用し、個々の成長に合ったハイブリッドな賃金体系を組むことが実用的である。
特に、運送業(物流業)においては、ドライバーの人手不足と労働時間の制約が深刻である中において、ドライバーの賃金体系をいかに魅力的かつ柔軟に設計できるかということは、各社における最重要課題とも言える。
①ドライバーの賃金制度設計
以下は、ドライバーの賃金制度設計の一例である。
a.年功給要素に能力要素を組み入れる場合
具体的には、年齢給、勤続給といった年功給を維持しつつ、その支給構成比を縮小しつつ、新たに能力給を導入するタイプ。
b.業績給等のインセンティブ形式
このタイプは成果志向のドライバーに適した仕組みである。運転業務におけるコストパフォーマンスを定量評価し、ダイレクトに賃金と連動させることで、優秀な社員のモチベーションアップに繋げる狙いがある。
c.ドライバーのレベルや階層によって昇給・賞与にメリハリをつける
昇給・賞与のメリハリは、人事考課によって職位や階層にランク付けをする仕組み。メリハリの大きさは、業績・成果責任の明確な管理職は大きめに設定し、一般社員は小さく設定する。
まとめ
運送業(物流業)にとって取り巻く環境はますます厳しい状況にあり、人手不足という企業存続を左右する大きな課題に向き合いながら、各社は安全・安心なサービス提供が常に求められている。改めて、適正価格の再設定と価格転嫁を実現させながら、働くドライバーの士気を向上させる評価制度・賃金制度の再構築を検討されたい。
この課題を解決したコンサルタント
タナベコンサルティング
HRコンサルティング事業部
エグゼクティブパートナー松本 宗家
- 主な実績
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- 上場建設業の人事制度構築支援
- 上場製造業の次世代幹部育成・ジュニアボード運営支援
- 中堅企業の中期ビジョン策定
- 卸売業、サービス業、建設業、製造業の社内アカデミー構築& 人材育成支援